上 下
47 / 91

家の中は?そしてバスクのもとへ

しおりを挟む
 マークは家の中を案内して回った。
 
 「わあ~広いな」

 みんな興味津々で部屋の中を見て回った。シムの妻のアンは、特にキッチンに驚き備え付けの棚の扉を開けたりして中を見ていた。すぐ生活できるように皿や食器、はたまた調味料や食材まで準備されていた。
 イソベラとアルは、自分の部屋があると聞いてそちらに飛んでいった。それぞれ小さいながらも自分の部屋ができて嬉しそうだった。特にアルは勉強机を、イソベラは小さいながらも姿見があるのがうれしいようだった。シムは夫婦の寝室を見た。寝室にはちゃんと大き目なベビーベッドが置いてありすぐに双子を寝かせてみたが、双子ちゃんは気に入ったらしくきゃあきゃあ喜んでくれていた。アンを呼んで双子を見てもらっている間に、キャスリンとマークはシムを家の外にある小屋に案内した。小屋といっても水回りもきちんと整備されていて、薬草を乾燥させるための部屋まであってシムは隅から隅までじっくりと見て回っていた。

 そしてあらかたシムが見終わったのを確認してキャスリンが言った。

 「シムさん、あなたに作ってもらいたい薬があるの。うちの厩舎で働いているバスクという人がいるんだけど、その人の奥さんが重い病気にかかっているの。助けてあげられないかしら」

 「はい、私にできることでしたらなんでもしますよ」

 「ありがとう。実はバスク達もほらあそこに見えるでしょ。あの家に住んでもらおうと思ってるの。あなたの近くならその人をよく見てあげられるし、薬も出しやすいでしょ。ただまだその人以外に薬を作るのは控えてほしいの。また変な噂になってもいけないから。すべて片付くまでの事だけど。それまで個々の村の人たちに読み書きを教えてあげてくれない?」

 「はい、マークから聞いてます。よろしくお願いします。本当にありがとうございました」
 
 キャスリンとシムが話していると、家の玄関のドアが開いてイソベラが飛び出してきた。

 「キャスリン様ありがとうございます。クローゼットの中にかわいいお洋服まで入っていました」

 「いえ、気にいってくれたかしら?」

 「はい、とっても嬉しいです」

 「よかったわ、じゃあそれを着てさっそく学校に通わなくちゃあね。アルとね」

 「はい!」

 イソベラの顔はストラ男爵家にいた時よりずいぶん明るくなったように見えた。先ほども荷物の整理の時に見たが、イソベラの洋服も家族の洋服もずいぶん少なかった。キャスリンは父のスコットにあらかじめお願いしておいてよかったと思ったのだった。

 キャスリンとマークは、シムたち家族に見送られながら転移した。キャスリン達はキャスリンの部屋に戻った。
 
 「私たちいい仕事したわね~。でもさすがに今日は疲れたわ。バスクには明日話しましょう」

 「そうですね。今日はごゆっくりなさってください。旦那様には私からご報告しておきます」

 キャスリンはバスクの事は明日にすることにした。早めの食事をとり早めにお風呂に入り寝ることにした。やはり疲れていたのか、ベッドに入ってすぐ眠りについてしまった。

 
 
 翌日は朝からマークとバスクの元へ向かった。バスクが出勤する前にバスクの家を訪問したのだった。いきなりダイモック公爵令嬢と執事のマークが現れて、バスクはびっくりしたようだったが家の小さい居間に通してくれた。

 「どうかしましたか」

 バスクがなんだか青ざめた顔で訪ねてきた。バスクはつい先日自分に声をかけてきたクミールが死んだことを知った。悪いことだとは知りながらクミールの言う通り、賭博場に案内してもらおうと思っていた矢先の事だった。
 
 「ねえバスク、私たちならあなたの奥さんの病気を助けてあげられると思うの。ただしあることに協力してくれたらね」

 「あることとは?」

 バスクはキャスリンの提案に食いつき気味で訪ねてきた。よほど切羽詰まっているらしい。マークが話し始めた。それを聞いているうちにバスクが少し不審げにしたので、キャスリンはこの部屋に時を止める魔法を施した。
そしてイソベラにも見せたように大きな黒い箱を魔法で出し、バスクに映像を見せた。バスクの未来を。
 はじめこそびくりしていたバスクだったが、次第に顔が青くなりしまいにはがたがたと震えだした。

 「私はそんなことをするんですか...」

 そしていきなりバスクは立ち上がると、急に床に座り頭を床にこすりつけ懇願しだした。

 「どうかお願いです。家族は何も悪くないんです。私一人の責任です。どうかどうか家族は助けてください。私の命ならいくらでも差し上げますから。どうかお願いします」

 バスクの必死の懇願にマークが席を立ちバスクもとに向かい、バスクを立ち上がらせて再び椅子に座らせた。しかしバスクは先ほど見た映像にあまりに衝撃を受けたのかいまだ手が震えているようだった。

 「ねえバスク」

 キャスリンの言葉にバスクの体がびくっとなった。しかしキャスリンはそのまま言葉をつづけた。

 「言い方が悪かったわね。ごめんなさい。私たちあなたに協力してもらいたいの。未来がこうならないように」

 キャスリンはあらかじめ考えていたことを提案した。

 キャスリンの話を聞くうちにバスクの目に光が戻ってきたのだった。

 
 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

【完結】嫉妬深いと婚約破棄されましたが私に惚れ薬を飲ませたのはそもそも王子貴方ですよね?

砂礫レキ
恋愛
「お前のような嫉妬深い蛇のような女を妻にできるものか。婚約破棄だアイリスフィア!僕は聖女レノアと結婚する!」 「そんな!ジルク様、貴男に捨てられるぐらいなら死んだ方がましです!」 「ならば今すぐ死ね!お前など目障りだ!」  公爵令嬢アイリスフィアは泣き崩れ、そして聖女レノアは冷たい目で告げた。 「でもアイリ様を薬で洗脳したのはジルク王子貴男ですよね?」

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

【完】ある日、俺様公爵令息からの婚約破棄を受け入れたら、私にだけ冷たかった皇太子殿下が激甘に!?  今更復縁要請&好きだと言ってももう遅い!

黒塔真実
恋愛
【2月18日(夕方から)〜なろうに転載する間(「なろう版」一部違い有り)5話以降をいったん公開中止にします。転載完了後、また再公開いたします】伯爵令嬢エリスは憂鬱な日々を過ごしていた。いつも「婚約破棄」を盾に自分の言うことを聞かせようとする婚約者の俺様公爵令息。その親友のなぜか彼女にだけ異様に冷たい態度の皇太子殿下。二人の男性の存在に悩まされていたのだ。 そうして帝立学院で最終学年を迎え、卒業&結婚を意識してきた秋のある日。エリスはとうとう我慢の限界を迎え、婚約者に反抗。勢いで婚約破棄を受け入れてしまう。すると、皇太子殿下が言葉だけでは駄目だと正式な手続きを進めだす。そして無事に婚約破棄が成立したあと、急に手の平返ししてエリスに接近してきて……。※完結後に感想欄を解放しました。※

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

処理中です...