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47 会社に出勤です
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憂鬱な月曜日がやってきました。土曜日のことを思い出すと気分は最悪です。けれど休むわけにはいかないので、気合を入れて会社に向かいました。テンションを上げるためにも昨日買ったシンプルなワンピースを着ることにしました。ただ買った時には、シンプルに見えたワンピースですが、いざ会社の更衣室に入っていくと、周りの景色が灰色ばかりのせいかいつもより少し華やかな装いに見えます。
「今日のワンピースおしゃれね」
ちょうど更衣室にいた桧垣さんに見られてしまいました。
「ありがとうございます」
「よく似合っているわよ。素敵!」
朝からほめられて、単純な私はテンションが上がりました。ありがとうございます。桧垣さん!
席に着くと、視線を感じました。視線の方向から考えて、視線の主はどう見ても青木さんのような気がします。ただいつもならそちらを見るのですが、今日はさすがに見ないように努力しました。きっとまだ見ているのでしょう。まだ視線を感じます。それからも時々感じましたが、あえて見ないようにしていました。
それと同時に近藤さんの視線も感じるようになりました。二、三日たったお昼の事です。お昼ご飯を食べ終わってのんびりしているときに、近藤さんがこそっと聞いてきました。やはり私の態度がおかしいと感じたのでしょう。
「ねえ、青木君と喧嘩か何かした?」
「いえ。何もないです」
私は、近藤さんの方を見ずに話しました。
「そう? ならいいんだけど。青木君が何かしたのかと思って」
「いえ。何もされてないです」
近藤さんに本当のことを言うわけにはいきません。この会社にはまだ働いていたいのです。どうしたらいいのでしょうか? でもこのままではいけませんよね。
「まあ若い二人だものね。いろいろあるわよね。でも青木君、よく柳さんのこと見てるわよ。何か青木君、柳さんに話があるんじゃあないかしら。彼に肩入れするわけじゃあないんだけどね」
「そうですか。すみません。ご心配をおかけして」
「いえいえ。ちょっと気になっただけだから。こっちこそごめんなさいね」
近藤さんは、それ以上何も言わずいつも引き出しにしまってある高級チョコレートをおすそ分けしてくれました。近藤さんに言われてやはり今のままではいけないと思い、ちょうど廊下で青木さんにすれ違ったとき、私は意を決して言いました。
「青木さん、申し訳ありませんがあまりこちらばかり見られると、ほかの方にいろいろ勘違いされるので、見ないでいただけると助かります」
「ごめん。でも話があるんだ。時間をくれないか」
「すみません。私、青木さんとお話しすることはないです」
そう言い切って、まだ何か言おうとしている青木さんを振り切って逃げるように歩きだしました。
そのおかげでしょうか。それからは青木さんの視線を感じることはなくなりました。ただ今度は、近藤さんの気遣うような視線を感じることが多くなりました。
金曜日になりました。お昼の時です。
「ねえ、柳さん。今日の仕事が終わったら何か用事ある? もしよかったら仕事が終わったら近くのカフェに行かない? あそこ特製プリンがおいしいのよ」
「予定はないです。ありがとうございます」
「じゃあ。カフェで待ち合わせね。仕事が終わったら来てね」
近藤さんにカフェに誘われました。もしかしたら青木さんがらみのことかもしれませんね。仕方ありません。近藤さんが心配してくれているのはわかりますので、答えられることは言わないといけませんね。それにしてもこんなに心配してもらってありがたいですね。
仕事を終えて、カフェに向かいます。近藤さんはご家族もいてい忙しいはずなのに、私のために時間を使ってくれるようです。店内に入ると、近藤さんが手を振ってくれました。
「すみません。お待たせしました」
「いえいえ。急でごめんなさいね。ここの特製プリンおいしいのよ」
そういって近藤さんが注文してくれました。もちろん飲み物はコーヒーです。ここのコーヒーもおいしいそうです。
それから近藤さんは、最近よく見ているテレビのドラマの話をし始めました。今一番のお気に入りだそうです。ちょうど私も見ていたので、話が弾みました。すぐにプリンとコーヒーも運ばれてきました。さっそく近藤さんおすすめのプリンを一口スプーンですくって食べてみます。濃厚な味が口いっぱいに広がります。
「おいしいですね」
「そうでしょう。ここのプリンを食べると他のものが食べれなくなるぐらいよ」
近藤さんが満面の笑みでそういいました。私もプリンのおいしさに思わず口がほころびました。その時です。頭上から声がしました。
「すみません。遅くなりました」
プリンのおいしさに笑顔のまま声の方を見ると、青木さんが目の前に立っていました。その姿を見ただけで、さっきまでの笑顔が引きつった気がしました。
「ごめんなさい。言ってなくて。だけど、青木君の落ち込みようがすごかったの。だから一度ふたりで話せるといいかと思って。勝手に青木君を呼んじゃったの」
笑顔から一転、顔が引きつりだした私を見た近藤さんが、申し訳なさそうに言ってきました。
「青木君、まず座ったら」
いつまでも立っていても仕方ないでしょうとばかりに近藤さんに言われた青木さんは、近藤さんの横に座りました。そしてすぐにコーヒーを注文しました。
「ここのお店プリンおいしいのよ」
近藤さんが付け足したように言いましたが、さすがにそんな雰囲気でないのを察して青木さんは注文しませんでした。
近藤さんは、その場を和ませようとプリンのおいしさについて私たちにあれこれ言いながら、急いでプリンを食べています。私は、今までおいしかったはずのプリンの味がすっかりわからなくなってしまいました。しかもその場を和ませようと懸命に努力している近藤さんに、話の相づちも打てません。
目の前の青木さんも、黙って近藤さんの話を聞いているだけです。
「じゃあ、私はここで失礼するわね。柳さん、だまし討ちの様にしてしまってごめんなさいね。でも二人一度ゆっくりと話してほしいの。おせっかいだと分かってるけど、黙っていられなくて」
「いえいえ。ご心配かけてすみませんでした」
「じゃあ青木君、せっかくこの場をもうけたんだからね!」
「ありがとうございます」
近藤さんはそういって店を出ていきました。後には、引きつった顔をしている私と青木さんだけが残されました。どうしましょう。
「今日のワンピースおしゃれね」
ちょうど更衣室にいた桧垣さんに見られてしまいました。
「ありがとうございます」
「よく似合っているわよ。素敵!」
朝からほめられて、単純な私はテンションが上がりました。ありがとうございます。桧垣さん!
席に着くと、視線を感じました。視線の方向から考えて、視線の主はどう見ても青木さんのような気がします。ただいつもならそちらを見るのですが、今日はさすがに見ないように努力しました。きっとまだ見ているのでしょう。まだ視線を感じます。それからも時々感じましたが、あえて見ないようにしていました。
それと同時に近藤さんの視線も感じるようになりました。二、三日たったお昼の事です。お昼ご飯を食べ終わってのんびりしているときに、近藤さんがこそっと聞いてきました。やはり私の態度がおかしいと感じたのでしょう。
「ねえ、青木君と喧嘩か何かした?」
「いえ。何もないです」
私は、近藤さんの方を見ずに話しました。
「そう? ならいいんだけど。青木君が何かしたのかと思って」
「いえ。何もされてないです」
近藤さんに本当のことを言うわけにはいきません。この会社にはまだ働いていたいのです。どうしたらいいのでしょうか? でもこのままではいけませんよね。
「まあ若い二人だものね。いろいろあるわよね。でも青木君、よく柳さんのこと見てるわよ。何か青木君、柳さんに話があるんじゃあないかしら。彼に肩入れするわけじゃあないんだけどね」
「そうですか。すみません。ご心配をおかけして」
「いえいえ。ちょっと気になっただけだから。こっちこそごめんなさいね」
近藤さんは、それ以上何も言わずいつも引き出しにしまってある高級チョコレートをおすそ分けしてくれました。近藤さんに言われてやはり今のままではいけないと思い、ちょうど廊下で青木さんにすれ違ったとき、私は意を決して言いました。
「青木さん、申し訳ありませんがあまりこちらばかり見られると、ほかの方にいろいろ勘違いされるので、見ないでいただけると助かります」
「ごめん。でも話があるんだ。時間をくれないか」
「すみません。私、青木さんとお話しすることはないです」
そう言い切って、まだ何か言おうとしている青木さんを振り切って逃げるように歩きだしました。
そのおかげでしょうか。それからは青木さんの視線を感じることはなくなりました。ただ今度は、近藤さんの気遣うような視線を感じることが多くなりました。
金曜日になりました。お昼の時です。
「ねえ、柳さん。今日の仕事が終わったら何か用事ある? もしよかったら仕事が終わったら近くのカフェに行かない? あそこ特製プリンがおいしいのよ」
「予定はないです。ありがとうございます」
「じゃあ。カフェで待ち合わせね。仕事が終わったら来てね」
近藤さんにカフェに誘われました。もしかしたら青木さんがらみのことかもしれませんね。仕方ありません。近藤さんが心配してくれているのはわかりますので、答えられることは言わないといけませんね。それにしてもこんなに心配してもらってありがたいですね。
仕事を終えて、カフェに向かいます。近藤さんはご家族もいてい忙しいはずなのに、私のために時間を使ってくれるようです。店内に入ると、近藤さんが手を振ってくれました。
「すみません。お待たせしました」
「いえいえ。急でごめんなさいね。ここの特製プリンおいしいのよ」
そういって近藤さんが注文してくれました。もちろん飲み物はコーヒーです。ここのコーヒーもおいしいそうです。
それから近藤さんは、最近よく見ているテレビのドラマの話をし始めました。今一番のお気に入りだそうです。ちょうど私も見ていたので、話が弾みました。すぐにプリンとコーヒーも運ばれてきました。さっそく近藤さんおすすめのプリンを一口スプーンですくって食べてみます。濃厚な味が口いっぱいに広がります。
「おいしいですね」
「そうでしょう。ここのプリンを食べると他のものが食べれなくなるぐらいよ」
近藤さんが満面の笑みでそういいました。私もプリンのおいしさに思わず口がほころびました。その時です。頭上から声がしました。
「すみません。遅くなりました」
プリンのおいしさに笑顔のまま声の方を見ると、青木さんが目の前に立っていました。その姿を見ただけで、さっきまでの笑顔が引きつった気がしました。
「ごめんなさい。言ってなくて。だけど、青木君の落ち込みようがすごかったの。だから一度ふたりで話せるといいかと思って。勝手に青木君を呼んじゃったの」
笑顔から一転、顔が引きつりだした私を見た近藤さんが、申し訳なさそうに言ってきました。
「青木君、まず座ったら」
いつまでも立っていても仕方ないでしょうとばかりに近藤さんに言われた青木さんは、近藤さんの横に座りました。そしてすぐにコーヒーを注文しました。
「ここのお店プリンおいしいのよ」
近藤さんが付け足したように言いましたが、さすがにそんな雰囲気でないのを察して青木さんは注文しませんでした。
近藤さんは、その場を和ませようとプリンのおいしさについて私たちにあれこれ言いながら、急いでプリンを食べています。私は、今までおいしかったはずのプリンの味がすっかりわからなくなってしまいました。しかもその場を和ませようと懸命に努力している近藤さんに、話の相づちも打てません。
目の前の青木さんも、黙って近藤さんの話を聞いているだけです。
「じゃあ、私はここで失礼するわね。柳さん、だまし討ちの様にしてしまってごめんなさいね。でも二人一度ゆっくりと話してほしいの。おせっかいだと分かってるけど、黙っていられなくて」
「いえいえ。ご心配かけてすみませんでした」
「じゃあ青木君、せっかくこの場をもうけたんだからね!」
「ありがとうございます」
近藤さんはそういって店を出ていきました。後には、引きつった顔をしている私と青木さんだけが残されました。どうしましょう。
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