上 下
27 / 91

コルトの過去1

しおりを挟む
 キャスリンは前日みっちりと勉強をして、翌日朝から魔法部屋に来ていた。マークにしつこく言ったおかげで今日も朝からストラ男爵邸に行くことができる。
 
 男爵邸まで転移して、コルトの部屋まで一目散に駆けていった。コルトは今日も朝の支度を終えていた。椅子に座ってノートに何か書いている。キャスリンがのぞき込むと、古道具屋の名前がずらりと書いてあった。その名前の前にいくつかチェックが付いているものもあった。

 「今日はここを探してみるか」

 コルトはそういってノートを閉じた。どうやら何かを探しているようだ。もしかしたら魔道具の破片やその一部なのかもしれない。
 前にバーバラが言っていた。アシュイラ皇国に由来するもの、例えば魔道具の破片らしいものは高値で取引されるようだと。といってもそのほとんどが偽物で、みんなわかっていてお守り代わりに買い求める人も多いといっていた。幻の国であり謎の多い国だからみんなの関心を引き付けるのだろう。
 ただコルトは本物の破片を持っていた。
 キャスリンは椅子に座っているコルトの後ろに立ちコルトに向けて、呪文を唱えた。

 「ビジュアル」

 呪文を唱えたとたん、なぜかコルトの体が急に動きを止めた。キャスリンの頭の中に映像が次々と流れてきた。それはほんの一瞬の出来事だったが、キャスリンはコルトの生まれてから今までの人生の映像を瞬時に見たのだった。

 「コルトたちが、マーク達アシュイラ皇国の人たちを襲ったやつらだったの?!」

 キャスリンは頭がぐらんぐらんしたが、踏ん張ってこらえた。その間に金縛りにあったかのように動きを止めていたコルトが何事もなかったかのように部屋から出ていった。
 
 本当ならキャスリンもコルトについていく予定だったが、あまりに衝撃が大きすぎて頭が付いていけなかった。だからなのね、コルトはサイモクが術を使ったところを見たのね。コルトの映像の中に、サイモクらしい男が術を使うシーンがあった。術を使う時に魔道具が光った。
 ただそのあとの映像がキャスリンの心に重くのしかかった。
 
 サイモクは術を使い、戦いで生き残ったアシュイラ皇国の人たちを転移させた後もかろうじて生きていた。コルトたちは、息も絶え絶えのサイモクにどうにかして魔術の事やアシュイラ皇国の人たちがどこへ逃げたのか聞き出そうとしていた。しかも拷問まがいの行いまでして。ただサイモクは決して口を割らずにそのまま死んでいった。

 「何やってるんだよ。死んじゃったじゃないかよ~」

 コルトは仲間にそう言って、死んでしまったサイモクの体を無造作に蹴った。そして仲間と一緒に粉々になった魔道具の破片を集め袋に入れていった。その時一つだけみんなに見つからないようにポケットの中に入れたのだった。
 それから村のあちこちを探して、時にはアシュイラ皇国の人たちの死体を足蹴にしたりして魔道具がないかくまなく見て歩いた。しかしどうやら何も出なかったらしく死体をそのままに、死体についていた金目のものだけはぎ取ってアシュイラ皇国の人たちの村を後にしたのだった。
 
 キャスリンはあまりの怒りに自然に魔力が放出されてしまった。男爵邸が急に揺れだした。
 あちこちで声がした。

 「地震?」

 「揺れてるよー!」

 「誰か助けてー!」

 どうやら屋敷の壁の一部が壊れてしまったらしい。キャスリンはコルトの部屋の外から聞こえる叫び声ではっと我に返った。

 

 キャスリンは無意識に転移していた。
 目の前にこの前見たのと同じ光景があった。大きなベッドの前に立っている。しかもベットの上からすうすうと穏やかな寝息がかすかに聞こえているのも同じだった。
 キャスリンが自分の体を見るとやはり茶色の毛でおおわれていた。キャスリンは魔法でベッドの上にいった。
 すぐ目の前にスティーブの顔がある。キャスリンがじっと見ていると、はっとしたようにスティーブが起き上がった。目の前にいる犬のキャスリンを見て目を丸くしている。

 「キャスリンお嬢様!ですよね」

 キャスリンはスティーブの胸に飛び込んでいった。小さいながらもすごい勢いで突撃されたスティーブは一瞬体がのけぞったが、こらえていた。そして優しくキャスリンを抱っこしてくれた。犬だけど。
 しばらく優しく背中をなでてくれていたが、キャスリンが落ち着いた様子になったのを見ると両手で抱っこしてキャスリンを自分の顔のほうに向けた。

 「犬なのに涙が出ていますよ」

 どうやらキャスリンの目から涙が出ていたらしく、寝ていたスティーブの顔に当たって起きたらしい。

 「スティーブ!私どうしたらいいの?マークになんて言ったらいい?」

 キャスリンはまた時を止めて、スティーブにコルトの映像の事を話した。
 スティーブは黙って聞いてくれていたが、ぽつんと言った。

 「父には本当の事を言った方がいいでしょうね」

 「そうよね」

 「それにしてもコルトはどうやってアシュイラ皇国の人たちがいた村を見つけたんでしょうね」

 「それはね.....」

 キャスリンが話し出した。

 アシュイラ皇国の人たちは、国が亡ぶ前王と王妃によって時を超えた。ついた先は砂漠だった。皆が力を出し合い時にはほんの少しの魔法を使って生活していた。
 ある時ひとりの男がこの村に迷い込んだ。その男こそコルトだったのである。
 コルトは、当時行商をして旅をしていた。しかし山賊に襲われたらしく命からがらアシュイラ皇国の人たちの村にたどり着いた。地図にはない砂漠の中のオアシス。しかもそこに住んでいる人々はどう見ても貧しそうに見えない。コルトはその時ずいぶん衰弱していたので、しばらくその村でお世話になることになった。
 
 そこで生活しているうちにコルトは、大きな疑問を持ったのだった。ここにいる人たちはどう見ても知識がある。子どもでさえ文字が書けるようだ。自分が知っている世の中の人たちは貴族以外文字を読み書きできるものはそういない。一部の裕福な商人ぐらいだ。しかもここの人たちの常識は少し自分たちと違うようだ。いったいここの人たちはどこから来たのだろうと。 

 それが次の悲劇につながることになってしまった。  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

私は王妃になりません! ~王子に婚約解消された公爵令嬢、街外れの魔道具店に就職する~

瑠美るみ子
恋愛
 サリクスは王妃になるため幼少期から虐待紛いな教育をされ、過剰な躾に心を殺された少女だった。  だが彼女が十八歳になったとき、婚約者である第一王子から婚約解消を言い渡されてしまう。サリクスの代わりに妹のヘレナが結婚すると告げられた上、両親から「これからは自由に生きて欲しい」と勝手なことを言われる始末。  今までの人生はなんだったのかとサリクスは思わず自殺してしまうが、精霊達が精霊王に頼んだせいで生き返ってしまう。  好きに死ぬこともできないなんてと嘆くサリクスに、流石の精霊王も酷なことをしたと反省し、「弟子であるユーカリの様子を見にいってほしい」と彼女に仕事を与えた。  王国で有数の魔法使いであるユーカリの下で働いているうちに、サリクスは殺してきた己の心を取り戻していく。  一方で、サリクスが突然いなくなった公爵家では、両親が悲しみに暮れ、何としてでも見つけ出すとサリクスを探し始め…… *小説家になろう様にても掲載しています。*タイトル少し変えました

美人姉妹は静かに暮らしたい

真理亜
恋愛
「なんですって? もう一度言って貰えます?」「だからね、君と君の妹、どっちも美人で、どっちも好きになって、どっちも選べなくて、どっちも捨て難い。そこで思ったんだ。だったら二人とも僕のお嫁さんにすればいいって。姉妹丼ってヤツだよ。いい考えだろう?」「クソがぁ!」アイシャは目の前に居る婚約者、いや、もうすぐ元婚約者になる男の股間を蹴り上げた... これは美人に生まれついた故に男嫌いになってしまった姉妹のお話。 ☆こちらは別タイトルで投稿していた物を、タイトルと構成をやや変えて投稿し直したものになります。

虐待され続けた公爵令嬢は身代わり花嫁にされました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。  カチュアは返事しなかった。  いや、返事することができなかった。  下手に返事すれば、歯や鼻の骨が折れるほどなぐられるのだ。  その表現も正しくはない。  返事をしなくて殴られる。  何をどうしようと、何もしなくても、殴る蹴るの暴行を受けるのだ。  マクリンナット公爵家の長女カチュアは、両親から激しい虐待を受けて育った。  とは言っても、母親は血のつながった実の母親ではない。  今の母親は後妻で、公爵ルイスを誑かし、カチュアの実母ミレーナを毒殺して、公爵夫人の座を手に入れていた。  そんな極悪非道なネーラが後妻に入って、カチュアが殺されずにすんでいるのは、ネーラの加虐心を満たすためだけだった。  食事を与えずに餓えで苛み、使用人以下の乞食のような服しか与えずに使用人と共に嘲笑い、躾という言い訳の元に死ぬ直前まで暴行を繰り返していた。  王宮などに連れて行かなければいけない場合だけ、治癒魔法で体裁を整え、屋敷に戻ればまた死の直前まで暴行を加えていた。  無限地獄のような生活が、ネーラが後妻に入ってから続いていた。  何度か自殺を図ったが、死ぬことも許されなかった。  そんな虐待を、実の父親であるマクリンナット公爵ルイスは、酒を飲みながらニタニタと笑いながら見ていた。  だがそんあ生き地獄も終わるときがやってきた。  マクリンナット公爵家どころか、リングストン王国全体を圧迫する獣人の強国ウィントン大公国が、リングストン王国一の美女マクリンナット公爵令嬢アメリアを嫁によこせと言ってきたのだ。  だが極悪非道なネーラが、そのような条件を受け入れるはずがなかった。  カチュアとは真逆に、舐めるように可愛がり、好き勝手我儘放題に育てた、ネーラそっくりの極悪非道に育った実の娘、アメリアを手放すはずがなかったのだ。  ネーラはカチュアを身代わりに送り込むことにした。  絶対にカチュアであることを明かせないように、いや、何のしゃべれないように、舌を切り取ってしまったのだ。

婚約者のいる側近と婚約させられた私は悪の聖女と呼ばれています。

鈴木べにこ
恋愛
 幼い頃から一緒に育ってきた婚約者の王子ギルフォードから婚約破棄を言い渡された聖女マリーベル。  突然の出来事に困惑するマリーベルをよそに、王子は自身の代わりに側近である宰相の息子ロイドとマリーベルを王命で強制的に婚約させたと言い出したのであった。  ロイドに愛する婚約者がいるの事を知っていたマリーベルはギルフォードに王命を取り下げるように訴えるが聞いてもらえず・・・。 カクヨム、小説家になろうでも連載中。 ※最初の数話はイジメ表現のようなキツイ描写が出てくるので注意。 初投稿です。 勢いで書いてるので誤字脱字や変な表現が多いし、余裕で気付かないの時があるのでお気軽に教えてくださるとありがたいです٩( 'ω' )و 気分転換もかねて、他の作品と同時連載をしています。 【書庫の幽霊王妃は、貴方を愛することができない。】 という作品も同時に書いているので、この作品が気に入りましたら是非読んでみてください。

生まれたときから今日まで無かったことにしてください。

はゆりか
恋愛
産まれた時からこの国の王太子の婚約者でした。 物心がついた頃から毎日自宅での王妃教育。 週に一回王城にいき社交を学び人脈作り。 当たり前のように生活してしていき気づいた時には私は1人だった。 家族からも婚約者である王太子からも愛されていないわけではない。 でも、わたしがいなくてもなんら変わりのない。 家族の中心は姉だから。 決して虐げられているわけではないけどパーティーに着て行くドレスがなくても誰も気づかれないそんな境遇のわたしが本当の愛を知り溺愛されて行くストーリー。 ………… 処女作品の為、色々問題があるかとおもいますが、温かく見守っていただけたらとおもいます。 本編完結。 番外編数話続きます。 続編(2章) 『婚約破棄されましたが、婚約解消された隣国王太子に恋しました』連載スタートしました。 そちらもよろしくお願いします。

噂の悪女が妻になりました

はくまいキャベツ
恋愛
ミラ・イヴァンチスカ。 国王の右腕と言われている宰相を父に持つ彼女は見目麗しく気品溢れる容姿とは裏腹に、父の権力を良い事に贅沢を好み、自分と同等かそれ以上の人間としか付き合わないプライドの塊の様な女だという。 その名前は国中に知れ渡っており、田舎の貧乏貴族ローガン・ウィリアムズの耳にも届いていた。そんな彼に一通の手紙が届く。その手紙にはあの噂の悪女、ミラ・イヴァンチスカとの婚姻を勧める内容が書かれていた。

【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

との
恋愛
「有罪判決を受けた貴様とは婚約破棄だ!」  大勢の生徒が見守る中で行われた突然の婚約破棄⋯⋯不貞行為による有罪判決が出たのが理由だと言われたが、身に覚えのないシャーロットは呆然としたまま学園を強制的に追い出されてしまう。  不貞がらみの婚約破棄が横行し他国から散々笑いものになったこの国は、前国王時代から不貞・不倫は重罪とされ悪質な場合は終身刑になることも⋯⋯。  人見知りで引っ込み思案、友達ゼロでコミュ障のシャーロットは両親と妹に騙され女子収容所にドナドナされたが、冤罪を認めさせて自由を取り戻す事だけを目標に過酷な強制労働二年を耐えた。 (18歳になったら離籍して冤罪を証明してみせるから!!)  辛い収容所生活を耐え抜いたシャーロットだが、出所前日に両親と妹の借金返済のために会ったこともない伯爵と結婚させられていた事を知る。  収容所で鍛えられたシャーロットはどんな虐めにも負けない強さを身につけて⋯⋯。 「ふふっ、それが虐めだなんて手ぬるいですわ」 「女子収容所帰りを舐めてもらっては困りますわね」  冤罪をする為に立ち上がった⋯⋯人生を賭けたシャーロットのひとりぼっちの戦いに参戦してきたのは勝手に結婚させられていた相手ジェローム。  当初は『クソ野郎』だったはずなのに、いつの間にかデレデレに甘やかそうとするジェロームに少しずつ絆されていくシャーロット。  妹の起こした不倫騒ぎは隣国を巻き込みあわや戦争勃発かという騒ぎになったが、いつしか周りには最恐の仲間が最強の布陣を敷いてシャーロットを手助けてくれるようになっていく。 (一人じゃない。仲間が支えてくれるんだもの、絶対に負けないわ) 「なんならあなたに貞操帯をつけようかしら」 「は、母上!」 「あら、終日シャーロットと一緒にいて手を出さないと誓えるのかしら?」 「それは⋯⋯状況によりますし」 「信用できないわ。だって、アーサーの息子ですもの」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・ 26日(日)完結します。ありがとうございます

処理中です...