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10 坂村が戦いを挑んできました

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 (あぁーあ、今日も見てるよ...)

 それからも、坂村はあち子のそばにいるぽちをよく見ていた。
 坂村ももしかしたら誰かに言われたのだろうか。
 なぜかこっそりみるようになっていて、以前のようにガン見することはなくなった。

 あち子に心の中で勝手にストーカー呼ばわりされている坂村は、最近なぜか毎朝自転車置き場にいる。
 何をするわけでもなく、ただ立っているのである。
 まるであち子に、接触を試みようとしているようにも見える。
 向こうがそう来れば、あち子はあち子で華麗にスルーするすべを身に着けた。

 というのも坂村がこちらに向かって来ようとすると、ぽちに心の中でほれーーと、けしかける。

 するとあち子の心の声を聴いたぽちが、ふらりと肩から離れ坂村のほうに漂っていくのだ。

 すると坂村はぎょっとしたように、立ち止まってしまう。
 そのすきにあち子は、猛ダッシュで走る。
 その調子で、いつも坂村から離れることができていた。

 そして教室に入るころには、いつのまにやら戻ったぽちが、あち子の肩にとまっているのである。

 
 「おわっーーー!」

 ある時など帰りに靴箱から靴を取り出していると、ちょっと離れたところから変な声がした。

 声のほうを見ると、たぶん坂村であろう後姿が足早に去っていく姿が見えた。

 肩を見ればぽちがいなくて、声のしたほうからふわふわこちらに向かってくるところだった。


 またある日には、坂村はとうとう小細工をしてきた。

 教科係をやっているあち子は、小池を探した。
 あち子は小池という男子生徒と数学の教科係をやっている。
 一緒に御用聞きに行こうと小池を探したが、姿が見えない。

 あち子は仕方なく担当先生のところに、ひとり御用聞きに行った。

 先生のいる職員室に行くと、いつの間にか係りでもない坂村が後ろに立っていた。

 「先生、小池君にちょうど用事があったので代わりに僕が来ました」

 坂村はそう説明している。
 先生は気にもせず、準備室においてあるプリントを二人で運び、配っておくように言った。

 準備室の前では、坂村はなぜか警戒して先に準備室に入らない。
 仕方なくあち子が先に入った。
 すると続いて入ってきた坂村が入ったとたん、胸のポケットからお守りを出すではないか。

 「どうだ!これなら、こっちにこれないだろ!」

 そういいながらあろうことか、あちこの肩に止まっているぽちにお守りを掲げたのである。

 「なんなの?盾の代わり?勇者か!」

 あち子は、つい心の声を口に出していた。
 とはいえ坂村の目は、真剣だ。

 (もう...。めんどくさいなぁ...)

 あち子は心の中で、のろしの合図を上げた。

 (ぽち!討伐開始だ!ほれー)

 ぽちはわかったといわんばかりに、ほふく前進ならぬふわふわ前進で坂村のもとへ向かう。

 坂村は、盾代わりのお守りの効果がないと見るや、慌ててお守りをぽちに投げつけた。
 そのお守りはといえば、軽すぎて坂村の目の前に落ちた。

 ポトン___

 「おわぁぁぁぁぁ___!」

 坂村は叫び声をあげて、準備室を飛び出していった。

 「隊長良くやった!任務完了!」

 あち子がほめてあげれば、ぽちは勇ましくゆらゆらと帰ってきたのだった。


 準部室には、先生に頼まれたプリントが鎮座していた。

 「あ~あ、プリントもっていってないよ~」

 あち子の嘆きは、坂村に届いていなかった。

 あち子は一人でプリントを抱え教室に戻ると、教科係のもう一人である小池君が急いでやってきた。

 「鈴井さんごめんね。坂村君来なかったの?どうしても代わってほしいっていうから、代わってあげたんだけど。
 どうしたのかなあ。教室にもいないしさ」

 小池は不思議そうにクラスを見渡す。坂村の気配はない。

 「そうだったんだ、じゃあ一緒にプリント配って」

 (勇者もどきは、討伐されたんです)とは言えず、あち子はそう言い小池とプリントを配った。

 坂村はといえば、なぜか授業開始のほぼ直前に戻ってきたのであった。

 チ___ン。
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