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26 守ってくれたようです

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 ゴールデンウィークも終わり、また日常の生活に戻っていった。

 あち子も、ぽちと学校へいく毎日が始まった。
 あいかわらずぽちは、自転車で学校に行く時にはカバンの上にのっている。
 違うことといえば、もう駐輪場に坂村はいない。

 「おはようー鈴井」

 「おはようー鈴井さん」

 ただ下駄箱で靴を履き替えていると、坂村や岡田と出会う時がある。
 その時に普通に挨拶するようになった。
 今までも挨拶はしていたのだが、今では名前付きになったこともあり、ほかの同級生たちにちょっとうらやましがられている。

 「いいなあ あっちゃん。わたしも、名前で呼ばれたい~!」

 「わたしも~!」

 坂村に、みんなの名前を付けて呼んでやれ!といいたいところだが、たぶん呼んではくれないだろう。めんどくさがって。


 「明日も来てくれってさ」

 「いいの?最近よくお邪魔してるけど」

 「ああ、ばあさんが待ってるって。じゃあ明日、いつものところで」

 最近あち子は、坂村に呼ばれてたびたび坂村のお宅へお邪魔させてもらっている。
 お宅へ行くと、仲良くおばあさんとお話をする。
 ぽちといえばおばあさんが大好きなので、行けば毎回おばあさんの膝の上にのっている。
 まあ坂村も、あち子の横に座っているが。

 あち子は、行くたびにおいしいお茶と季節のお菓子をいただいて満足だ。
 この前は帰るとき、かわいい絵柄の小箱に入った金平糖をいただいた。

 「これっ、かわいい。ありがとうございます」

 金平糖の入った小箱は、和紙でつくられていて飾っておきたくなるぐらいだった。


 坂村はいつも公園まで送って行ってくれるので、帰りにお菓子の事を聞いてみた。
 おばあさんは、昔茶道をたしなんでいたので、そのころからのお付き合いのある和菓子屋さんのお菓子らしい。 最近では、あち子のためのお菓子を頼むのが楽しいと、和菓子屋のご主人と話していたようだ。
 あち子もおばあさんと話をするのが楽しい。ぽちもすごく楽しそうだ。

 おばあさんとは、いい茶飲み友達になりそうである。


 先日は坂村の兄慎一に会った。

 「はじめまして、敦也の兄の慎一です」

 「はっ、はじめまして、ずずいです」

 思わず声が裏返ってしまった。
 思いっきり、隣に座っている敦也が肩を震わせているのが目の端に映った。

 初めて会った慎一は、敦也のクールさとクラスの岡田のさわやかさを足して二で割ったような人だった。
 なるほどこの人なら、あのきれいな木下佐和子さんとよくお似合いだと思う。

 「ばあちゃんや敦也に聞いていたけれど、やっぱり俺には見えないな」

 どうやら、ぽちを見に来たようだった。

 あち子が、あまりにまじまじと見とれていたせいか、坂村のとがった声がした。

 「兄貴!佐和子さんが待ってるんじゃない?」

 「じゃあ、鈴井さん、ごゆっくり。」

 慎一は敦也をちらっと見て、あち子に優しく笑うと部屋を出て行った。

 「兄貴は、今日も!デートなんだよ」

 おばあちゃんの笑い声が聞こえた気がした。

 (なるほど、だから機嫌が悪いのか....。だからって私に当たんないでよ!)

 ぽちは、あち子の心の声を知ってか知らずか、あち子と敦也の周りをしばらく行ったり来たりしていたが、またおばあちゃんの膝の上にのってしまった。 

 いろいろなことがあったが、ぽちのおかげでちょっとだけ世界が広がった。
 これからも、いろいろなことが起こるかもしれない。
 ただぽちと一緒なら、なんでも乗り越えられる気がしている。



 そんなある日のこと、あち子とぽちはいつものように自転車にのって学校へ向かっていた。
 ただその日はなぜか、かばんの上のぽちがやたらと左右に首を振っている。

 「どうしたの?ぽち、なんかあるの?」

 自転車をこぎながらあち子が聞いたが、ぽちはなぜかその動作をやめない。

 (どうしたんだろう~ぽち)

 交差点で、信号待ちをしている時だった。

 急に目の前が、茶色の靄でおおわれたと思ったら、目の前が真っ暗になった。

 『きゅ___ん』

 ぽちの声が、聞こえた気がした......。



 「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」

 ふとその声に気が付けば、周りがざわざわしている。

 すぐそばで救急車のサイレンも聞こえた。
 自分は、どうやら肩を軽くたたかれていたらしい。
 その声は真上から聞こえるので、びっくりして目を開けると道路に寝ていた。
 慌てて飛び起きると、目の前の人はなぜかびっくりしている。
 上半身を起こしただけで、あたりを見渡せば、すぐ横にひしゃげている自分の自転車が目に入った。

 「どこか痛いところは、ありませんか?」

 「痛いところ?」

 あち子は、自分の体をよく見てみた。
 手や足、そして制服。
 どうやらどこも痛いところはないし、血もついていない。

 「なんともないようです...」

 「よかったです。でも頭を打っているかもしれないので、一応救急車に乗ってもらっていいですか」

 (この人は救急車の人だ。自分は事故にあったのか)

 そう理解したとたん、なぜか急に眠くなってきた。

 「えっ!大丈夫ですか?」

 慌てた声が、聞こえた気がした。



 ふたたび気が付いた時には、今度は道路ではなくてベッドの上に寝ていた。

 「目が覚めたのねー。よかったぁ...」

 声のほうを見れば、父と母が立っていた。
 きょろきょろあたりを見渡せば、どうやらここは病院のようだ。

 「痛いところはない?大丈夫?」

 「うん、大丈夫。私、事故にあったの?」

 「そうよ、あち子がいた交差点に車が突っ込んできたのよ。ちょうどあち子のところに。けれどなぜかなんともなかったのよ。よかったわ~」

 それから、もう一度検査を受けたりして二日間病院にいた。
 なぜかどこも悪いところはなくて、駆け付けた救急隊員のひとや警察官はもちろんのこと、事故を目撃して救急車を呼んでくれた人たちもびっくりしていたらしい。
 ちなみに突っ込んできた自動車は、電柱にぶつかって止まったそうだ。

 退院した後に聞いた話では、わき見をしていて交差点につっこんでしまったらしい。
 幸いにもあち子のほかに、当時交差点には人がおらず、運転手も軽いけがで済んだようだ。

 ただ不思議なのは、運転手があち子に衝突する前に『あち子が、茶色いもので覆われたように見えた』といっていた。
 幾人かいた目撃者のなかの一人も、同じようなことを言っていたらしい。
 警察が現場検証をした時には、なにも残っておらず不明とのことだった。

 あち子には、それがなんだったのかわかっていた。
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