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エドワルド・ウィシュカム編
突然の知らせ
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ある日私とモリーは、ある貴族のお茶会に招かれた。その貴族はモリーの親戚筋に当たり、モリーの両親の要請でマナーを学ぶ機会の一つになればということで招かれたものだ。子どもとはいえ貴族に生まれれば、貴族の子供の世界がある。はじめモリーひとりが招かれていたが、モリーひとりでは心配とのことで、私も一緒に招かれることなった。モリーの両親の中では、私への信頼は絶対だ。まあこれにはモリーと一緒にいるために少しだけ能力を使わせていただいてはいるが。
私は今のモリーが大好きだが、両親から見ればだいぶ一般の貴族子女とはかけ離れてしまったモリーが心配なようだ。モリーは将来私と結婚するのだから、心配しなくてもいいのだが。その時には婚約を結ばなくてはいけないなあと軽く思っていた。
そのお茶会で、本来のお茶会とはかけ離れた作法で、あらかたお菓子を食べつくしたモリーは、お腹がいっぱいになったのか、さっそく庭を探検しようと私を誘ってきた。私もモリーのマナー態度を注意すればよかったのだが、あまり貴族子女らしい彼女を周りに見せてしまい、下手な貴族に目をつけられるのも心配だ。
私は、モリーが口の中にお菓子をどんどん詰め込んで、もぐもぐ楽しそうに食べている姿を黙って見守っていた。やはりというべきかモリーのマナーは、ほかの貴族の子供たちからは遠目に見られて、誰もそばに寄ってこなかった。私はわざとモリーのそばにいて、申し訳ないがモリーには私の防波堤になってもらっていた。
モリーはかわいい。ドレスを着たモリーはそれはそれはかわいかった。ただこれは私だけではなく、ほかのお茶会に招かれた男の子たちも思ったのだろう。最初こそモリーのそばに寄ってきてはいろいろ話しかけてきた。
しかしモリーは、そんな男の子達より目の前のおいしいお菓子に夢中で、お菓子に負けた男の子たちがすごすごとモリーの元から去っていくのを見ては、心の中でほくそ笑んでいた。
「ねえ、エド。こっちに池があるわ」
「あんまり近づくと危ないよ」
私たちは、庭へ向かった。そこには大きな池があった。私がいくら注意してもモリーは池に夢中だ。池の中を覗き込もうとどんどん近づいていく。その時だ。急に視線を感じた。私にではなく、モリーに視線を向けているものがいる。私は、能力の一つなのか人の視線に敏感だ。さりげなくそちらを見ると、自分より少し大きな男の子が、モリーをじっと見つめている。
私がそちらに気をとられているうちに、モリーは池のすぐそばに行ってしまっていた。
やはりというべきか、モリーは池の中に落ちた。いつもの事なのだが、今日はドレス姿だ。しかもよその屋敷でのお茶会だ。私は、慌ててモリーを助けに向かった。
案の定モリーのドレスは泥まみれ、顔も泥がいっぱいついている。落ちた時に泥がはねたのだろう。それでもモリーは楽しそうに笑っていた。私もそんなモリーを見てつい笑ってしまった。私もモリーを助けたことで、洋服が泥で汚れてしまった。
ふたり思わず泥まみれの姿を笑いあっていると、先ほどの視線が強くなった。モリーを助けることで夢中で、その存在を忘れていた。あの視線は、モリーにくぎ付けだ。すごく悪い予感がした。モリーを助けながらも、その視線の先にいる男の子を見るが、少し遠い。警戒してか先ほどの場所から近づいてこない。私は、能力である『支配』が使えなかった。私の能力は、一定以上の距離があると使えないのだ。
しかも横には泥まみれのモリーがいる。このままではモリーが風邪をひいてしまう。仕方なく自分の能力を使うのをあきらめて、屋敷に戻った。
屋敷の人にはあきれられ、私たちは着替えさせてもらった。途中モリーが靴が片方ないといったので、私は慌てて靴を取りに池に戻ったが、靴はどこにもなかった。もしかしたらあの男の子が、見つけて持ち帰ったのかもしれない。いやな予感がした。
私たちは自分たちの屋敷に戻ったが、モリーはさんざん怒られたようだった。それからしばらくは、いつものように平穏な日々が続いた。
私のもとに凶報がもたらされるまでは。
「モリッシュ様がご婚約なさいました」
それはモリーに婚約者が出来たという知らせだった。私には影がいる。私が能力を使ってから、私を守る役目と私の能力をほかに知らしめない役目をするもの達が、私を守ってくれている。そんな者たちの中の一人が、知らせてきた。その影は、モリーの家にも忍ばせている。ゆくゆくは私の大切な婚約者になるものだ。何かあったら大変だということとでつけられているのだが、本当はモリーに何かあったら私の力が暴走してしまうので、それを事前に阻止する目的もあるらしい。
モリーの婚約者となったのは、この国でも1、2を争うほどの高位貴族だった。コールマス公爵家の嫡男でサミエルといった。影を使ってコールマス公爵家を調べたが、当主は貴族としては高潔ともいえる人だった。しかしそれは仕事や領地経営の上でのことであり、妻とは政略結婚のためか当主にも妻にも愛人がおり、一人息子であるサミエルの養育にはお互いに深くかかわっていなかった。乳母や使用人たちに守られるように大切に育てられてはいたが、寂しい幼少時代を送っていたと思われる。
しかもモリーに対する執着はなかなかのもので、公爵家に嫁ぐには若干爵位が足りないにもかかわらず、サミエルは自分の意見を押しとおしている。両親にしてもわが子がやはりかわいいのか、特段瑕疵のないペートン伯爵家ならと許している。
モリーに婚約者が出来た時には、すぐにでも自分の能力すべてを使って破棄させてやろうと思ったものだ。しかしさすがに能力を使うことは強く反対された。あまりに目立ちすぎるというのだ。しかし今の自分には、コールマス公爵家に打ち勝つほどの地位はない。この時ばかりは、両親の爵位に対する欲のなさを恨んだものだ。
しかしまだ私は、サミエルの執着を軽く見ていた。いくら一目ぼれだろうと、すぐに飽きるだろうと。サミエルとモリーではあまりに価値観が違いすぎる。
ふたりの距離が近づいて仲睦まじくなってきたという報告を聞くまでは。
私は今のモリーが大好きだが、両親から見ればだいぶ一般の貴族子女とはかけ離れてしまったモリーが心配なようだ。モリーは将来私と結婚するのだから、心配しなくてもいいのだが。その時には婚約を結ばなくてはいけないなあと軽く思っていた。
そのお茶会で、本来のお茶会とはかけ離れた作法で、あらかたお菓子を食べつくしたモリーは、お腹がいっぱいになったのか、さっそく庭を探検しようと私を誘ってきた。私もモリーのマナー態度を注意すればよかったのだが、あまり貴族子女らしい彼女を周りに見せてしまい、下手な貴族に目をつけられるのも心配だ。
私は、モリーが口の中にお菓子をどんどん詰め込んで、もぐもぐ楽しそうに食べている姿を黙って見守っていた。やはりというべきかモリーのマナーは、ほかの貴族の子供たちからは遠目に見られて、誰もそばに寄ってこなかった。私はわざとモリーのそばにいて、申し訳ないがモリーには私の防波堤になってもらっていた。
モリーはかわいい。ドレスを着たモリーはそれはそれはかわいかった。ただこれは私だけではなく、ほかのお茶会に招かれた男の子たちも思ったのだろう。最初こそモリーのそばに寄ってきてはいろいろ話しかけてきた。
しかしモリーは、そんな男の子達より目の前のおいしいお菓子に夢中で、お菓子に負けた男の子たちがすごすごとモリーの元から去っていくのを見ては、心の中でほくそ笑んでいた。
「ねえ、エド。こっちに池があるわ」
「あんまり近づくと危ないよ」
私たちは、庭へ向かった。そこには大きな池があった。私がいくら注意してもモリーは池に夢中だ。池の中を覗き込もうとどんどん近づいていく。その時だ。急に視線を感じた。私にではなく、モリーに視線を向けているものがいる。私は、能力の一つなのか人の視線に敏感だ。さりげなくそちらを見ると、自分より少し大きな男の子が、モリーをじっと見つめている。
私がそちらに気をとられているうちに、モリーは池のすぐそばに行ってしまっていた。
やはりというべきか、モリーは池の中に落ちた。いつもの事なのだが、今日はドレス姿だ。しかもよその屋敷でのお茶会だ。私は、慌ててモリーを助けに向かった。
案の定モリーのドレスは泥まみれ、顔も泥がいっぱいついている。落ちた時に泥がはねたのだろう。それでもモリーは楽しそうに笑っていた。私もそんなモリーを見てつい笑ってしまった。私もモリーを助けたことで、洋服が泥で汚れてしまった。
ふたり思わず泥まみれの姿を笑いあっていると、先ほどの視線が強くなった。モリーを助けることで夢中で、その存在を忘れていた。あの視線は、モリーにくぎ付けだ。すごく悪い予感がした。モリーを助けながらも、その視線の先にいる男の子を見るが、少し遠い。警戒してか先ほどの場所から近づいてこない。私は、能力である『支配』が使えなかった。私の能力は、一定以上の距離があると使えないのだ。
しかも横には泥まみれのモリーがいる。このままではモリーが風邪をひいてしまう。仕方なく自分の能力を使うのをあきらめて、屋敷に戻った。
屋敷の人にはあきれられ、私たちは着替えさせてもらった。途中モリーが靴が片方ないといったので、私は慌てて靴を取りに池に戻ったが、靴はどこにもなかった。もしかしたらあの男の子が、見つけて持ち帰ったのかもしれない。いやな予感がした。
私たちは自分たちの屋敷に戻ったが、モリーはさんざん怒られたようだった。それからしばらくは、いつものように平穏な日々が続いた。
私のもとに凶報がもたらされるまでは。
「モリッシュ様がご婚約なさいました」
それはモリーに婚約者が出来たという知らせだった。私には影がいる。私が能力を使ってから、私を守る役目と私の能力をほかに知らしめない役目をするもの達が、私を守ってくれている。そんな者たちの中の一人が、知らせてきた。その影は、モリーの家にも忍ばせている。ゆくゆくは私の大切な婚約者になるものだ。何かあったら大変だということとでつけられているのだが、本当はモリーに何かあったら私の力が暴走してしまうので、それを事前に阻止する目的もあるらしい。
モリーの婚約者となったのは、この国でも1、2を争うほどの高位貴族だった。コールマス公爵家の嫡男でサミエルといった。影を使ってコールマス公爵家を調べたが、当主は貴族としては高潔ともいえる人だった。しかしそれは仕事や領地経営の上でのことであり、妻とは政略結婚のためか当主にも妻にも愛人がおり、一人息子であるサミエルの養育にはお互いに深くかかわっていなかった。乳母や使用人たちに守られるように大切に育てられてはいたが、寂しい幼少時代を送っていたと思われる。
しかもモリーに対する執着はなかなかのもので、公爵家に嫁ぐには若干爵位が足りないにもかかわらず、サミエルは自分の意見を押しとおしている。両親にしてもわが子がやはりかわいいのか、特段瑕疵のないペートン伯爵家ならと許している。
モリーに婚約者が出来た時には、すぐにでも自分の能力すべてを使って破棄させてやろうと思ったものだ。しかしさすがに能力を使うことは強く反対された。あまりに目立ちすぎるというのだ。しかし今の自分には、コールマス公爵家に打ち勝つほどの地位はない。この時ばかりは、両親の爵位に対する欲のなさを恨んだものだ。
しかしまだ私は、サミエルの執着を軽く見ていた。いくら一目ぼれだろうと、すぐに飽きるだろうと。サミエルとモリーではあまりに価値観が違いすぎる。
ふたりの距離が近づいて仲睦まじくなってきたという報告を聞くまでは。
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