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第二十四羽 インターセプトは突然に
しおりを挟む「そんな……」
ジャシン教の教団員たちを強力して制圧する中でも時折目を盗んで幹部との戦いを見守っていたミルは愕然とした。
自分よりも圧倒的に強い人たちが三人、それも瞬く間に負けてしまった。ほかの冒険者もしり込みしているようだし、彼を止められるものはきっとこの場にいない。
さらに……。
「追加でござるよ」
東西南北に伸びる四つの通路へと逃げて言ってた住民達が這々の体で戻って来た。その後ろから現れたのは――ジャシン教。それも最初に円形広場にいたジャシン教より数が多い。
何より。
(逃げ場が……!!)
そう。この円形広場は東西南北の四つの大通りしか通り道がない。そこを抑えられたのなら容易に逃げることはできない。
……店で籠城戦をする? この場を切り抜けられそうな可能性を考え、ちらりと店に目をやればこちらを窺う幾つもの目が見える。
(やっぱり逃げ遅れた人がいるよね……)
円形広場の店には構造上裏口が存在しない。売り上げは良い分、店に在庫を補充する際は表から入れないといけないから大変だと言っていた。
裏口がない以上店の中に籠もった人達は一度外に出ない限り逃げることは出来ないのだ。そんな逃げ遅れた人たちはどこの店にもいる。彼らがいる場所で籠城戦をすれば怪我人では済まなくなる可能性がある。
大きな商店なら防犯用の簡易結界が備え付けられていることもあるらしいけれど、補充の難しさから大きな店は裏口を作れる大通りの方へ店を構える。つまるところ、この円形広場に結界を置いてあるような大きな店はないし、この状況で現在結界を使っている店がないということはそういうことだ。
籠城戦は不可能。
こうなったらいっそ、逃げ惑う人にどこかの店の中に入って貰う方マシなまである。その間にジャシン教を制圧するのだ。今からは逃げ場がなくなって混乱している市民を店に逃げ込むように誘導しつつ、ジャシン教をどうにかしなければいけない。
(キツいな……!)
それでもミルは助けることを投げ出したりしない。追い出されてはしまったけれど、これでも元勇者パーティーの一員なので。役に立てなくても、ジャシン教を前に市民を置いて逃げ出したなんて汚名を被せるつもりは毛頭なかったし、何よりそんなことしたくもなかった。
戦闘は間もなく乱戦になった。
「皆さん! 近くの店に隠れて下さい!!」
逃げ惑う人たちを庇いながら、冒険者はフレンドリーファイアをしないように戦わなければならない。ジャシン教は1人1人は弱いけれど、それでも不利なのは冒険者の方。数だって圧倒的に不利だ。
1人、また1人と疲労や怪我によって満足に戦える人が減っていく。同時に逃げ惑う人達は少しずつ店に逃げ込めている。あたし達冒険者が積極的にジャシン教を攻撃すれば、建物に攻撃する余裕はないから未だ壊された建物はないけれど、それも時間の問題だ。
唯一の救いは幹部だというピスコルが屋根の上に昇って、何もせずに眺めていることだろうか。
早く増援が来ないとどちらにしろまずい。
「ッあ!?」
そんなことを考えていたからか、ミルは飛んできた魔法攻撃を躱しきれず、余波で体勢を崩して倒れ込んでしまった。
「祈りを捧げろ!!」
攻撃が迫る。起き上がる前に暴れていたジャシン教の1人が直ぐ側まで来ていた。避けられる状況ではなかった。
せめてと杖を掲げて防御姿勢をとり、受ける痛みから逃げるように目を瞑る。
そこに一陣の風が吹いた。
「もう、大丈夫ですよ」
「……え?」
痛みは降りかかってこなかった。代わりにかけられたのは優しい労りの言葉。顔を上げれば自分より少し小さいくらいの、かわいい女の子が立っていてジャシン教は側に倒れ伏していた。
(この子がやったの……?)
ミルは疑問に思った。さっきまでこんな小さい子は見なかったし、すぐにこれるような場所に人はいなかった。いったいどこから来たんだろうと。
「少し待っていて下さい。すぐに戻ってきますので」
「え?」
それはまさに蹂躙だった。風のように軽やかに駆けていく少女は広場にいるジャシン教を瞬く間に打ち倒していく。通り抜けた次の瞬間にはジャシン教は意識を失っており、向けられた攻撃は容易く叩き落とされて。
気づけば円形広場の全てのジャシン教が倒れ伏していた。
「すごい……」
「皆さん今のうちに避難を!! 冒険者の皆さんは手助けしてあげてください! まだ街にはジャシン教が潜んでいるかも知れません。動ける方は応援を!!」
「お、おう、助かった!!」「ありがとう嬢ちゃん!」
少女の指示を受けて冒険者達が動慌てて動き出す。普段なら反発もあったかもしれないけど、目の前で蹂躙劇を見せられて歯向かうようなものはいなかった。キツい状況から助けられたのもあっただろう。
店の中に隠れていた人達が誘導に従って、次々に広場から抜け出していく。ミルも近くの大通りへと向かおうとして―――濃密な死の気配が背後に発生した。
「ひッ!!?」
「こいつを一番に庇っていたでござるね」
振り返れば姿が見えなかったピスコルがそこに立っていた。恐怖に喉が引き攣る。そうだ、こいつがいたんだ。いつの間にか意識から完全に消えていた。温度を感じない瞳で見つめられたミルは圧倒的強者から伸ばされる手に身を竦めることしかできなくて。
「お前を人質に―――ッ!!」
「―――触れるな」
ピスコルが伸ばした手を引っ込め、焦ったように後ろへを飛び退る。次の瞬間彼がいた場所に、飛来するのは蒼い何かをまとった黒い棒だった。石畳を破壊して突き刺さったそれを、小さな手が抜き取った。
ミルを背に庇うように棒を手にして泰然として見上げる女の子、それを油断なく見下ろすピスコル。
腰を抜かしたミルはそれを呆然とみているしかなかった。
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