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お茶会で

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 ただそのお茶会で予期せぬことが起こりました。

 今まで自分のそばに張り付いていた男の子たちが、こぞってかわいらしい女の子達の方に行ってしまったのです。その様子をぼーっと眺めていた私ですが、そのかわいらしい女の子の一人が、私を見ました。そして見下すようなひどい顔をしたのです。今なら心の中であーかんべーをして終わりですが、あの時はまだ子供でしたので、そのかわいらしい女の子のあまりの醜い顔にびっくりしてしまいました。思わず動揺して、手に持っていたカップを落としてしまいました。

 パリ___ン。

 その音は、ひどく私の耳に響いたように感じました。心臓がどきんとしました。気が付けば私は、焦って割れたカップを素手で拾おうとしてしまいました。その時にとがった破片が指に当たり、指からすぅ_と血が一、二滴流れました。その血を見て、当時の私はとてもショックを受けました。
 
 ふと気が付けば、先ほどまでかわいらしい女の子達に侍っていた男の子たちが、わらわらと私の周りを取り囲みました。そして一人は私の腕を、もう一人は手を、皆私の体をつかんで自分の方に引き寄せようとするのです。急なことで、私はびっくりして立ちすくんでいました。
 
 「彼女は僕のものだ」

 「違う。僕のものだ」

 「僕のだ」

 とうとう男の子たちでいさかいが起こりました。私の手を離したかと思えば、その男の子たちで殴り合いのけんかが始まってしまいました。ほかの女の子たちは最初こそみな唖然としていましたが、その中の一人が誰かを呼びに行ったのでしょう。ドアを開けて飛び出ていく様子が目の端に映りました。
 私は私で、血が出たのと指が痛いのと目の前の様子に一人泣き叫んでいました。その時です。指に何かまかれる感触がしました。指を見ると、白い綺麗なハンカチが指の傷を覆っています。

 「大丈夫?」

 リチャーズが、私の指を自分のハンカチで手当てしてくれようとしていたのです。

 そして大人たちが飛んできました。私が泣き止むのと、男の子たちの喧嘩が収まるのとほぼ同時でした。急に静かになった男の子たちは、どうして今まで自分たちが喧嘩をしていたのかさえ忘れてしまったようで、皆呆然と突っ立っていました。そして皆それぞれの親に連れられて行きました。
 
 さんざんなお茶会になってしまいました。でもその時のリチャーズの様子が母の目に留まり、私の婚約者に決まりました。

 ただその時母は、私に不思議なことを言いました。

 「もう怪我をしてはいけないわね」
 
 親として怪我をしてほしくないのは当然の事ですが、なんとなくその意味とは違う印象を幼いながらも感じ取りました。母の顔が、あまりにこわばっていたからです。

 それからです。私がピンク色の薬を飲まされることになったのは。そして母ともう一人今侍女をしてくれているアンネから、いろいろ教えてもらいました。
 アンネは私の侍女ですが、もともとはトランザ国の王宮に仕えていた侍女でした。ご主人と子供を事故でいっぺんに無くしてから、トランザ国の王宮に仕え始めたそうです。もともと王宮に仕える医師の娘だったということもあり、この隣国バモスで私に仕えるために来てくれました。ご主人はピンク色のハミュの花を育てていた薬師で、医師の父を持つ彼女と出会ったそうです。
 
 私は、思春期にさしかかる微妙な時期に自分の流れる血について聞いてしまい、ひどく番というものに嫌悪しました。また小さい時に番という名のもとに、母と私を捨てた父親の存在も番嫌いを助長させる要因の一つとなりました。
 そんな番を嫌う私にとって、私の番の呪いというべきものに当てられなかったクロッセルは、とても好ましく映りました。見た目は私と同じで地味な容貌ですが、いつもまじめで勉強熱心で我が伯爵家の事を真剣に学んでいました。

 ただ二つ気になることがありました。一つは私の番の呪いの事です。私の番の呪いは、興奮したりすると周りに与える影響が大きくなるというものです。あのお茶会でも指を怪我をして血を見て興奮してしまい、周りにいた男の子たちがそれにあてられて喧嘩を始めでしまい、それを見た私の興奮がよけいひどくなってしまったそうです。

 もう一つは、隣国バモスからの使者が、ワーレ王太子になってしまったことです。はじめこそ薬を届ける人は普通の使者でしたが、二、三年たった頃からいつの間にか毎回薬をワーレ王太子が届けるようになってしまいました。
 
 はじめてワーレ王太子を見た時には、まるでおとぎ話から出てきたような容貌にぼーっとなってしまい、ただあっけにとられていました。

 「ずいぶん地味な顔だな。これが、本当にあのエレメル女王の血を引いているというのか。なんでこんな地味な奴を見にここまではるばるこなきゃあいけなかったんだ」

 王子様のような風貌から飛び出てきたのは、罵詈雑言の嵐です。

 「なんですって。あなた王太子だか知らないけれど、挨拶もせずにいう言葉なの? そんなんじゃあろくな国にならないわね」

 私は、ふん! といってどかどかと足音を立てて歩き貴族令嬢らしからぬ振る舞いで、ワーレ王太子の鼻先でドアをばたんと閉めてやりました。
 
 後でその時のあっけにとられたワーレ王太子の顔は見ものだったと侍女のアンネから聞き、ちょっとだけ胸がすく思いでした。

 それからです。毎回薬を届けるためにワーレ王太子が我が伯爵家に来るようになったのは。
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