かん子の小さな願い

にいるず

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かん子と正也のこれから

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 「ベランダで夜景見ようぜ」

 正也の発言にかん子が、窓の外を眺めると外はもう真っ暗だった。確かにここからなら夜景がきれいに見えそうだ。

 「かん子、外は寒いから上に何か羽織るもの着ろよ。俺も持ってくる」

 そういって正也は、あのドアから自分の部屋にいったん戻った。かん子もカーディガンをひっぱりだしてきた。
 リビングに行くと、正也も上着を持ってやってきた。

 ふたりで外に出る。正也は、缶ビールをひとつかん子に渡してきた。風はまださすがに昼間とは違いちょっと冷たくなったが、春になっただけあって冬ほどの寒さはなかった。
 周りには高い建物がないだけあって、遠くまでよく見えた。都心の明かりも小さいがきれいに見える。
 
 正也が、缶ビールのふたを開けた。

 シュワ__。

 いい音がした。正也はおいしそうにゴクリゴクリとビールを飲んでいる。かん子も横でおいしそうに飲む正也につられて、缶ビールを飲み始めた。最初の一口はおいしい。さっきのバーガーの味が濃かったせいで、余計においしく感じた。
 
 空には三日月が見えていた。月の近くにあるのは金星だろうか。ひときわ輝く星が三日月のそばで瞬いている。ほかの星もよく見えている。空には、雲らしい雲がない。
 
 「なあ、かん子」

 すでに飲んでしまったらしく、缶を床に置いた正也がこちらを見た。やけにまじめな顔をしている。暗い中正也の端正な顔立ちが陰影によってよけいかっこよく見える。かん子は、自分が飲んだ缶ビールにもう酔っぱらっているのかもしれないと感じた。

 「何?」

 なんとなく直視できなくなったかん子は、夜景に視線を向けて返事をした。正也の視線はひしひしと感じるが。

 「俺さ、昔からお前の事好きだった。今もだけど」

 「えっ?」
 
 かん子は、正也の突然の告白に思い切り正也の顔を見てしまった。正也が、かん子を真剣なまなざしで見ている。

 「も、も、もう酔ってるの?」

 かん子は、なるべく自然に言おうとしたが、つかえてうまく言えなかった。

 「酔ってない。いや少し酔ってるかも。お前にな」

 「っちょっ、ちょっと冗談はやめてよね」

 かん子はすっかり動揺してしまい、顔が火照ってしまった。こんな真顔で言われても、経験値がないかん子はどうしていいかわからない。

 「昔からお前に意地悪したのって、お前の気を引きたかったからだ。今になって考えると、逆効果だったけどな。でもこうやってお前と一緒に暮らすのにあたって、きちんと言っておきたかった。
 俺は、お前の事愛してる」

 「いっ、いっ、一緒に暮らすんじゃないよ。シェアだよ。シェア!」

 「そこかよ。つっこむところ」

 正也は、まじめな顔から少し優しい笑みがこぼれた。
 
 かん子は、ついその笑みに見とれてしまった。

 「で、どうなんだ?お前は?」

 「ど、どうって?」

 「お前の気持ちだよ」

 「へっ。い、い、今混乱してるからわかんない」

 「そうか、じゃあ保留か。さすがかん子だぜ」

 「何がよ」

 「なかなか攻略できないってこと。まあ好きにさせて見せるけどな」

 「そ、そ、そんなに簡単にいかないよ!」

 かん子は精一杯の強がりを言った。かん子は、このままベランダにいると、酔いがもっと回りそうなので、部屋に戻ろうとした。が、よろっとよろけてしまった。

 「おい、何やってるんだ。危ないぞ」

 かん子は、慌てた声を出して飛んできた正也に抱きしめられた。

 「かん子、早く俺の事好きになって」

 抱きしめられて耳元で言われたかん子は、酔うどころか失神しそうになった。ただこうやって正也の中にいると、とても温かくて安心するのだった。

 「おやすみ、かん子」

 抱かれたまま部屋に連れていかれたかん子は、耳元でそういわれて足元がまたもやグラッとするのだった。

 正也は、そんなかん子の様子を見てくすっと笑いながら、あのドアを開けて自分の部屋に戻っていった。


 かん子は立ちすくんだまま、正也の背中が見えなくなるまで見送った。

 

 かん子は、小さい頃から夢があった。それは、かわいいドレスを着て結婚すること。昔王子様とお姫様の物語に書かれていたお話にあこがれていたからだ。それは、かん子の小さな願い。

 正也の後姿を見て、思い出したのはあの物語だった。

 でもあいつって王子様っていうより魔王だよね。かん子は、そう思いながらも顔が自然にほころんでいるのだった。

 終わり。

 ※今までお付き合いいただきましてありがとうございました。

 

 

 
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