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93 お礼をいいます
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しばらく皆さんと話をしました。話題は、記者たちをまくための近藤さんたちの奮闘ぶりの様子です。
「いつも冷静な鈴木課長がはりきるもんだから、こっちも力が入っちゃったよ」
「そうね。小田係長なんてテレビでよく見るようなことをやってるんだもの。見ていて吹き出しそうだったわ」
「そりゃあそうだよ。あんなことテレビで見たことしかないんだから。でも実際やってみると、大変だよね。でもさ、面白かったよ。疲れたけどさ」
小田係長があの時にしたことを身振り手振りでまねして教えてくれます。それを見た私たちは、おかしくてたまりませんでした。特に大笑いしたのは近藤さんです。あの時の事を思い出したのでしょう。
「それにしてもよかったわね。無事に片付いて。でもあの御曹司、イケメンだったわね。実際見てどうだった?」
ひとしきり大笑いした近藤さんが私に聞いてきました。目が真剣です。間近で見たであろう私の感想をどうしても聞きたいようですよ。
「あの時にはびっくりして、顔をよく見ていないんです」
「そうなの~。残念ね。でもまあいいわよね。あれだけイケメンだと自国で彼女の一人、二人それとも十人ぐらいかしら。大勢いそうだものね」
あそこまでイケメンだと結婚してから大変そうよねと近藤さんがつぶやいています。
「お嬢様、これはどうなさいますか?」
後ろでずっと控えてくれていた運転手兼護衛の方が、ずっと両手に持っていた紙袋を差し出してきました。すみません。忘れていました。慌てて紙袋を受け取ります。
「これ、皆さんで召し上がってください」
近くの机に紙袋を置きました。
「これってあの有名なお店のよね!」
近藤さんが目をキラキラさせて紙袋を見つめています。
「ありがとう」
今まで黙っていた鈴木課長が私を見てお礼を言ってくれました。その目は穏やかです。なぜかある人を思い出してしまいました。
「あの、たくさん用意しましたので、一階にも渡していただけたら...」
私は紙袋を見つめている近藤さんにお願いすることにしました。そういえば桧垣さんや杉さんにもお世話になりました。渡していただけるとありがたいのですが。
「そうそう。桧垣さんや杉さんも手伝ってくれたのよね。渡しておくわよ」
小さな箱入りのお菓子がいくつかと皆さんで食べるように大きな箱のお菓子を用意してあります。箱に名前が書いてあるので、お願いしますね。
「仕事中なのにありがとうございました。ではこれで失礼します」
私は、仕事中なのに貴重な時間を割いて相手をしてくれている皆さんにお礼を言って帰ろうとしました。本当はいつまでもここにいたいぐらいなのですが。
もうここに来ることはないと思うとまた涙がこみ上げてきます。
「やっぱり柳さんて本当のお嬢様だったのね。さっきも『お嬢様』って呼ばれていたし。でも本当に楽しかったわ。本音を言うとまた一緒に働きたいんだけれど、そういうわけにもいかないものね」
「そうだね。とてもじゃないけれど、もう雑用なんてやってもらう訳にもいかないしね」
近藤さんと小田係長が何だかしんみりしています。
「さあさあ、笑顔で送り出してあげようよ」
鈴木課長が明るい声を上げて空気を変えようとしてくれます。
「そうね」
「そうだよ。笑顔で見送らなくちゃあ」
しんみりしていた近藤さんと小田係長も笑顔を作って私を見送ってくれるようです。さっきまでいた護衛の方は、もういつの間にかいなくなっています。きっと玄関にいるのでしょう。
私は、一階に降りていきました。ほかの皆さんは私の後ろについてきています。階段を下りると桧垣さんや杉さんが立っていました。
杉さんが私の方に近づいてきました。
「今までごめんなさいね。私あなたの代わりにお嬢様ぶっていて。本当にごめんなさい」
「いえいえ。こちらこそ何も言わずにすみませんでした」
杉さんが私と目が合うなり謝ってきました。謝らなくてはいけないのは、私の方です。こちらこそ申し訳なく思っています。そういえば杉さんにお会いしたら、これだけは聞かなくてはと思っていたことがありました。
「杉さん、お仕事大丈夫ですか? 他の会社へ行くこともできますよ。もし必要ならいつでも言ってください」
私は、久美ちゃんの連絡先が書いてある名刺を杉さんに渡しました。久美ちゃんにお願いしてあるのです。もしかしたら杉さんは今の会社で働きづらいかもって。その時には別の会社を紹介してあげてほしいと。
杉さんは私から名刺を受け取ると、吹っ切れたような笑顔を私に見せてくれました。
「私、この会社で頑張るわ。今までどうしようもない働き方しかしていなかったけれど、柳さんを見ていて思ったの。すごく楽しそうに働いているなあって。私も自分が出来る範囲でちゃんと働いてみるわ。それに桧垣さんがもっといろいろ仕事教えてくれるって言ってくれたの。こんな私にね」
杉さんが後ろにいる桧垣さんを見ると、桧垣さんはうんうんとうなづいています。私が桧垣さんに頭を下げると、桧垣さんも手を振ってくれます。
そうして私は、皆さんに見送られながら会社を出ました。待たせてあった車に乗り込みます。サイドウィンドウを開けて手を振ります。
「頑張ってね~」
「いつでも遊びにきてね~」
「何言ってるんだよ」
皆さんの声が車の中にまで聞こえてきます。最後まで近藤さんと小田係長の掛け合いが聞こえてきました。
本当に皆さんありがとうございました。
「いつも冷静な鈴木課長がはりきるもんだから、こっちも力が入っちゃったよ」
「そうね。小田係長なんてテレビでよく見るようなことをやってるんだもの。見ていて吹き出しそうだったわ」
「そりゃあそうだよ。あんなことテレビで見たことしかないんだから。でも実際やってみると、大変だよね。でもさ、面白かったよ。疲れたけどさ」
小田係長があの時にしたことを身振り手振りでまねして教えてくれます。それを見た私たちは、おかしくてたまりませんでした。特に大笑いしたのは近藤さんです。あの時の事を思い出したのでしょう。
「それにしてもよかったわね。無事に片付いて。でもあの御曹司、イケメンだったわね。実際見てどうだった?」
ひとしきり大笑いした近藤さんが私に聞いてきました。目が真剣です。間近で見たであろう私の感想をどうしても聞きたいようですよ。
「あの時にはびっくりして、顔をよく見ていないんです」
「そうなの~。残念ね。でもまあいいわよね。あれだけイケメンだと自国で彼女の一人、二人それとも十人ぐらいかしら。大勢いそうだものね」
あそこまでイケメンだと結婚してから大変そうよねと近藤さんがつぶやいています。
「お嬢様、これはどうなさいますか?」
後ろでずっと控えてくれていた運転手兼護衛の方が、ずっと両手に持っていた紙袋を差し出してきました。すみません。忘れていました。慌てて紙袋を受け取ります。
「これ、皆さんで召し上がってください」
近くの机に紙袋を置きました。
「これってあの有名なお店のよね!」
近藤さんが目をキラキラさせて紙袋を見つめています。
「ありがとう」
今まで黙っていた鈴木課長が私を見てお礼を言ってくれました。その目は穏やかです。なぜかある人を思い出してしまいました。
「あの、たくさん用意しましたので、一階にも渡していただけたら...」
私は紙袋を見つめている近藤さんにお願いすることにしました。そういえば桧垣さんや杉さんにもお世話になりました。渡していただけるとありがたいのですが。
「そうそう。桧垣さんや杉さんも手伝ってくれたのよね。渡しておくわよ」
小さな箱入りのお菓子がいくつかと皆さんで食べるように大きな箱のお菓子を用意してあります。箱に名前が書いてあるので、お願いしますね。
「仕事中なのにありがとうございました。ではこれで失礼します」
私は、仕事中なのに貴重な時間を割いて相手をしてくれている皆さんにお礼を言って帰ろうとしました。本当はいつまでもここにいたいぐらいなのですが。
もうここに来ることはないと思うとまた涙がこみ上げてきます。
「やっぱり柳さんて本当のお嬢様だったのね。さっきも『お嬢様』って呼ばれていたし。でも本当に楽しかったわ。本音を言うとまた一緒に働きたいんだけれど、そういうわけにもいかないものね」
「そうだね。とてもじゃないけれど、もう雑用なんてやってもらう訳にもいかないしね」
近藤さんと小田係長が何だかしんみりしています。
「さあさあ、笑顔で送り出してあげようよ」
鈴木課長が明るい声を上げて空気を変えようとしてくれます。
「そうね」
「そうだよ。笑顔で見送らなくちゃあ」
しんみりしていた近藤さんと小田係長も笑顔を作って私を見送ってくれるようです。さっきまでいた護衛の方は、もういつの間にかいなくなっています。きっと玄関にいるのでしょう。
私は、一階に降りていきました。ほかの皆さんは私の後ろについてきています。階段を下りると桧垣さんや杉さんが立っていました。
杉さんが私の方に近づいてきました。
「今までごめんなさいね。私あなたの代わりにお嬢様ぶっていて。本当にごめんなさい」
「いえいえ。こちらこそ何も言わずにすみませんでした」
杉さんが私と目が合うなり謝ってきました。謝らなくてはいけないのは、私の方です。こちらこそ申し訳なく思っています。そういえば杉さんにお会いしたら、これだけは聞かなくてはと思っていたことがありました。
「杉さん、お仕事大丈夫ですか? 他の会社へ行くこともできますよ。もし必要ならいつでも言ってください」
私は、久美ちゃんの連絡先が書いてある名刺を杉さんに渡しました。久美ちゃんにお願いしてあるのです。もしかしたら杉さんは今の会社で働きづらいかもって。その時には別の会社を紹介してあげてほしいと。
杉さんは私から名刺を受け取ると、吹っ切れたような笑顔を私に見せてくれました。
「私、この会社で頑張るわ。今までどうしようもない働き方しかしていなかったけれど、柳さんを見ていて思ったの。すごく楽しそうに働いているなあって。私も自分が出来る範囲でちゃんと働いてみるわ。それに桧垣さんがもっといろいろ仕事教えてくれるって言ってくれたの。こんな私にね」
杉さんが後ろにいる桧垣さんを見ると、桧垣さんはうんうんとうなづいています。私が桧垣さんに頭を下げると、桧垣さんも手を振ってくれます。
そうして私は、皆さんに見送られながら会社を出ました。待たせてあった車に乗り込みます。サイドウィンドウを開けて手を振ります。
「頑張ってね~」
「いつでも遊びにきてね~」
「何言ってるんだよ」
皆さんの声が車の中にまで聞こえてきます。最後まで近藤さんと小田係長の掛け合いが聞こえてきました。
本当に皆さんありがとうございました。
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