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それから私と青木さんは、ふたりで鈴木課長の検針のレクチャーを受けました。検針に使う機械の説明からよくある困ったことなど詳しく教えてもらいます。
ひとつひとつメモしていきますが、なかなか大変な仕事のようです。しかもこのエリアならではの事情も教えてもらいました。
「このエリアは、家と家がずいぶん離れていてね。効率が悪いんだよ。あと屋敷の敷地が広くてメーターの場所が草だらけになっているところもある。虫に気を付けて。それからこれからの時期マムシもいるみたいだから充分気を付けるようにして。それから......」
鈴木課長からすべての話を聞き終わった後には、なんだかすでに一仕事した気分になりました。
明日に向けていろいろ準備をしておかなくてはいけません。すべて終わっていったん席に戻ると、近藤さんと目が合いました。
「明日から気を付けてね。まあ青木君もいるから大丈夫ね」
近藤さんがニコニコしながら言ってきました。近藤さんはいい仕事したでしょという顔をしていましたが、私はついぞ青木さんの顔を見れませんでした。
なぜなら彼の顔は、もう表情がすっぱりと消えていていたからです。相当怒っていると思われます。人間あまりに怒りがわくと、顔から表情が消えるのだということを今日学ばせていただきました。ごめんなさい。青木さん。でも課長からも『にこいち』でといわれているので、明日からよろしくお願いします。
家に帰る途中、さっそく私は運転手さんにお願いをしました。
「近くのホームセンターに寄ってもらえませんか」
「ホームセンターですか?」
運転手さんはいぶかりながらもホームセンターに寄ってくれました。私は、急いで車を降りて頭の中で整理しておいた買い物リストを思い浮かべます。いろいろ買いながら、会社で書いたメモもバッグから取り出し確認します。ほしいものをすべて買って車に戻りました。結構な量になりました。運転手さんが慌てて飛んできて後ろのトランクに入れてくれます。ありがとうございます。
家に帰りると、久美ちゃんがなぜか少し険しい顔で廊下に立っておりました。
「久美ちゃんただいま」
「お帰りなさい」
私はあえて空気を読まずに自分の部屋に向かいました。先ほどの久美ちゃんの声の調子からしてもずいぶんご機嫌斜めの様子です。久美ちゃんは後ろから私の後をついてきます。後ろから背中に視線をビシバシと感じます。
私が部屋の椅子に座ると、すかさず久美ちゃんが飲み物を用意して持ってきてくれました。疲れたせいかおいしいです。
「お嬢様、明日からどんなお仕事を?」
「ああ、検針?そうそう検針の仕事をすることになったの。たいへ~ん」
軽く笑い飛ばそうとしましたが、目の前の久美ちゃんはにこりともしません。
「もう決めてしまわれたのなら仕方ございませんが、お気をつけてくださいね」
そういって険しい顔のまま部屋を出ていきました。私は、久美ちゃんがいなくなった途端、気が抜けてしまいました。久美ちゃん勝手なことしてごめんなさい。もう見えない久美ちゃんに謝っておきました。
翌朝です。会社に行こうとすると、久美ちゃんが玄関で待っていました。
「お嬢様、ご用意させていただきました」
久美ちゃんが大きな紙袋を持っています。
「ありがとう?」
その紙袋を受け取って中を覗くと、つなぎになる作業服が入っています。しかも2着。取り出してみると、サイズが私にぴったりなものともう一つはどう見ても男性用です。
「久美ちゃん、これは?」
「これは、虫に刺されにくい素材でできている作業服です。しかもマムシに噛まれても皮膚まで通さない素材なんですよ」
久美ちゃんは胸を張っています。
「すごいね。こんなにやわらかそうな素材なのに」
「そうでしょうとも。新素材ですから」
「えっ__! いいの?」
「もちろんです。試作品ですので、また着てみた感想など教えてくださいね」
「はい!」
私は勿論という意味で大きな声で返事してさっそく会社に出かけました。頑張りますね。
会社に着くと、さっそく鈴木課長に呼ばれました。
「おはよう。柳さんと青木君。ちょっといいかな」
「「はい」」
私と青木さんの返事がはもりました。私が青木さんをみると、青木さんはずいぶんいやそうな顔をして先に鈴木課長のほうにとっとと歩いて行ってしまいました。
当の近藤さんといえば、鈴木課長の方へとぼとぼと行く私に向かって頑張れと口パクで言っています。
いやあ~。怒ってるみたいですよ、近藤さん!
鈴木課長のところに行くと、鈴木課長が一枚の紙を渡してきました。届いたメールを打ち出してあります。
「今日こちらに届いていてね。どうやら君たちが行くエリアにある水道管に異常があることが見つかったようなんだ。そこでちょうど君たちのエリアの水道管を調査することにしたって連絡がきてね。今日はとりあえずその対象に入っていないエリアの検針を頼むよ」
鈴木課長はそういって私たちに地図と目的地に向かうための車のカギも渡してきました。
青木さんが鍵を受け取り、私と青木さんがその地図をよく見ていると、横から声がしました。小田係長です。
「ここは検針しやすい場所だよ。団地が多くて件数多いけど、範囲が狭いからね。頑張って」
確かに地図のエリアは住宅地で家々が密集しているようです。
「じゃあ行ってきます」
青木さんが鈴木課長に言いました。
「気を付けて」
「行ってらっしゃい」
皆に見送られて私たちはいざ検針に行くため会社を出ることにしました。頑張りますね。その前にせっかくなので、更衣室で着替えてきます。青木さんも着替えましょうよ。
ひとつひとつメモしていきますが、なかなか大変な仕事のようです。しかもこのエリアならではの事情も教えてもらいました。
「このエリアは、家と家がずいぶん離れていてね。効率が悪いんだよ。あと屋敷の敷地が広くてメーターの場所が草だらけになっているところもある。虫に気を付けて。それからこれからの時期マムシもいるみたいだから充分気を付けるようにして。それから......」
鈴木課長からすべての話を聞き終わった後には、なんだかすでに一仕事した気分になりました。
明日に向けていろいろ準備をしておかなくてはいけません。すべて終わっていったん席に戻ると、近藤さんと目が合いました。
「明日から気を付けてね。まあ青木君もいるから大丈夫ね」
近藤さんがニコニコしながら言ってきました。近藤さんはいい仕事したでしょという顔をしていましたが、私はついぞ青木さんの顔を見れませんでした。
なぜなら彼の顔は、もう表情がすっぱりと消えていていたからです。相当怒っていると思われます。人間あまりに怒りがわくと、顔から表情が消えるのだということを今日学ばせていただきました。ごめんなさい。青木さん。でも課長からも『にこいち』でといわれているので、明日からよろしくお願いします。
家に帰る途中、さっそく私は運転手さんにお願いをしました。
「近くのホームセンターに寄ってもらえませんか」
「ホームセンターですか?」
運転手さんはいぶかりながらもホームセンターに寄ってくれました。私は、急いで車を降りて頭の中で整理しておいた買い物リストを思い浮かべます。いろいろ買いながら、会社で書いたメモもバッグから取り出し確認します。ほしいものをすべて買って車に戻りました。結構な量になりました。運転手さんが慌てて飛んできて後ろのトランクに入れてくれます。ありがとうございます。
家に帰りると、久美ちゃんがなぜか少し険しい顔で廊下に立っておりました。
「久美ちゃんただいま」
「お帰りなさい」
私はあえて空気を読まずに自分の部屋に向かいました。先ほどの久美ちゃんの声の調子からしてもずいぶんご機嫌斜めの様子です。久美ちゃんは後ろから私の後をついてきます。後ろから背中に視線をビシバシと感じます。
私が部屋の椅子に座ると、すかさず久美ちゃんが飲み物を用意して持ってきてくれました。疲れたせいかおいしいです。
「お嬢様、明日からどんなお仕事を?」
「ああ、検針?そうそう検針の仕事をすることになったの。たいへ~ん」
軽く笑い飛ばそうとしましたが、目の前の久美ちゃんはにこりともしません。
「もう決めてしまわれたのなら仕方ございませんが、お気をつけてくださいね」
そういって険しい顔のまま部屋を出ていきました。私は、久美ちゃんがいなくなった途端、気が抜けてしまいました。久美ちゃん勝手なことしてごめんなさい。もう見えない久美ちゃんに謝っておきました。
翌朝です。会社に行こうとすると、久美ちゃんが玄関で待っていました。
「お嬢様、ご用意させていただきました」
久美ちゃんが大きな紙袋を持っています。
「ありがとう?」
その紙袋を受け取って中を覗くと、つなぎになる作業服が入っています。しかも2着。取り出してみると、サイズが私にぴったりなものともう一つはどう見ても男性用です。
「久美ちゃん、これは?」
「これは、虫に刺されにくい素材でできている作業服です。しかもマムシに噛まれても皮膚まで通さない素材なんですよ」
久美ちゃんは胸を張っています。
「すごいね。こんなにやわらかそうな素材なのに」
「そうでしょうとも。新素材ですから」
「えっ__! いいの?」
「もちろんです。試作品ですので、また着てみた感想など教えてくださいね」
「はい!」
私は勿論という意味で大きな声で返事してさっそく会社に出かけました。頑張りますね。
会社に着くと、さっそく鈴木課長に呼ばれました。
「おはよう。柳さんと青木君。ちょっといいかな」
「「はい」」
私と青木さんの返事がはもりました。私が青木さんをみると、青木さんはずいぶんいやそうな顔をして先に鈴木課長のほうにとっとと歩いて行ってしまいました。
当の近藤さんといえば、鈴木課長の方へとぼとぼと行く私に向かって頑張れと口パクで言っています。
いやあ~。怒ってるみたいですよ、近藤さん!
鈴木課長のところに行くと、鈴木課長が一枚の紙を渡してきました。届いたメールを打ち出してあります。
「今日こちらに届いていてね。どうやら君たちが行くエリアにある水道管に異常があることが見つかったようなんだ。そこでちょうど君たちのエリアの水道管を調査することにしたって連絡がきてね。今日はとりあえずその対象に入っていないエリアの検針を頼むよ」
鈴木課長はそういって私たちに地図と目的地に向かうための車のカギも渡してきました。
青木さんが鍵を受け取り、私と青木さんがその地図をよく見ていると、横から声がしました。小田係長です。
「ここは検針しやすい場所だよ。団地が多くて件数多いけど、範囲が狭いからね。頑張って」
確かに地図のエリアは住宅地で家々が密集しているようです。
「じゃあ行ってきます」
青木さんが鈴木課長に言いました。
「気を付けて」
「行ってらっしゃい」
皆に見送られて私たちはいざ検針に行くため会社を出ることにしました。頑張りますね。その前にせっかくなので、更衣室で着替えてきます。青木さんも着替えましょうよ。
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