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キャスリン厩舎へ行く
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キャスリンがマークにストラ男爵から持ってきた報告書を見せると、マークは少し見ただけで目を見張ってキャスリンを見た。
「これは!」
「すごいでしょ。私もびっくりしたわ。この家にハビセル侯爵家のスパイがいるのね」
「スパイ、とは?」
「この家の事を嗅ぎまわっているものの事よ」
「それも初代王妃様のお言葉で?」
「そうよ。今も念のためにこの部屋で話していることが漏れないように結界を張っているの。今からこの屋敷すべてに結界を張るわ。もし怪しい動きをしたらすぐにわかるようにするつもりよ」
「ありがとうございます。それにしてもいったい誰が...」
「報告書を見てもわからないのよね。たぶんストラ男爵も知らないのかも」
「そうなんですか」
「じゃあ今から結界張るわよ!」
キャスリンはマークにそういうと、目を閉じて手を胸の前で組んで魔法をかけた。多少なりとも魔力があるマークは、ずんとした衝撃を受けた。普通の人は何も感じないだろが、マークはキャスリンの力を直接感じて畏怖に近いものを感じた。
「マーク、誰かひっかかったらすぐに言うわね。あとその報告書にも魔法をかけておくから触るものがいたらすぐわかるようにしておくわ。その報告書はおとりね」
キャスリンはそういうと執務室を出ていった。しかしマークはまだ報告書を読んでいた。この報告書はなんと詳しく書かれているのだろう。印が打たれている一人の男の名前をマークは指でなぞった。
「お前がこの先、ストラ男爵に加担するようになっていくのか...」
マークの口からこぼれた言葉はやけに物悲しく響いた。
キャスリンは魔法部屋に戻った。あの報告書がほかの人に勝手に読まれないように、執事のマークと父のスコットと今王太子とともに王宮にいる兄のクロード以外見れないようにしてある。万が一ほかのものが触っても、報告書に文字は現れず、白紙の紙にしか見えない。
ただおとりとして、もしあの報告書に触るとすぐキャスリンにわかるような仕組みを魔法で作った。
キャスリンはトウメイニンゲンになってこの公爵家を調査してみることにした。
さすがに自分の家でトウメイニンゲンになって探るのは、やましかったのでマークにも言えなかった。しかしキャスリンがトウメイニンゲンになって歩き回ったら、魔力があるマークにはすぐばれてしまうが、マークならもしキャスリンを見ても見ないふりをしてくれるだろう。
キャスリンはさっそくトウメイニンゲンになって、魔法部屋を出た。
まず厩舎に向かう。先ほど名前が載っていた彼は確かバスクという名前だった。
厩舎に着くと何人もの人たちが馬の世話をしていた。ダイモック公爵家が持っている騎士団が所有している馬が多いので厩舎も大きい。キャスリンが近づいていくと、見えるはずがないのに厩舎の一番入口に近い馬がこちらを見た。まるでキャスリンが見えているかのように柵から顔を大きく伸ばしてくる。キャスリンが厩舎の中を一歩一歩近づくたびに柵から顔を大きく出してくる馬が増え始めた。
「何やってるんだ。おい静かにしろよ」
馬の世話をしている人はキャスリンが見えないので、馬が勝手なことをしているように見える。他の人たちも何頭もの馬の不思議な動きに、不思議がってそのうちの一人が同じ仕事仲間に話しかけた。
「おい、バスク。今日の馬たちなんか興奮していないか?」
「そうだな、何やってんだ。静かにしろよ」
同僚にバスクと呼ばれた男は、馬を静かに撫でながら諭してる。
バスクになでられた馬はキャスリンのほうを見ながらも、やはり日ごろ世話をしてもらっている人にはかなわないらしくおとなしくなった。ただ目だけはきょろきょろしてキャスリンを目で追っているが。
キャスリンは自分が会いたかった人をいともたやすく探すことができて、あまりの嬉しさに馬に手を振った。すると馬はキャスリンが喜んでいるのがわかったのか、何頭もの馬が嬉しそうにいなないた。
そんな中キャスリンは、急いでバスクに近づいた。バスクはマークぐらいの年で、人の好い愛嬌のある顔をしていた。この人が将来、ダイモック公爵家に仇なすものになってしまうのかと思うと、複雑な心境になるのだった。
-人は見かけによらないってことね。
キャスリンはしばらくバスクの様子を見ていたが、バスクはまじめに仕事していた。夕方になって厩舎もずいぶんと暗くなってきたころバスクはやっと仕事を終えた。
「バスク、奥さんの具合どうだ?」
「ああ、あんまりよくない」
「そうか、医者には見せたんだろう?なんて言ってたんだ?」
「いい薬があるようなんだが、その薬が高いようなんだ」
バスクの暗い表情に、一緒に仕事を終えた仲間たちの顔も少し暗くなった。
「バスク、俺たちも少しは協力できるからさ。いつでもいってくれよ」
「そうだぞ」
仲間たちが心配して、次々にバスクに声をかけていた。バスクは仲間に慕われているらしい。
-それなのになぜ、公爵家を裏切ったのかしら。
バスクは仲間たちと別れて家に帰っていった。キャスリンはバスクの後をついていくことにした。
バスクは一人家へと歩きながらつぶやいていた。
「みんなに用意できるほどの金額じゃないんだよ...」
そうつぶやいた言葉は、薄暗くなった夕闇に解けていった。
「これは!」
「すごいでしょ。私もびっくりしたわ。この家にハビセル侯爵家のスパイがいるのね」
「スパイ、とは?」
「この家の事を嗅ぎまわっているものの事よ」
「それも初代王妃様のお言葉で?」
「そうよ。今も念のためにこの部屋で話していることが漏れないように結界を張っているの。今からこの屋敷すべてに結界を張るわ。もし怪しい動きをしたらすぐにわかるようにするつもりよ」
「ありがとうございます。それにしてもいったい誰が...」
「報告書を見てもわからないのよね。たぶんストラ男爵も知らないのかも」
「そうなんですか」
「じゃあ今から結界張るわよ!」
キャスリンはマークにそういうと、目を閉じて手を胸の前で組んで魔法をかけた。多少なりとも魔力があるマークは、ずんとした衝撃を受けた。普通の人は何も感じないだろが、マークはキャスリンの力を直接感じて畏怖に近いものを感じた。
「マーク、誰かひっかかったらすぐに言うわね。あとその報告書にも魔法をかけておくから触るものがいたらすぐわかるようにしておくわ。その報告書はおとりね」
キャスリンはそういうと執務室を出ていった。しかしマークはまだ報告書を読んでいた。この報告書はなんと詳しく書かれているのだろう。印が打たれている一人の男の名前をマークは指でなぞった。
「お前がこの先、ストラ男爵に加担するようになっていくのか...」
マークの口からこぼれた言葉はやけに物悲しく響いた。
キャスリンは魔法部屋に戻った。あの報告書がほかの人に勝手に読まれないように、執事のマークと父のスコットと今王太子とともに王宮にいる兄のクロード以外見れないようにしてある。万が一ほかのものが触っても、報告書に文字は現れず、白紙の紙にしか見えない。
ただおとりとして、もしあの報告書に触るとすぐキャスリンにわかるような仕組みを魔法で作った。
キャスリンはトウメイニンゲンになってこの公爵家を調査してみることにした。
さすがに自分の家でトウメイニンゲンになって探るのは、やましかったのでマークにも言えなかった。しかしキャスリンがトウメイニンゲンになって歩き回ったら、魔力があるマークにはすぐばれてしまうが、マークならもしキャスリンを見ても見ないふりをしてくれるだろう。
キャスリンはさっそくトウメイニンゲンになって、魔法部屋を出た。
まず厩舎に向かう。先ほど名前が載っていた彼は確かバスクという名前だった。
厩舎に着くと何人もの人たちが馬の世話をしていた。ダイモック公爵家が持っている騎士団が所有している馬が多いので厩舎も大きい。キャスリンが近づいていくと、見えるはずがないのに厩舎の一番入口に近い馬がこちらを見た。まるでキャスリンが見えているかのように柵から顔を大きく伸ばしてくる。キャスリンが厩舎の中を一歩一歩近づくたびに柵から顔を大きく出してくる馬が増え始めた。
「何やってるんだ。おい静かにしろよ」
馬の世話をしている人はキャスリンが見えないので、馬が勝手なことをしているように見える。他の人たちも何頭もの馬の不思議な動きに、不思議がってそのうちの一人が同じ仕事仲間に話しかけた。
「おい、バスク。今日の馬たちなんか興奮していないか?」
「そうだな、何やってんだ。静かにしろよ」
同僚にバスクと呼ばれた男は、馬を静かに撫でながら諭してる。
バスクになでられた馬はキャスリンのほうを見ながらも、やはり日ごろ世話をしてもらっている人にはかなわないらしくおとなしくなった。ただ目だけはきょろきょろしてキャスリンを目で追っているが。
キャスリンは自分が会いたかった人をいともたやすく探すことができて、あまりの嬉しさに馬に手を振った。すると馬はキャスリンが喜んでいるのがわかったのか、何頭もの馬が嬉しそうにいなないた。
そんな中キャスリンは、急いでバスクに近づいた。バスクはマークぐらいの年で、人の好い愛嬌のある顔をしていた。この人が将来、ダイモック公爵家に仇なすものになってしまうのかと思うと、複雑な心境になるのだった。
-人は見かけによらないってことね。
キャスリンはしばらくバスクの様子を見ていたが、バスクはまじめに仕事していた。夕方になって厩舎もずいぶんと暗くなってきたころバスクはやっと仕事を終えた。
「バスク、奥さんの具合どうだ?」
「ああ、あんまりよくない」
「そうか、医者には見せたんだろう?なんて言ってたんだ?」
「いい薬があるようなんだが、その薬が高いようなんだ」
バスクの暗い表情に、一緒に仕事を終えた仲間たちの顔も少し暗くなった。
「バスク、俺たちも少しは協力できるからさ。いつでもいってくれよ」
「そうだぞ」
仲間たちが心配して、次々にバスクに声をかけていた。バスクは仲間に慕われているらしい。
-それなのになぜ、公爵家を裏切ったのかしら。
バスクは仲間たちと別れて家に帰っていった。キャスリンはバスクの後をついていくことにした。
バスクは一人家へと歩きながらつぶやいていた。
「みんなに用意できるほどの金額じゃないんだよ...」
そうつぶやいた言葉は、薄暗くなった夕闇に解けていった。
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