かん子の小さな願い

にいるず

文字の大きさ
上 下
43 / 46

かん子の高級マンション暮らし?

しおりを挟む
 かん子のような世間知らずでも、どう見てもここはとても寮には見えない。
 しかもこれは、世間で言われるところの高級マンションではないだろうか。しかもしかも新築であるらしい。
 
 母親に誘われベランダに出て、外の景色を眺めた。町が一望できる。すぐ下に駅がある。どうやら駅のすぐそばらしい。
 ここは最上階のようだ。
 郊外で周りに高い建物がないせいか見晴らしがいい。

 「お母さん、ここほんとに寮なの?」

 はじめて母の美絵子が、いたずらっ子のような顔をして言った。

 「実はね、ここは佐和子さんに紹介されたのよ。かん子もどうかって。正也君も同じマンションらしいの。そこでちょっと頼まれごとしちゃって」

 「えっ___!?頼まれごとって?」

 「正也君のお食事を作ってほしいらしいの?正也君、料理作るの苦手らしくて」

 「ここで一緒に食事するの?まさかここで一緒に住むって言わないよね?」

 かん子はあわてて聞いた。というのも考えてみれば、昨日買った食器やここにある一人用にはいささか大きすぎる冷蔵庫。
 しかも一人で住むには広すぎる部屋。すべてがおかしいのだ。

 「あらっ一緒がよかったの?正也君が知ったら嬉しがるわねえ」

 「違うって」

 あわてて否定する。

 「ここに一緒じゃないわよ。もしそうだったら俊史が許すと思う?」

 「そういえばそうだ!でもあいつはどこに住むの?それにここの家賃、どうなってるの?」

 「ここのお隣だと思うわよ。正也君、後で連絡するそうだから、これからのこといろいろよ~く話し合ってね」

 それだけいうと母の美絵子は、部屋で作業している俊史と父親を見ていった。

 「さあお手伝いしましょうか」

 母の美絵子は戸惑っているかん子をよそに、さっさとベランダから部屋に戻って行った。
 
 かん子も落ち着こうと、深呼吸を何回かしてから部屋にもどった。
 
 荷物の衣装ケース、段ボールはなぜかキッチン横の壁際に積まれていた。

 「お兄ちゃん、衣装ケースはあっちの部屋だよ。それに段ボールも、あっちの部屋に運んでほしいのがあるんだよ」

 「そうか?悪い悪い」

 ちっとも悪くなさそうに俊史は言った。

 「かん子こっちにも棚ほしくないか?優しいお兄ちゃんが買ってやるな。買って持ってきてやるから、その時に一緒に部屋に移動しよう。それまではここに置いておけ」

 「えっ__!?」

 「お兄ちゃんたら、また意地悪して」

 見れば母の美絵子が黒い笑みを浮かべている。その横で父親も苦笑いしているではないか。

 よく見れば、すぐ着る予定の洋服が入っている衣装ケースとホームセンターで買ったキッチン用品などは、きちんと横によけて置いてあった。
 トーテムポールのようにうず高く積まれているものは、俊史の中でたぶんすぐには使わないと判断されたものだろう。間違いなく計算してやったに違いない。理由はわからないが。

 一通り片づければ、もう夕方5時近くになっていた。

 「新築でひととおりお掃除済みだったから、早く済んでよかったわね」

 母の美絵子が当たり前のように言った。
 父親も言う。

 「ここなら安心だな」
 
 「まあ綺麗だけどね」 
 
 なぜかひとり浮かない顔で、俊史が言った。

 「じゃあ私たちは帰りましょう。じゃあ、かん子しっかりやるのよ」

 急に母の美絵子から帰る宣言をされて、かん子はびっくりした。せめて夕食まで一緒にいるかと思っていたのだ。
 さっき冷蔵庫を見たが、当たり前だが中には何も入っていない。
 
 駅の近くだから食べるところはいっぱいあるとは思うのだが、さすがに今日は一人ではいきたくない気分だった。

 「もう帰っちゃうの?夕食一緒に食べようよ~」

 「それもいいな。もうさびしくなったか?今日は、お兄ちゃんが泊ってやろうか?」

 「いい加減にしなさい。ほら帰るわよ。かん子、あとで正也君から連絡来るから待ってるのよ」

 「じゃあ、かん子しっかりやるんだよ」

 父親の言葉を後に、俊史は母の美絵子に引きずられるようにして、玄関に向かっていった。

 「かん子~寂しくなったらすぐ帰ってこいよ~。棚買ってやるからな~、またすぐ来るからな~」 

 慌ただしく三人は帰っていった。

 気づけば部屋の中は、物音一つなくシーンとしている。さっき家族と別れたばかりだというのに、また会いたくなった。
 窓から外を見れば、空が暗くなってきている。

 ベランダに出て、西の空をみやれば空が夕焼け色に綺麗にそまっている。あまりに綺麗でしばらく眺めていると、随分暗くなってきた。
 昼間は暖かくなったとはいえ、まだ4月である。夕方になると、さすがにまだ風が冷たく感じる。

 下のほうを見れば、あたりがうす暗くなったせいか、家々に明かりがついているのが見えた。
 どこからか夕食のにおいが、風に乗ってかすかに匂ってくる。
 その明りと匂いに、急にさびしさを感じたかん子だった。

 そそくさと部屋に戻ったのはいいが、やはりシーンとしている部屋に慣れない。部屋のテレビをつけたのはいいが、見る気分にはなれなかった。結局また消してしまった。

 かん子はソファに座り、いつの間にか体育ずわりになっていた。

 壁にかかっている時計を見れば、6時をすぎている。

 正也はいつ連絡してくれるんだろうと思っていると、どこから物の引きずるような音が聞こえてきた。

 
 ズッ__ ズッ__ ズッ__ ズッ__。

 あたりを見渡して視線が一点でとまる。見間違いでなければ、さきほど積み上げてあった段ボールが少し動いているではないか。
 
 かん子は、あまりの恐怖に逃げようとしたが足が動かない。しかも視線だけは、勝手に段ボールにくぎ付けになっている。
 かん子は気絶したくなった。

 (これってポルターガイスト!?)

 「うっ__うっ__うっ__」

 どこから聞こえてくるのか、うめき声まで聞こてきて、静かな部屋がうめき声と物を引きずるような音でいっぱいになっていった。

 「ぎゃあ~~~!」

 かん子は雄たけびのような声をあげていた。

 「どうした?!かん子~?!なにかあったのか?」

 段ボールと衣装ケースがすごい勢いで崩れ、よく知った顔が現れた。

 この時かん子は、もう意識が半分なかったに違いない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

王妃ですけど、側妃しか愛せない貴方を愛しませんよ!?

天災
恋愛
 私の夫、つまり、国王は側妃しか愛さない。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

処理中です...