77 / 104
77 お相手はまさかのあの人でした
しおりを挟む
舞子さんたちがお兄様と話をしています。花蓮さんが肩にかけていた小さなバッグから手帳を取り出しました。どうやらあみだくじを作るようです。
「さあ名前を書いてくださいな。棒を一本引いてくださいね」
速攻で作ったのかあみだくじを書いた紙を持って、舞子さんがやってきました。男性陣のところにはお兄様が回っています。
私は自分の名前を書いて願いを込めて棒を一本引きました。久子さんも続きます。私と久子さんが書いた後に舞子さんたちも自分の名前を書き入れていました。
お兄様が紙を持ってやってきました。舞子さんたちとあみだくじの結果を確認しています。
私と久子さんはその様子を少し離れたところから見ていました。
その時です。それまで紙を見ていたお兄様が、不意に顔を上げて私の方を見ました。なんだか残念そうな変な顔をしているではありませんか。いやな予感がします。
「では、発表します!」
舞子さんが男性陣の紙と女性陣の紙を見比べています。舞子さんが名前を読み上げていきます。
「え~っとまずは、千代子さんは清徳さんですね。それから久子さんは慎一郎さん。花蓮さんは押村さん。京香さんは青木さん。私は白井さんです。以上です」
「一緒だな。よろしく」
私の隣に清徳さんがやってきました。
私はその声を無視して、舞子さんが持っている紙のところに向かいました。舞子さんが私に紙を渡してくれます。その紙を見ると、なんと私が付けた棒が原因でした。もっとほかのところに付ければよかった。後悔しても仕方ありません。私ががっくりと肩を落としたのを見ていたお兄様が、私の肩をそっとたたいてくれます。まるでどんまいといっているように感じました。
「早く行こう」
そんな私の気持ちをよそに、再び清徳さんが私の横にやってきました。なんだかせかされています。
私は、のろのろと亀の様に歩きながら周りを見渡しました。ちょうど私の先に立っている押村さんが見えました。押村さんは、まるで花蓮さんをエスコートでもするかのように案内しているではありませんか。花蓮さんも嬉しそうです。
他の人たちはと見れば久子さんも心なしか顔を赤くして、お兄様と仲良く並んでボートのほうに歩いていっています。舞子さんは地面から五センチほど足が浮いているぐらいの勢いで、白井さんの腕をつかんでボート乗り場に小走りに急いでいます。白井さんは苦笑いしながらも後に続いています。
その先に青木さんと京香さんが見えました。青木さんと京香さんはボート乗り場に向かうところでした。私と目が合った青木さんは、手を振ってくれます。隣にいる京香さんも私に手を振ってくれました。なんだか楽しそうに見えますよ。
楽しそうな二人を見送って、気が付けば私一人だけ取り残されていました。清徳さんはどこ行った! と見やれば、彼はすでにボートの前に立っています。手を振り回して私を手招きしているではありませんか。
先ほど見た押村さんと大違いです。人をほおって自分だけ先に行っているとは。私がむかむかしながら行くと、清徳さんが満面の笑みで言ってきました。
「白鳥型のボートにしておいた。昔気に入っていただろう」
清徳さんは先にボートを選びに行ったのですね。まるで子供ですね。それにしても白鳥型のボートは足でペダルを押して進むんですよ。私も手伝わないといけないじゃないですか。
ボート乗り場では、皆さんボートに乗り込むところでした。男性陣は、皆女性陣が乗り込むのをお手伝いしています。女性陣の皆さん、あんなに嬉しそうな顔をして乗っていますよ。うらやましい限りです。
清徳さんは先に一人でどんどん乗り込んでしまったので、私は係りの人に支えられてボートに乗り込みました。私は、面白くなくて思いっきりむっとした顔をしてしまいました。
気が付けば、乗り込むお手伝いをしてくれた係りの人が申し訳なさそうな顔をしています。すみません。あなたにではないですよ。清徳さん、少しは周りを見てください!
「さあいこう」
清徳さんは、私が乗り込むや否や勝手にこぎ始めました。ずいぶんご機嫌です。私もいやいやこぎ始めます。
「狭いな」
こいでいると、隣から声がしました。見ると、清徳さんは窮屈そうです。狭いせいで足が思う様に伸ばせなくてこぎにくそうです。反対に私は、座席からペダルの距離が遠くてこぎにくくて仕方ありません。足がつりそうです。
私が清徳さんのこぐ様子をじっとりと見ていたせいでしょう。清徳さんと目が合いました。今度は、清徳さんが私のこぐ様子をじっと見ています。
「足がおろそかになっていますよ!」
あまりに見られて恥ずかしくなり、清徳さんに喝を入れてあげました。清徳さんは、私の意図に気が付いたのか、にやりとして前をむいてこぎはじめます。
「反対にこぎにくそうだな。大丈夫! 二人分こぐから」
情けは無用です。私はこぐペダルに力を込めました。
しかし一分もしないうちに、暑さと疲れでペダルに足をのせているだけになっていきました。まあ清徳さんもああいったしお任せするかと思い、ちらりと清徳さんを見れば、私と違い思ったより涼しい顔でこいでいます。
私が、周りの景色を堪能し始めた時です。
「千代子さん!」
声がしました。声のする方を見れば、青木さんが二人乗りのボートをこぎながら手を振っています。私も手を振ります。ボートをこいでいる青木さんは、湖面からきらきら光る太陽を受けてよりかっこよく見えました。
ちょうど私たちが乗っているボートと青木さんの乗っているボートの速度が同じなのでしょう。並走しています。
私はのんびりと青木さんのボートを眺めていました。
すると急に私と青木さんのボートが、すーっと離れていきました。どんどん距離が離れていきます。
えっ? と思い横を見れば、先ほどまで涼しそうな顔をしていたはずの清徳さんの眉間に、しわが寄っています。しかも額にはうっすらと汗がにじんでいるようです。足元を見れば先ほどより、こぐ速度が増しているではありませんか。
再び青木さんのボートを見ると、青木さんと隣に乗っている京香さんが手を振っているのが見えました。ボートがどんどん小さくなっていきます。
さようなら~。
「さあ名前を書いてくださいな。棒を一本引いてくださいね」
速攻で作ったのかあみだくじを書いた紙を持って、舞子さんがやってきました。男性陣のところにはお兄様が回っています。
私は自分の名前を書いて願いを込めて棒を一本引きました。久子さんも続きます。私と久子さんが書いた後に舞子さんたちも自分の名前を書き入れていました。
お兄様が紙を持ってやってきました。舞子さんたちとあみだくじの結果を確認しています。
私と久子さんはその様子を少し離れたところから見ていました。
その時です。それまで紙を見ていたお兄様が、不意に顔を上げて私の方を見ました。なんだか残念そうな変な顔をしているではありませんか。いやな予感がします。
「では、発表します!」
舞子さんが男性陣の紙と女性陣の紙を見比べています。舞子さんが名前を読み上げていきます。
「え~っとまずは、千代子さんは清徳さんですね。それから久子さんは慎一郎さん。花蓮さんは押村さん。京香さんは青木さん。私は白井さんです。以上です」
「一緒だな。よろしく」
私の隣に清徳さんがやってきました。
私はその声を無視して、舞子さんが持っている紙のところに向かいました。舞子さんが私に紙を渡してくれます。その紙を見ると、なんと私が付けた棒が原因でした。もっとほかのところに付ければよかった。後悔しても仕方ありません。私ががっくりと肩を落としたのを見ていたお兄様が、私の肩をそっとたたいてくれます。まるでどんまいといっているように感じました。
「早く行こう」
そんな私の気持ちをよそに、再び清徳さんが私の横にやってきました。なんだかせかされています。
私は、のろのろと亀の様に歩きながら周りを見渡しました。ちょうど私の先に立っている押村さんが見えました。押村さんは、まるで花蓮さんをエスコートでもするかのように案内しているではありませんか。花蓮さんも嬉しそうです。
他の人たちはと見れば久子さんも心なしか顔を赤くして、お兄様と仲良く並んでボートのほうに歩いていっています。舞子さんは地面から五センチほど足が浮いているぐらいの勢いで、白井さんの腕をつかんでボート乗り場に小走りに急いでいます。白井さんは苦笑いしながらも後に続いています。
その先に青木さんと京香さんが見えました。青木さんと京香さんはボート乗り場に向かうところでした。私と目が合った青木さんは、手を振ってくれます。隣にいる京香さんも私に手を振ってくれました。なんだか楽しそうに見えますよ。
楽しそうな二人を見送って、気が付けば私一人だけ取り残されていました。清徳さんはどこ行った! と見やれば、彼はすでにボートの前に立っています。手を振り回して私を手招きしているではありませんか。
先ほど見た押村さんと大違いです。人をほおって自分だけ先に行っているとは。私がむかむかしながら行くと、清徳さんが満面の笑みで言ってきました。
「白鳥型のボートにしておいた。昔気に入っていただろう」
清徳さんは先にボートを選びに行ったのですね。まるで子供ですね。それにしても白鳥型のボートは足でペダルを押して進むんですよ。私も手伝わないといけないじゃないですか。
ボート乗り場では、皆さんボートに乗り込むところでした。男性陣は、皆女性陣が乗り込むのをお手伝いしています。女性陣の皆さん、あんなに嬉しそうな顔をして乗っていますよ。うらやましい限りです。
清徳さんは先に一人でどんどん乗り込んでしまったので、私は係りの人に支えられてボートに乗り込みました。私は、面白くなくて思いっきりむっとした顔をしてしまいました。
気が付けば、乗り込むお手伝いをしてくれた係りの人が申し訳なさそうな顔をしています。すみません。あなたにではないですよ。清徳さん、少しは周りを見てください!
「さあいこう」
清徳さんは、私が乗り込むや否や勝手にこぎ始めました。ずいぶんご機嫌です。私もいやいやこぎ始めます。
「狭いな」
こいでいると、隣から声がしました。見ると、清徳さんは窮屈そうです。狭いせいで足が思う様に伸ばせなくてこぎにくそうです。反対に私は、座席からペダルの距離が遠くてこぎにくくて仕方ありません。足がつりそうです。
私が清徳さんのこぐ様子をじっとりと見ていたせいでしょう。清徳さんと目が合いました。今度は、清徳さんが私のこぐ様子をじっと見ています。
「足がおろそかになっていますよ!」
あまりに見られて恥ずかしくなり、清徳さんに喝を入れてあげました。清徳さんは、私の意図に気が付いたのか、にやりとして前をむいてこぎはじめます。
「反対にこぎにくそうだな。大丈夫! 二人分こぐから」
情けは無用です。私はこぐペダルに力を込めました。
しかし一分もしないうちに、暑さと疲れでペダルに足をのせているだけになっていきました。まあ清徳さんもああいったしお任せするかと思い、ちらりと清徳さんを見れば、私と違い思ったより涼しい顔でこいでいます。
私が、周りの景色を堪能し始めた時です。
「千代子さん!」
声がしました。声のする方を見れば、青木さんが二人乗りのボートをこぎながら手を振っています。私も手を振ります。ボートをこいでいる青木さんは、湖面からきらきら光る太陽を受けてよりかっこよく見えました。
ちょうど私たちが乗っているボートと青木さんの乗っているボートの速度が同じなのでしょう。並走しています。
私はのんびりと青木さんのボートを眺めていました。
すると急に私と青木さんのボートが、すーっと離れていきました。どんどん距離が離れていきます。
えっ? と思い横を見れば、先ほどまで涼しそうな顔をしていたはずの清徳さんの眉間に、しわが寄っています。しかも額にはうっすらと汗がにじんでいるようです。足元を見れば先ほどより、こぐ速度が増しているではありませんか。
再び青木さんのボートを見ると、青木さんと隣に乗っている京香さんが手を振っているのが見えました。ボートがどんどん小さくなっていきます。
さようなら~。
0
お気に入りに追加
635
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
運命の歯車が壊れるとき
和泉鷹央
恋愛
戦争に行くから、君とは結婚できない。
恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。
他の投稿サイトでも掲載しております。
【完結】転生王子は、今日も婚約者が愛しい
珊瑚
恋愛
前世、ビジュアルに惹かれてプレイした乙女ゲームの世界に攻略対象として転生した事に気がついたステファン。
前世の推しで、今世の婚約者である悪役令嬢・オリヴィアを自分は絶対に幸せにすると誓った。
だが無常にも、ヒロインはステファン攻略ルートに入ってしまったようで……
あいつに惚れるわけがない
茉莉 佳
恋愛
思い切って飛び込んだ新世界は、奇天烈なところだった。。。
文武両道で良家のお嬢様、おまけに超絶美少女のJK3島津凛子は、そんな自分が大っ嫌い。
『自分を変えたい』との想いで飛び込んだコスプレ会場で、彼女はひとりのカメラマンと出会う。
そいつはカメコ界では『神』とも称され、女性コスプレイヤーからは絶大な人気を誇り、男性カメコから妬み嫉みを向けられている、イケメンだった。
痛いコスプレイヤーたちを交えてのマウント(&男)の取り合いに、オレ様カメコと負けず嫌いお嬢の、赤裸々で壮絶な恋愛バトルがはじまる!
*この作品はフィクションであり、実在の人物・地名・企業、商品、団体等とは一切関係ありません。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる