かん子の小さな願い

にいるず

文字の大きさ
上 下
18 / 46

かん子の天敵朝居正也 その3

しおりを挟む
 かん子は中学生になった。
 兄の俊史が行っている同じ中高一貫校の中等部にいくことになった。ありがたいことに、そこはかん子の家から近く、仲良しの子たちも何人か行くことになったのでかん子はうれしかった。
 その中学校は、今まで行っていた小学校とは逆方向にある。

 あのひきがえること朝居正也とは会わなくなった。あだ名で呼ばれることもなくなって、毎日すがすがしく感じた。
 特に学校の帰りに、嫌な思いをしなくていいのである。

 (なんて素敵な毎日なんだろう~)

 今までは正也の嫌がらせから早く逃れたくて、とにかく急ぎ足で家に帰っていたのである。最近では近所の犬にさえ愛想を振りまいて、のんびり学校から帰っている。
 ただ同じ小学校からの友達が、たまに正也のことを話題にするときだけは、以前感じたもやもやした気分が蘇るのだった。

 とはいえかん子も中学校を謳歌していく。この頃は、今とは違い花も恥じらう乙女であった。

 かん子にも好きな男の子がはじめてできたのである。
 そんなこんなで正也のことは、すっかり記憶から消えていったのであった。

 
 かん子はソフトボール部に入った。本当はテニス部に入りたかったのだが、あまりに入部希望者が多くじゃんけんで負けてしまいソフトボール部にはいったのである。
 別にテニス部にどうしても入りたいといったわけではなく、ただテニス部という響きがいいというだけで決めたので、ソフトボール部になってもよかった。

 それにそのおかげでかん子は初恋をしたのであった。

 テニス部は専用コートがあってそこで練習しているのだが、ソフトボール部はサッカー部と練習するグラウンドが同じだった。
 ソフトボール部も他の部活と同じで、一年生は玉拾いと体力づくりが毎日のメニューであった。体力作りは主にグラウンドの隅、グラウンドの真ん中で練習をしているサッカー部に目がいくようになった。

 その中でもひときわ輝いている男の子がいた。
 1学年上の子だった。背が高く太陽の光にさらさらの髪が輝いている。一生懸命ボールを追っている姿がカッコよかった。

 かん子は、毎日毎日彼を目で追うようになった。

 もちろんそれだけ輝いている彼である。熱い視線を送っているのは、もちろんかん子だけであるはずがなくファンが大勢いた。
 しかも風の噂で、彼女までいるらしいことまで聞こえてきた。

 それでもかん子はよかった。ただ見ているだけで幸せだった。かん子にとって彼は、たぶんテレビの中のアイドル的存在だったのかもしれない。
 
 そうして一年が過ぎた。
 かん子も2年生になった。かん子の学校では、入学式の準備を2年生がお手伝いをすることになっている。

 かん子は、当日正門で新入生を案内する係となった。正門横には大きな桜の木があった。
 今年はちょうど今、桜が満開だった。

 まだ早い時間だったせいか、新入生はちらほらしかこない。

 その時強い風が吹いてきて、風が桜の花びらを散らした。
 かん子が立っている場所にも桜の花びらが舞ってきた。

 しかも華吹雪のようにいっぱいの花びらが、かん子の前で揺れながら地面に落ちていった。
 ついそれに見とれてしまった。

 だから後ろから声がした時にはびくっとしてしまった。

 「おい!缶づめかん子!ちゃんと案内しろよ!」

 
 (え___!ちょっと待って___?!)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?

星野真弓
恋愛
 十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。  だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。  そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。  しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。

春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。 それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。 にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。

処理中です...