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第三十羽 街に配慮くらいしますよ

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 巻き髭にこちらから攻撃を仕掛ける。
 踏み込みと同時、十数の金属音が連続で鳴り響く。私の蒼気刃と巻き髭の二刀がぶつかり合った音です。

「ぬう……!!」

 結果として巻き髭の二刀は刃こぼれしてボロボロになった。旗色が悪いことを察して苦しい表情を浮かべている。流石になまくらでは保たなかったようですね。有利な状況にたたみかける。

「【双爪そうそう】」

 左右から二度、『無明金剛シラズガナ』を振り払う。一度目でボロボロの二刀に終わりを迎えさせ、二度目で巻き髭を切り裂いた。胸に深い斬り痕を刻み、鮮血が舞う。

「が……ぁッ!?」

「悪いですが……これ以上の加減できませんよ? 降伏はなんども促したので、死んでも恨まないで下さいね?」

 『氣装纏鎧エンスタフト』と『氣装流威エントリー』での強化状態では加減が難しい。特に『氣装流威エントリー』は闘気を神経の電流とシンクロするように流さなければ、逆に動きを阻害するのでことさらです。

 手加減の下限が大きく引き上げられるので殺してしまう可能性もあります。他にも街の景観を破壊してしまったりとか。それに遠慮して使っていなかったのですが……。私の怪我程度なら一夜過ぎればだいたい治りますが、建造物は放っておいても直りませんからね。

 しばらく前から周辺で戦闘音はありませんし、すでにジャシン教のテロ行為は鎮圧されているでしょう。無理に急ぐ必要はないと判断しました。

 まあエセ忍者が穴だらけの毒だらけ。巻き髭が粘液だらけにしてしまったので無駄な努力だったかも知れませんが。……やっぱりあんまり加減する必要ないですかね。

 そんな益体もない事を考えていると倒れることなく踏みとどまった巻き髭が返答した。

「今更であるな……!!」

「……そうですか」

 脂汗を浮かべながらも巻き髭が横っ飛びに逃げていく。追いかけようとしたところに、毒付きの手裏剣が十数枚弧を描いて襲いかかってきた。進路を妨害ですか……。追いかける脚を緩め、全て叩き落とす。

「まだ動けるんですか。しぶといですね」

「アサシンでござるからな……!!」

 関係ないのでは? 寧ろ打たれ弱い方では? 

 狙いを変更。
 謎の理論を展開するエセ忍者の世迷い言を聞き流し、肉薄する。足下の石畳が砕け散った。
 打ち合ったのは二合。彼は左手が使えないので妥当でしょう。刀を跳ね上げ、容易くこじ開けた胴に『無明金剛シラズガナ』をねじ込む。

横断幕パラレール……!!」

 ―――寸前で巻き髭が援護。手には新しい剣が。気絶したジャシン教の武器を拾ってきたのでしょう。
 水平に走る二条の斬撃を揃って受け流し。

「【波濤はとう】」

 返しの石突きを顔面に叩き込む。
 鼻を砕かれて転がっていく巻き髭は一端放置。害意を向けてくるエセ忍者に向き直る。頬を大きく膨らませて……何かを吐き出そうとしているのでしょうか。
 口が開かれる直前、エセ忍者の頭に片手を乗せ、頭上に逆さまの格好で回避。

「!!?」

 さっきまで居た所を紫色の毒霧が通過していきました。……汚いですね。
 逆さの格好から見下ろす無防備な背中をそのまま蹴りつけ、毒霧を自分で突っ切らせた。地面を転がっていくエセ忍者。私も石畳を蹴りつけ追いすがる。
 地面を転がったエセ忍者が起き上がり、勢いを利用して巻き髭の方へと近づいて行っています。合流するつもり……?

 脚に力を入れてさらに加速。あと一歩でエセ忍者に手が届くというところで土壁がせり上って妨害してきた。構わず破壊して突破。

「……む」

 崩れ落ちる壁の先で目に入ったのは二人の姿……ではなく多量のシャボン。二人の姿は見えません。なにか起きる前にシャボンを破壊しようとして……地面に転がる拳大の球体を発見した。あれはエセ忍者が毒煙を出したときの……? いや、この匂いは……火薬!?

 シャボンすら囮にした爆弾が爆発する。同時にシャボンも弾け、凄まじいエネルギーを生み出した。
 私はすぐさま『氣装纏武エンハンスメント』で武器に込めた闘気を解放し、攻撃範囲を拡大。

「【剛破槍ごうはそう】!!!」

 全身の筋肉を十全に駆使して渾身の両手突きを放ち、もたらされた破壊を正面からねじ伏せた。

 自分の攻撃の結果を見ることもなく、すぐさま背後に向け無明金剛シラズガナを振るう。甲高い悲鳴のような金属音を鳴らして、三つの斬撃をはじき返した。

「なるほど。あの爆弾すら囮、本命は二人で地面を潜って背後へ……、便利ですねそれ」

「これでも……!!」

「無理であるか……!!」

「まあ、似たようなのは見たことありますので……ねッ!!」

 素早く回転して無明金剛シラズガナを振り抜けば、二人仲良く横一文字の斬撃が腹部に刻まれた。深い傷に二人は膝から崩れ落ちる。

「おや?」

 とその時何かがこちらに近づいてきているのに気がついた。
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