上 下
11 / 19
アミエ・ナダタル編

好意

しおりを挟む
 私、アミエは今日もパーティーでサミエル様を発見しました。突撃です。はじめこそ嫌がられておりましたが、いつの間にか私に微笑みかけてくれるようになりました。
 私も最初こそサミエル様のお顔がお金に見えておりましたが、麗しいお顔、品のあるしぐさ、教養のあるお話にいつの間にか私自身がサミエル様に魅せられておりました。今では目的のためではなく、心からサミエル様のそばにいたいと思うようになっていました。

 ただそれだからこそわかることもありました。サミエル様は、わたくしにお優しくダンスやお話もよくしてくださいます。婚約者のモリッシュ様の事は、なんとも思っていないように見えました。
 
 けれど時々サミエル様の視線が、さまよう時があることに気が付きました。そんな時の視線は、いつもモリッシュ様を探しているのです。そしてモリッシュ様のいる場所を確認すると、目が和らぐのです。私にとってそれがすごく不思議でした。不仲と聞いており、サミエル様の態度から見てもモリッシュ様に心を寄せているとはとても思えません。けれど時々見せるサミエル様のお顔を見ると、本当にモリッシュ様の事がお嫌いなのかしらと疑問に思ってしまうのです。
 私は一応父を通して公爵夫人にも確認をとりました。やはりサミエル様は、モリッシュ様に冷たいようです。顔を見るのも嫌がるほどに。やはり私の勘違いなのかしらと思い込もうとしました。
 なぜなら私にとってその方が都合がいいからです。私は、サミエル様の事を本当に好きになってしまいました。

 最近では、パーティーでもいつもダンスを踊っていただきお話もしてくれ私にとってとても楽しい毎日でした。

 
 今日はサミエル様の婚約者であるモリッシュ様の社交界デビューでした。ですが、サミエル様はエスコートだけしてすぐに私のもとにやってきました。

 「サミエル様、よろしいんですか?婚約者様といらっしゃらなくて」

 「ああ」

 サミエル様は、私がモリッシュ様の事を言うと、いやそうな顔をしました。本当にお嫌いになってしまわれたのでしょうか。以前父に聞いたところでは、サミエル様の方からどうしてもということで婚約されたと伺っております。ちらりと婚約者様を見ると、とても寂しそうにしておりました。周りでは、私とサミエル様の方を見てはあれこれといっている者もおります。モリッシュ様の事もずいぶん話のタネにされておいででした。
 ただその時の私は、傲慢にもやっぱりサミエル様は私と一緒にいる方が楽しいんだわと、勝手に思ってしまっておりました。ただモリッシュ様の寂しそうなお顔が、どうしても頭の片隅から離れませんでした。
 
 サミエル様と楽しくお話をしていた時です。またサミエル様が何かを探すようなしぐさをしました。そしてある一点に釘づけになっておりました。私も慌ててサミエル様と同じところを見ました。
 
 婚約者のモリッシュ様と今を時めくエドワルド様が、楽しそうにお話しされているところでした。どうやらモリッシュ様はおかえりになる途中だったようです。
 ふと見ると、隣にいたはずのサミエル様の姿が見えません。見ると、サミエル様がモリッシュ様の方へ走って行かれておりました。
 
 そしてモリッシュ様は帰られておしまいになり、サミエル様はモリッシュ様に声をかけるわけでもなく呆然と立っておりました。

 「モリッシュ様は、エドワルド様と仲がよろしいんですね」

 私は、サミエル様に声をかけました。エドワルド様は、サミエル様と並んでとても人気のある方です。しかもエドラルド様には婚約者がおりません。エドワルド様はおモテになるのですが、うまく女性をあしらってしまわれます。ですが先ほどモリッシュ様を見つめるまなざしは、ものすごく優しいものでした。エドワルド様のあんな姿を私は初めて見ました。
 その時です。私の中にもしかしたらと思ったことがありました。エドワルド様は子爵家ですが、サミエル様の公爵家をしのぐほどの財産をお持ちです。我が侯爵家に援助を申し入れてきたのは、エドワルド様なのでしょうか。
 私がそう考えている間、サミエル様は先ほどの私が言った言葉からエドワルド様の名前をつぶやいておりました。
 
 それからすぐでした。サミエル様がモリッシュ様と婚約破棄をされたのは。そのお話は、私は自分の屋敷で聞きました。私はそれを聞いた時、とても嬉しく思ってしまったのです。そんな私には、やはり罰が当たりました。

 「アミエ、聞いたかい?これでサミエル様と婚約できるようになるな。先ほど公爵夫人からも話があった。きっとお前と婚約するために婚約破棄をしたんだといっておられた。お前はどうしたい?」

 「そうなのですか。私は、サミエル様をお慕い申し上げております」

 しかしサミエル様と私の婚約の話は、進むことはありませんでした。それどころか、サミエル様は自分で婚約破棄をしておきながら、とても後悔されているというのです。
 私は、公爵家に招待されてサミエル様のところにお伺いしました。

 サミエル様は私の顔を見なくないとばかりに、会うのを拒否されました。まるで私がモリッシュ様の様になったようです。いえ違いました。サミエル様はモリッシュ様の事は、見たくないという態度をとりながら、その実いつも視線を向けていたのです。それほど気になっていたのです。
 でも私の事は、視線を向けるどころか、存在さえどうでもいいようでした。

 やはりサミエル様は、モリッシュ様の事を愛しておいでだったのです。いつもサミエル様を見ていた私だからこそ余計にわかったのかもしれません。

 やはり婚約破棄という人の不幸を願った罰が当たってしまったのです。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。 疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。 そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?

婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

恋愛
セラティーナ=プラティーヌには婚約者がいる。灰色の髪と瞳の美しい青年シュヴァルツ=グリージョが。だが、彼が愛しているのは聖女様。幼少期から両想いの二人を引き裂く悪女と社交界では嘲笑われ、両親には魔法の才能があるだけで嫌われ、妹にも馬鹿にされる日々を送る。 そんなセラティーナには前世の記憶がある。そのお陰で悲惨な日々をあまり気にせず暮らしていたが嘗ての夫に会いたくなり、家を、王国を去る決意をするが意外にも近く王国に来るという情報を得る。 前世の夫に一目でも良いから会いたい。会ったら、王国を去ろうとセラティーナが嬉々と準備をしていると今まで聖女に夢中だったシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。

愛する夫にもう一つの家庭があったことを知ったのは、結婚して10年目のことでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の伯爵令嬢だったエミリアは長年の想い人である公爵令息オリバーと結婚した。 しかし、夫となったオリバーとの仲は冷え切っていた。 オリバーはエミリアを愛していない。 それでもエミリアは一途に夫を想い続けた。 子供も出来ないまま十年の年月が過ぎ、エミリアはオリバーにもう一つの家庭が存在していることを知ってしまう。 それをきっかけとして、エミリアはついにオリバーとの離婚を決意する。 オリバーと離婚したエミリアは第二の人生を歩み始める。 一方、最愛の愛人とその子供を公爵家に迎え入れたオリバーは後悔に苛まれていた……。

初恋の幼馴染に再会しましたが、嫌われてしまったようなので、恋心を魔法で封印しようと思います【完結】

皇 翼
恋愛
「昔からそうだ。……お前を見ているとイライラする。俺はそんなお前が……嫌いだ」 幼馴染で私の初恋の彼――ゼルク=ディートヘルムから放たれたその言葉。元々彼から好かれているなんていう希望は捨てていたはずなのに、自分は彼の隣に居続けることが出来ないと分かっていた筈なのに、その言葉にこれ以上ない程の衝撃を受けている自分がいることに驚いた。 「な、によ……それ」 声が自然と震えるのが分かる。目頭も火が出そうなくらいに熱くて、今にも泣き出してしまいそうだ。でも絶対に泣きたくなんてない。それは私の意地もあるし、なによりもここで泣いたら、自分が今まで貫いてきたものが崩れてしまいそうで……。だから言ってしまった。 「私だって貴方なんて、――――嫌いよ。大っ嫌い」 ****** 以前この作品を書いていましたが、更新しない内に展開が自分で納得できなくなったため、大幅に内容を変えています。 タイトルの回収までは時間がかかります。

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

処理中です...