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記念の髪飾り
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キャスリンはスティーブの手を取ってスキップでもするではと思うほど軽やかに歩いている。
横でそんなキャスリンの様子を見ていたスティーブはほっとした。昨日転移してきたときには、犬の姿にもかかわらずなぜかすごく疲れ切っているように見えたのだ。しかし今のキャスリンは、顔色もよくとても楽しそうで12歳という年相応の顔をしている。
初めて12歳のキャスリンを見た時には、生気がなく本当に幽霊かと思った。どことなく人生に疲れ切った顔をしており、話を聞く前にもかかわらずスティーブは、そんなキャスリンを見て胸が痛くなった。今日という日がキャスリンにとって大切な思い出となるような日になればと思ったスティーブだった。
「ねえもうすぐ?」
キャスリンの言葉にはっと我に返ったスティーブは、すぐ前にその店を発見してキャスリンに指さした。
「ここ?」
キャスリンが目を輝かせる。そのお店もたくさんの人が並んでいた。キャスリンとスティーブも並ぶ。キャスリンはその食べ物をもっている人とすれ違うたび目を凝らしてその食べ物をじっくりと見ていた。
「ねえ、あれは何?」
「食べてみてからのお楽しみだよ」
キャスリンはワクワクしていた。とっても香ばしい匂いがする。自分の番になってお店の人に温かいふわふわしたものをもらった。スティーブもキャスリンの分と合わせてお金を払い自分の分ももらう。
「またかぶりつくんだよ」
そういってスティーブは大きく口を開けてかぶりついた。キャスリンも真似してかぶりつく。パンのようなものに挟まれていたのは、濃い味のついたお肉だった。肉汁がパンのようなものにしっかり吸われていて、それがよくマッチしていておいしかった。
「おいしい!」
スティーブがキャスリンを見ると、キャスリンの口の周りは肉汁まみれになっていた。キャスリンはそれを気にもせずというかそんなことになっているとも知らず、パクパクと食べている。
キャスリンが食べ終わると、もうすでに食べ終わっていたスティーブに口の周りと手をしっかり拭かれた。
「ありがとう」
キャスリンが恥ずかしそうに言うとスティーブが言ってきた。
「妹の面倒を見るのは兄の役目だからね」
スティーブがまじめに言ったので、キャスリンはおもわず笑ってしまい、それにつられてスティーブも笑った。二人はそのあと、のどが渇いたのでジュースを買ってふたりで分けあって飲んだ。ちょっと甘くておいしかった。
キャスリンはお腹もいっぱいになって、今度は雑貨屋さんを見て歩くことにした。キャスリンは、いろいろなネックレスや髪飾り、イヤリングなどが売っている店を見つけた。
ふたりでながめていると、店の人がキャスリンが腕にはめている腕輪を見て、店に飾ってある中から一つの髪飾りをとって言ってきた。
「お嬢さん、この髪飾りその腕輪とおそろいに見えるよ。どうだい?」
キャスリンがその髪飾りを受け取ってみると、腕輪ほど繊細ではなかったが、きれいな花の模様の細工が施してあり花の真ん中に黄色の石がはめ込まれている。
「わあ~かわいい!」
キャスリンはその髪飾りを手の中で転がして何度も見た。
「おじさん、これいくら?」
「あっこれ、20シルでいいよ」
「そんな安くていいのかい?」
「ああ」
「じゃあ、これをもらおう」
スティーブはそういって店の人にお金を渡した。
「袋に入れるかい、お嬢さん」
「いいえ、そのままでいいわ。ありがとう」
キャスリンはそのまま手にもっていることにした。ふたり店を後にする。
ふたりが店を後にすると、店の主人がはっとした。
「あれ、今何売っていたんだっけ。確か髪飾りを売ったような。あんなもの、うちにあったっけかな」
店の主人はまるで狐に包まれた気分になった。その時キャスリンの手の中で、髪飾りの黄色い石がキラッと光ったことに誰も気づかなかったのだった。
キャスリンとスティーブは広場に来た。噴水があり、ちょうどそのそばにあるベンチにキャスリンは座った。
「ねえ、この髪飾り高くなかった?」
「いや、安かったよ。びっくりするぐらいに。さっき飲んだジュースと同じ値段だったから」
「そうよかった。それにしてもきれいね」
キャスリンは手に持っていた髪飾りを空に掲げて見せた。その髪飾りは真っ青い空のなか太陽の光に黄色い石がキラキラ輝いてとてもきれいだった。
「髪につけてみる?」
「うん」
そういってキャスリンはスティーブにその髪飾りを渡した。スティーブは丁寧に髪にその髪飾りを付けてくれた。
「似合う?」
「うん、とっても」
キャスリンはうれしかった。今日の楽しかった記念だ。これからいつもこの髪飾りを見るたびに思い出すことができる。
2人はそのあともいろいろ店を見て回って歩いた。
気が付けば先ほどまで明るかった空は、少しずつオレンジ色に変わってきて次第に暗くなってきた。
「お兄ちゃん、今日はありがとう」
「どういたしましてキャス」
ふたりは先ほど転移した路地にやってきた。キャスリンは転移しようと目を閉じた。その時ふと額に何かやわらかいものが当たった。気づいた時にはキャスリンは自分の部屋に戻っていた。
ただ髪には確かにスティーブからもらった髪飾りがついていたのだった。
横でそんなキャスリンの様子を見ていたスティーブはほっとした。昨日転移してきたときには、犬の姿にもかかわらずなぜかすごく疲れ切っているように見えたのだ。しかし今のキャスリンは、顔色もよくとても楽しそうで12歳という年相応の顔をしている。
初めて12歳のキャスリンを見た時には、生気がなく本当に幽霊かと思った。どことなく人生に疲れ切った顔をしており、話を聞く前にもかかわらずスティーブは、そんなキャスリンを見て胸が痛くなった。今日という日がキャスリンにとって大切な思い出となるような日になればと思ったスティーブだった。
「ねえもうすぐ?」
キャスリンの言葉にはっと我に返ったスティーブは、すぐ前にその店を発見してキャスリンに指さした。
「ここ?」
キャスリンが目を輝かせる。そのお店もたくさんの人が並んでいた。キャスリンとスティーブも並ぶ。キャスリンはその食べ物をもっている人とすれ違うたび目を凝らしてその食べ物をじっくりと見ていた。
「ねえ、あれは何?」
「食べてみてからのお楽しみだよ」
キャスリンはワクワクしていた。とっても香ばしい匂いがする。自分の番になってお店の人に温かいふわふわしたものをもらった。スティーブもキャスリンの分と合わせてお金を払い自分の分ももらう。
「またかぶりつくんだよ」
そういってスティーブは大きく口を開けてかぶりついた。キャスリンも真似してかぶりつく。パンのようなものに挟まれていたのは、濃い味のついたお肉だった。肉汁がパンのようなものにしっかり吸われていて、それがよくマッチしていておいしかった。
「おいしい!」
スティーブがキャスリンを見ると、キャスリンの口の周りは肉汁まみれになっていた。キャスリンはそれを気にもせずというかそんなことになっているとも知らず、パクパクと食べている。
キャスリンが食べ終わると、もうすでに食べ終わっていたスティーブに口の周りと手をしっかり拭かれた。
「ありがとう」
キャスリンが恥ずかしそうに言うとスティーブが言ってきた。
「妹の面倒を見るのは兄の役目だからね」
スティーブがまじめに言ったので、キャスリンはおもわず笑ってしまい、それにつられてスティーブも笑った。二人はそのあと、のどが渇いたのでジュースを買ってふたりで分けあって飲んだ。ちょっと甘くておいしかった。
キャスリンはお腹もいっぱいになって、今度は雑貨屋さんを見て歩くことにした。キャスリンは、いろいろなネックレスや髪飾り、イヤリングなどが売っている店を見つけた。
ふたりでながめていると、店の人がキャスリンが腕にはめている腕輪を見て、店に飾ってある中から一つの髪飾りをとって言ってきた。
「お嬢さん、この髪飾りその腕輪とおそろいに見えるよ。どうだい?」
キャスリンがその髪飾りを受け取ってみると、腕輪ほど繊細ではなかったが、きれいな花の模様の細工が施してあり花の真ん中に黄色の石がはめ込まれている。
「わあ~かわいい!」
キャスリンはその髪飾りを手の中で転がして何度も見た。
「おじさん、これいくら?」
「あっこれ、20シルでいいよ」
「そんな安くていいのかい?」
「ああ」
「じゃあ、これをもらおう」
スティーブはそういって店の人にお金を渡した。
「袋に入れるかい、お嬢さん」
「いいえ、そのままでいいわ。ありがとう」
キャスリンはそのまま手にもっていることにした。ふたり店を後にする。
ふたりが店を後にすると、店の主人がはっとした。
「あれ、今何売っていたんだっけ。確か髪飾りを売ったような。あんなもの、うちにあったっけかな」
店の主人はまるで狐に包まれた気分になった。その時キャスリンの手の中で、髪飾りの黄色い石がキラッと光ったことに誰も気づかなかったのだった。
キャスリンとスティーブは広場に来た。噴水があり、ちょうどそのそばにあるベンチにキャスリンは座った。
「ねえ、この髪飾り高くなかった?」
「いや、安かったよ。びっくりするぐらいに。さっき飲んだジュースと同じ値段だったから」
「そうよかった。それにしてもきれいね」
キャスリンは手に持っていた髪飾りを空に掲げて見せた。その髪飾りは真っ青い空のなか太陽の光に黄色い石がキラキラ輝いてとてもきれいだった。
「髪につけてみる?」
「うん」
そういってキャスリンはスティーブにその髪飾りを渡した。スティーブは丁寧に髪にその髪飾りを付けてくれた。
「似合う?」
「うん、とっても」
キャスリンはうれしかった。今日の楽しかった記念だ。これからいつもこの髪飾りを見るたびに思い出すことができる。
2人はそのあともいろいろ店を見て回って歩いた。
気が付けば先ほどまで明るかった空は、少しずつオレンジ色に変わってきて次第に暗くなってきた。
「お兄ちゃん、今日はありがとう」
「どういたしましてキャス」
ふたりは先ほど転移した路地にやってきた。キャスリンは転移しようと目を閉じた。その時ふと額に何かやわらかいものが当たった。気づいた時にはキャスリンは自分の部屋に戻っていた。
ただ髪には確かにスティーブからもらった髪飾りがついていたのだった。
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