上 下
1 / 104

1 今世の私

しおりを挟む
(きゃあぁ___ 落ちるぅ___ 止まってぇ___)

 私こと上柳千代子は、家の二階の階段から一階に落ちている。しかもらせん階段。

 千代子は転がるよ~。どこまでも~。



 あまりの痛みに目が覚めました。

「せんーせーい___!お嬢様が、目を覚まされましたぁ___」

(誰なの? お願い、起こさないで。頭が痛いのよ。キンキン叫ばないで...)

 どかどかどか、すごい足音がしています。

「目が覚めたの? よかったわぁ」

「大丈夫か? 痛いところないか?」

「よかった!」


(どうやら私の耳元で、わんわん泣いている泣き声や大声が響いていますよ。うるさいです。余計痛みます。早く治してください)

 声を出そうとしましたが、どうにも出ないようです。しかも目も開けられません。
 いや開いているらしいんですが、何かが邪魔して目が開けられません。

「ちょっと見せていただきますね。どこか痛いところは、ありますか?」

 すべてが痛いです!と言いたかったのですが声になりませんでした。
 しかし唇が動いたのかわかったのか、しかめっ面で理解したのか、その人は言いました。

「もうちょっとお休みになったほうがよさそうですね。ちょっとチクッとしますよ」
 
 腕にほんの少し刺激がありましたが、体すべての痛みがひどくて気になりませんでした。
 その人はたぶんお医者さんだと思いましたが、痛いと言葉に出す前に意識がなくなりました。



 次に目が覚めた時には、痛みがだいぶ治まっていました。

(ここは、どこ?)

「お嬢様!目を覚ましたんですね。よかった!三日も、意識がお戻りになられないので、心配しました!」

 私のベッドの傍らで、泣いている女の人がいます。そうです。私のマネージャーさんで、大切な友人でもある朝月久美、通称久美ちゃんです。
 久美ちゃんは、目から鼻からみずがいっぱいです。かわいらしい顔もくしゃくしゃです。

「心゛配゛か゛け゛て゛ご゛め゛ん゛ね゛」
 
 やっとのことで声を出しますが、ガラガラ声です。水が飲みたいです。
 久美ちゃんは、上半身を起こしてくれます。

「お水どうぞ」

 久美ちゃんは、すかさずコップを口に当ててくれます。

(うまい!)

 一気に全部飲んでしまいました。

 先生を呼んできますねと言い、久美ちゃんは部屋を出ていきました。

 さあ、のども潤したし、脳内で整理してみましょう!


 私は、上柳千代子。22歳。なんと日本最大、世界でも指折りのグループ会社上柳グループのお嬢様です。
 日本最大ですよ!そこのお嬢様なんです!

 その日は、会社の入社式に行くところでした。と言っても自分の会社ではありません。
 同じく日本有数の(うちより小さい!)清徳グループ御曹司、清徳正樹さんがお勤めされている会社です。
 清徳正樹さんは、いいなずけです。
 家族、特に兄・上柳慎一郎の反対を押し切って、いいなずけである彼の会社に入社する予定でした。

 まあそれはおいておいて、ここは家でもなさそうです。
 ここはどこか、周りを見回してみます。
 何やら私の横にいろいろな医療機器があります。腕には針が刺さっていて点滴をされています。

 どうやらここは、病院の病室のようです。

(私、階段を踏み外して転がり落ちたんだ)

 あまりの痛みでよく覚えていませんが、あっと思った時には落ちていた気がします。先ほどの久美ちゃんの話からすると、三日間眠っていたようです。

 事態を把握して、やれやれと思ったとたん、今度はビッグウェープのような記憶の波が、襲い掛かってきました。

(そうだ私、釣りをしていて足を滑らせておぼれて、それでどうなったんだっけ)

 最後に見たのは、水の底から見えたきらきら光る太陽でした。
 たぶん死んでしまったんでしょう。のどが息苦しくて、呼吸できなくなったことを思い出しました。


 どうやら私、記憶を持ったまま、生まれ変わったようです。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夫に離縁が切り出せません

えんどう
恋愛
 初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。  妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

あいつに惚れるわけがない

茉莉 佳
恋愛
思い切って飛び込んだ新世界は、奇天烈なところだった。。。 文武両道で良家のお嬢様、おまけに超絶美少女のJK3島津凛子は、そんな自分が大っ嫌い。 『自分を変えたい』との想いで飛び込んだコスプレ会場で、彼女はひとりのカメラマンと出会う。 そいつはカメコ界では『神』とも称され、女性コスプレイヤーからは絶大な人気を誇り、男性カメコから妬み嫉みを向けられている、イケメンだった。 痛いコスプレイヤーたちを交えてのマウント(&男)の取り合いに、オレ様カメコと負けず嫌いお嬢の、赤裸々で壮絶な恋愛バトルがはじまる! *この作品はフィクションであり、実在の人物・地名・企業、商品、団体等とは一切関係ありません。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...