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サミエル・コールマス編
出会い
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私サミエル・コールマスは公爵家の嫡男として生まれた。小さい頃から自分が、人から見て特別な対象だと分かっていた。特に女性から。お茶会をしても女の子がすぐに寄ってくる。
周りの大人は、将来が楽しみですねとか親に言っている。私の両親も、私が自慢の息子であることを隠すこともなくある意味大切に育ててくれた。でもそれは外向きだけであり、家の中では勉強、マナーとうるさかった。しかも両親は外では仲良く振舞っているが、お互いに愛人がいて、私が生まれてからは余計両親は離れていった。
家庭教師の先生方も貴族とはそんなものですと、子供にまで教える始末だ。私もそんな両親の姿を見たり、教育を受けて自分も漠然とそんな道をたどるのかと思っていた。
そんなある日、どこかの貴族の屋敷で開かれたお茶会の事だ。いつものようにお茶会で愛想を振りまいていると、女の子たちや私と仲良くするようにと言いくるめられているのだろうか、男の子たちまでわらわらと寄ってきた。
いつもなら軽くあしらうのに、その日ばかりはそれがものすごく苦痛に感じた。
用事があるといってテーブルを抜け出し、人気のない庭のほうへ歩いていった。すると、どこからか笑い声が聞こえてきた。声のするほうを見ると、池のそばに男の子と女の子がいた。女の子は、あまりに池に近づきすぎている。どうやら池の中を覗き込んでいるようだ。ここは貴族の屋敷のお茶会だ。二人ともお茶会の参加者だろう。現に女の子はドレスを着ている。ただ池の中を覗き込もうとする子がいることに驚いた。
「ねえねえ見て見て!この池大きい魚いるわよ」
「モリー、そんなに近づいたら落ちちゃうよ。早くこっちにおいでよ」
「大丈夫よ。ねえそれよりエド来てよ。大きい魚よ。焼いたらおいしそう」
「モリー、こっちに来なよ。危ないったら。ドレス汚したらまた怒られるよ」
「わかった、わかった」
ツルッ__。ドテッ__。バシャ___ン。
「モリー____!!」
「あっはっはっ__。エド、落ちちゃった~」
「だから言ったろ。ほらつかまって!」
「あっはっはっ__。エドも泥まみれになっちゃった」
「モリーのほうがすごいよ。ドレスが泥まみれだ。あっはっはっ」
遠くからでもわかるぐらい、その女の子はびしょぬれだった。しかも池の中の泥で汚れたのだろう。きれいなドレスは泥まみれで、もう何色だったのかもわからないぐらいだった。男の子も自分の洋服が濡れるのも構わず、女の子を助けている。二人は泥まみれにもかかわらず、お互いの恰好を見て笑いあっている。
女の子のこぼれんばかりの笑顔を見ていた私は、胸がどきどきするのを止められなかった。私が見ているのを知らない女の子と男の子は、笑いながら屋敷のほうに戻っていった。私はしばらくその場から動けなかったが、ふと見ると先ほどの女の子の靴だろうか。泥まみれだがかわいらしい靴が、池のほとりに片方残されていた。
私は、その泥まみれの靴を大切に抱えて屋敷に戻った。屋敷の主人にその靴を差し出せば、その主人が苦笑いを浮かべながらいった。
「ありがとうございます。コールマス公爵家のご子息様ですね。この靴の持ち主によく言って聞かせます。本当にあの子はおてんばで...」
「どなたなのですか」
「ああ。あの子はうちの遠縁のもので、ペートン伯爵家のものです」
私は、あの女の子の名前を知ることが出来て嬉しくなった。あの子の輝くばかりの笑顔を思い出した。それからは、私は頑張った。あの子をどうしても手に入れたかった。幼いながらもあの子が、自分にとってかけがいのない者になるだろうという自信があった。
両親にもぜひ婚約者にしたいといった。我が公爵家とあまり目立たない伯爵家では、身分の違いが大きく立ちはだかる。しかし私の強い決意を見て、日ごろ自己主張しない私に両親もびっくりしたのだろう。一応調査したらしく、可もなく不可もないペートン伯爵家のモリッシュ令嬢と婚約が決まった。
初めて顔合わせしたときには、モリッシュは貴族としてはあるまじき感情豊かな顔をしていて、両親に怒られていた。私と二人になった時にも、ブスッとした顔を変えない。それが私にはすごく新鮮で嬉しかった。いつも作り笑いしか見ていない私にとってモリッシュの表情豊かな顔は、あの時の池での出来事を思い起こさせてくれた。
私は、ついモリッシュの前で笑ってしまった。そんな私を見たモリッシュが、びっくりした。
そこからしばらくの間は、少しずつ気を許し始めたモリッシュと楽しい日々を送っていた。やはりというべきかモリッシュは、貴族子女にあるまじき行いばかりしていた。池には近づきたがるし、木には登りたがる、珍しいお菓子は口いっぱいにほおばる。そのすべてが私にはいとおしかった。
しかしそれは一年ぐらいしか続かなかった。ある日いつものようにモリッシュが、我がコールマス公爵邸に来た時だ。モリッシュは、ほかの貴族令嬢と同じような作り笑いを浮かべ私に挨拶してきた。まるで人が変わったかのように、今まで自分の周りにいた貴族子女とおなじ行動をとるようになったのだ。
ひたすら自分に媚びてくる。感情を隠した笑顔を見せる。以前のモリッシュはいなくなってしまったと私には感じられた。それからだ。モリッシュの顔を見たくなくなった。婚約者なのにだ。
気が付けば、モリッシュを避けている自分がいた。
周りの大人は、将来が楽しみですねとか親に言っている。私の両親も、私が自慢の息子であることを隠すこともなくある意味大切に育ててくれた。でもそれは外向きだけであり、家の中では勉強、マナーとうるさかった。しかも両親は外では仲良く振舞っているが、お互いに愛人がいて、私が生まれてからは余計両親は離れていった。
家庭教師の先生方も貴族とはそんなものですと、子供にまで教える始末だ。私もそんな両親の姿を見たり、教育を受けて自分も漠然とそんな道をたどるのかと思っていた。
そんなある日、どこかの貴族の屋敷で開かれたお茶会の事だ。いつものようにお茶会で愛想を振りまいていると、女の子たちや私と仲良くするようにと言いくるめられているのだろうか、男の子たちまでわらわらと寄ってきた。
いつもなら軽くあしらうのに、その日ばかりはそれがものすごく苦痛に感じた。
用事があるといってテーブルを抜け出し、人気のない庭のほうへ歩いていった。すると、どこからか笑い声が聞こえてきた。声のするほうを見ると、池のそばに男の子と女の子がいた。女の子は、あまりに池に近づきすぎている。どうやら池の中を覗き込んでいるようだ。ここは貴族の屋敷のお茶会だ。二人ともお茶会の参加者だろう。現に女の子はドレスを着ている。ただ池の中を覗き込もうとする子がいることに驚いた。
「ねえねえ見て見て!この池大きい魚いるわよ」
「モリー、そんなに近づいたら落ちちゃうよ。早くこっちにおいでよ」
「大丈夫よ。ねえそれよりエド来てよ。大きい魚よ。焼いたらおいしそう」
「モリー、こっちに来なよ。危ないったら。ドレス汚したらまた怒られるよ」
「わかった、わかった」
ツルッ__。ドテッ__。バシャ___ン。
「モリー____!!」
「あっはっはっ__。エド、落ちちゃった~」
「だから言ったろ。ほらつかまって!」
「あっはっはっ__。エドも泥まみれになっちゃった」
「モリーのほうがすごいよ。ドレスが泥まみれだ。あっはっはっ」
遠くからでもわかるぐらい、その女の子はびしょぬれだった。しかも池の中の泥で汚れたのだろう。きれいなドレスは泥まみれで、もう何色だったのかもわからないぐらいだった。男の子も自分の洋服が濡れるのも構わず、女の子を助けている。二人は泥まみれにもかかわらず、お互いの恰好を見て笑いあっている。
女の子のこぼれんばかりの笑顔を見ていた私は、胸がどきどきするのを止められなかった。私が見ているのを知らない女の子と男の子は、笑いながら屋敷のほうに戻っていった。私はしばらくその場から動けなかったが、ふと見ると先ほどの女の子の靴だろうか。泥まみれだがかわいらしい靴が、池のほとりに片方残されていた。
私は、その泥まみれの靴を大切に抱えて屋敷に戻った。屋敷の主人にその靴を差し出せば、その主人が苦笑いを浮かべながらいった。
「ありがとうございます。コールマス公爵家のご子息様ですね。この靴の持ち主によく言って聞かせます。本当にあの子はおてんばで...」
「どなたなのですか」
「ああ。あの子はうちの遠縁のもので、ペートン伯爵家のものです」
私は、あの女の子の名前を知ることが出来て嬉しくなった。あの子の輝くばかりの笑顔を思い出した。それからは、私は頑張った。あの子をどうしても手に入れたかった。幼いながらもあの子が、自分にとってかけがいのない者になるだろうという自信があった。
両親にもぜひ婚約者にしたいといった。我が公爵家とあまり目立たない伯爵家では、身分の違いが大きく立ちはだかる。しかし私の強い決意を見て、日ごろ自己主張しない私に両親もびっくりしたのだろう。一応調査したらしく、可もなく不可もないペートン伯爵家のモリッシュ令嬢と婚約が決まった。
初めて顔合わせしたときには、モリッシュは貴族としてはあるまじき感情豊かな顔をしていて、両親に怒られていた。私と二人になった時にも、ブスッとした顔を変えない。それが私にはすごく新鮮で嬉しかった。いつも作り笑いしか見ていない私にとってモリッシュの表情豊かな顔は、あの時の池での出来事を思い起こさせてくれた。
私は、ついモリッシュの前で笑ってしまった。そんな私を見たモリッシュが、びっくりした。
そこからしばらくの間は、少しずつ気を許し始めたモリッシュと楽しい日々を送っていた。やはりというべきかモリッシュは、貴族子女にあるまじき行いばかりしていた。池には近づきたがるし、木には登りたがる、珍しいお菓子は口いっぱいにほおばる。そのすべてが私にはいとおしかった。
しかしそれは一年ぐらいしか続かなかった。ある日いつものようにモリッシュが、我がコールマス公爵邸に来た時だ。モリッシュは、ほかの貴族令嬢と同じような作り笑いを浮かべ私に挨拶してきた。まるで人が変わったかのように、今まで自分の周りにいた貴族子女とおなじ行動をとるようになったのだ。
ひたすら自分に媚びてくる。感情を隠した笑顔を見せる。以前のモリッシュはいなくなってしまったと私には感じられた。それからだ。モリッシュの顔を見たくなくなった。婚約者なのにだ。
気が付けば、モリッシュを避けている自分がいた。
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