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かん子の兄と母とお買いもの1
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よく寝た。かん子は見慣れた天井を見た。よく寝たせいかすっきりしている。
ベッド横の目覚ましを見れば、朝の8時過ぎ。昨日までの研修所生活がまるで昔のことのように感じる。
窓のカーテンを開ければ、すっきりと晴れた青空が見える。
(今日は買い物に行くんだった)
かん子は、着替えをして下に降りていった。
テーブルにつくと兄の俊史が新聞を読んでいる。仕事だったらこの時間にはいないはずだ。
もちろん父親は仕事でいない。
「おはよう~」
「おはよう~。テーブルについていて。今もってくから」
かん子がキッチンに向かって挨拶すると、キッチンから母の美絵子の声がした。
「おはよう。疲れとれた?」
俊史は新聞をたたみながら、かん子に聞いてきた。
「うん、よく寝たからね。それより今日いいの?会社よかったの?」
「おお、今日は買い物付き合ってやるからな」
なんだかおかしい。いつもの俊史ならかん子が寮に入ることを反対こそすれ、寮生活を了承するだけでなく買い物まで付き合うなんてありえない。
なにかあるんじゃないか?
かん子は、ジト~と俊史を見ていたようだ。かん子のジト~視線に参ったのか、あきれたように俊史が言った。
「かん子~どんな顔で俺見てんの~?かわいい妹のため、買い物付き合ってやるっていうのにさ!」
他の人から見れば一見さわやかな笑みを見せた。しかし俊史の日頃をよ~く知っているかん子からすれば、腹黒いとしか言いようのない笑みを向けられて思わずぶるっとしてしまった。
「なにふるってんの?武者震い?っひっひっ」
俊史はなにが受けたのか自分で言った言葉に、整った顔に似合わないいやな笑いで笑いだした。
かん子はこれ以上俊史を相手にするまいと誓い、ちょうど母の美絵子が持ってきてくれた朝食を食べ始めた。
かん子、母、兄の家族三人で買い物に出かけた。兄の俊史に車を出してもらい、まずホームセンターにいった。
母の美絵子は買うものが頭の中に入っているようで、あちこち売り場を移動しながら俊史が押しているカートに、手早く商品を次々と入れて行った。カーテン、布団、やかん、食器などなど。
かん子はと言えば母の美絵子の後を、金魚のフンのごとくくっついていった。
カーテン売り場では色を聞かれ、好きな色を言えば母と兄で何やらサイズなどの相談を勝手にされて、希望の色のカーテンがカートの中に入っていった。
布団といえば部屋にベッドがあるらしく、掛け布団、毛布、ベッドシーツを選んだだけだった。
しかもなぜか母の美絵子はベッドのサイズまで知っていて、これまたなぜかセミダブルのベッドシーツをカートに入れていた。
かん子はあまりにねぞうが悪く、家ではセミダブルのベッドを使っている。それでもたまに床に寝ていることのあるのだが。
寮ではいくらなんでもシングルベッドだと思っていたため、母親がセミダブルのベッドシーツをカートに入れたときには、今までなすがままだったかん子もさすがに異議を唱えた。
「お母さん、さすがに寮はシングルじゃない?」
「セミダブルよ、私がちゃんと言ったもの。かん子のねぞうの悪さを。だからいいのよ」
「え~誰にいったの?会社の人でしょ?そんなことまで聞くの?ベッドまで希望いえるの?」
かん子はわけがわからず母親に尋ねた。こんな恥ずかしいことみんなに知られてしまうなんて、まだうら若き乙女としてはつらすぎる。
「大丈夫だよ、いったのは寮の管理業者の人にだから。でもベッドはシングルでよかったよな~。あいつへんに勘違いしないか?」
俊史がかん子にいった。かん子は業者という言葉に一安心した。途中から意味がわからないところが出てきたが、よく理解できなかったのでスルーすることにした。
俊史は、まだひとりぶつぶついっているので、かん子と母親はそんな俊史をほおっておいて別の売り場にいった。
売り場では食器を選んだが、なぜか母親はすべて二客づつ選んでいる。しかもお茶碗なんてめおと茶碗である。
「ねえお母さん、もうひとつはお兄ちゃんの?お兄ちゃん来るの~?もしかして監視のため?なんで~?それなら同じの二つにして~。お兄ちゃん用よりお母さん用がいい」
かん子が母親にいうと、後ろから声がした。
「そうだな、お兄ちゃんがときどき泊ってやるか。それとも一緒に住んでやるか~。それはそうと母さん、かん子の言うとおり、茶碗は同じの二客でいいんじゃない?」
俊史がめおと茶碗を棚に戻そうとすると、母の美絵子が俊史の手をペシッとたたいて棚に戻すのを阻止した。
「いてぇ___」
俊史は手をさすっている。
「もう~いい加減観念なさい。あれだけいっておいて、自分はまだ未練がましくしてちゃあだめよ」
母親が俊史にまたわけのわからないことを言っている。
俊史はチェッといい、ひとり他の売り場にいった。
「もう~。しょうがないんだから~」
母の美絵子が溜息をつきながらつぶやいた。
母とお風呂用品を選んでいると、さっき別の売り場にいった俊史が何かを抱えて意気揚々と戻ってきた。
「何持ってるの?」
かん子と母の美絵子が俊史の手の中を見れば、巨大な懐中電灯、防犯ブザー、撃退する時のこん棒のようなものを持っている。
そのどれにも“防犯用!”とパッケージに大きな見出しが付いている。
「かん子一人暮らしだからな、これらすべてベッドサイドに置いておけよ。このこん棒なんかは寝るときベッドの中に入れておけ。この巨大な懐中電灯は目くらましになるみたいだからな。よく使い方読んでおけよ」
これにはかん子も母の美絵子も、あいた口がふさがらなかった。
ただひとり俊史だけは、自分の選んだものを見ていたく満足していたのだった。
ベッド横の目覚ましを見れば、朝の8時過ぎ。昨日までの研修所生活がまるで昔のことのように感じる。
窓のカーテンを開ければ、すっきりと晴れた青空が見える。
(今日は買い物に行くんだった)
かん子は、着替えをして下に降りていった。
テーブルにつくと兄の俊史が新聞を読んでいる。仕事だったらこの時間にはいないはずだ。
もちろん父親は仕事でいない。
「おはよう~」
「おはよう~。テーブルについていて。今もってくから」
かん子がキッチンに向かって挨拶すると、キッチンから母の美絵子の声がした。
「おはよう。疲れとれた?」
俊史は新聞をたたみながら、かん子に聞いてきた。
「うん、よく寝たからね。それより今日いいの?会社よかったの?」
「おお、今日は買い物付き合ってやるからな」
なんだかおかしい。いつもの俊史ならかん子が寮に入ることを反対こそすれ、寮生活を了承するだけでなく買い物まで付き合うなんてありえない。
なにかあるんじゃないか?
かん子は、ジト~と俊史を見ていたようだ。かん子のジト~視線に参ったのか、あきれたように俊史が言った。
「かん子~どんな顔で俺見てんの~?かわいい妹のため、買い物付き合ってやるっていうのにさ!」
他の人から見れば一見さわやかな笑みを見せた。しかし俊史の日頃をよ~く知っているかん子からすれば、腹黒いとしか言いようのない笑みを向けられて思わずぶるっとしてしまった。
「なにふるってんの?武者震い?っひっひっ」
俊史はなにが受けたのか自分で言った言葉に、整った顔に似合わないいやな笑いで笑いだした。
かん子はこれ以上俊史を相手にするまいと誓い、ちょうど母の美絵子が持ってきてくれた朝食を食べ始めた。
かん子、母、兄の家族三人で買い物に出かけた。兄の俊史に車を出してもらい、まずホームセンターにいった。
母の美絵子は買うものが頭の中に入っているようで、あちこち売り場を移動しながら俊史が押しているカートに、手早く商品を次々と入れて行った。カーテン、布団、やかん、食器などなど。
かん子はと言えば母の美絵子の後を、金魚のフンのごとくくっついていった。
カーテン売り場では色を聞かれ、好きな色を言えば母と兄で何やらサイズなどの相談を勝手にされて、希望の色のカーテンがカートの中に入っていった。
布団といえば部屋にベッドがあるらしく、掛け布団、毛布、ベッドシーツを選んだだけだった。
しかもなぜか母の美絵子はベッドのサイズまで知っていて、これまたなぜかセミダブルのベッドシーツをカートに入れていた。
かん子はあまりにねぞうが悪く、家ではセミダブルのベッドを使っている。それでもたまに床に寝ていることのあるのだが。
寮ではいくらなんでもシングルベッドだと思っていたため、母親がセミダブルのベッドシーツをカートに入れたときには、今までなすがままだったかん子もさすがに異議を唱えた。
「お母さん、さすがに寮はシングルじゃない?」
「セミダブルよ、私がちゃんと言ったもの。かん子のねぞうの悪さを。だからいいのよ」
「え~誰にいったの?会社の人でしょ?そんなことまで聞くの?ベッドまで希望いえるの?」
かん子はわけがわからず母親に尋ねた。こんな恥ずかしいことみんなに知られてしまうなんて、まだうら若き乙女としてはつらすぎる。
「大丈夫だよ、いったのは寮の管理業者の人にだから。でもベッドはシングルでよかったよな~。あいつへんに勘違いしないか?」
俊史がかん子にいった。かん子は業者という言葉に一安心した。途中から意味がわからないところが出てきたが、よく理解できなかったのでスルーすることにした。
俊史は、まだひとりぶつぶついっているので、かん子と母親はそんな俊史をほおっておいて別の売り場にいった。
売り場では食器を選んだが、なぜか母親はすべて二客づつ選んでいる。しかもお茶碗なんてめおと茶碗である。
「ねえお母さん、もうひとつはお兄ちゃんの?お兄ちゃん来るの~?もしかして監視のため?なんで~?それなら同じの二つにして~。お兄ちゃん用よりお母さん用がいい」
かん子が母親にいうと、後ろから声がした。
「そうだな、お兄ちゃんがときどき泊ってやるか。それとも一緒に住んでやるか~。それはそうと母さん、かん子の言うとおり、茶碗は同じの二客でいいんじゃない?」
俊史がめおと茶碗を棚に戻そうとすると、母の美絵子が俊史の手をペシッとたたいて棚に戻すのを阻止した。
「いてぇ___」
俊史は手をさすっている。
「もう~いい加減観念なさい。あれだけいっておいて、自分はまだ未練がましくしてちゃあだめよ」
母親が俊史にまたわけのわからないことを言っている。
俊史はチェッといい、ひとり他の売り場にいった。
「もう~。しょうがないんだから~」
母の美絵子が溜息をつきながらつぶやいた。
母とお風呂用品を選んでいると、さっき別の売り場にいった俊史が何かを抱えて意気揚々と戻ってきた。
「何持ってるの?」
かん子と母の美絵子が俊史の手の中を見れば、巨大な懐中電灯、防犯ブザー、撃退する時のこん棒のようなものを持っている。
そのどれにも“防犯用!”とパッケージに大きな見出しが付いている。
「かん子一人暮らしだからな、これらすべてベッドサイドに置いておけよ。このこん棒なんかは寝るときベッドの中に入れておけ。この巨大な懐中電灯は目くらましになるみたいだからな。よく使い方読んでおけよ」
これにはかん子も母の美絵子も、あいた口がふさがらなかった。
ただひとり俊史だけは、自分の選んだものを見ていたく満足していたのだった。
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