上 下
119 / 156

第八羽 藪から蛇

しおりを挟む
 
 思わず口調が崩れてしまいましたが私は冷静です。私は冷静です……!! もう何が何だか分からなくなってきました。突発的な出来事やアドリブはすこぶる苦手なんですよ……!!

 なんとか軌道修正を試みなければ……。

「いえ、お姉さんにご迷惑をおかけするわけには……」

 ここで、秘技! 相手を気遣う姿勢でやんわり断る……!!

「迷惑だなんてとんでもありません! この話をいろんなところに広げれば、きっとお友達を見つけやすくなります。ぜひ、冒険者様のお手伝いをさせてください!!」

 相手の押しが強く全く効いていません。秘技がことごとく打ち破られていく……!!
 善意が……!! 純粋な善意が私を追い詰めていく……!!
 ここでまで言われてこの流れを止めるのは不自然……!! すでにダラムさんの術中にはまって抜け出すことはできません。ダラムさん、なんて恐ろしい子……!!

「あはは……。じゃあもうそれでお願いします……」

「はい! 任せてください!!」

 きっと明日には私の噂が千里先まで広がっていることでしょう。どうしてこんなことに……。私はただ、蛇の討伐報告をして運搬クエストを受けに来ただけなのに……。

「良かったですねメルさん、これでお友達の件は安心ですね」

 はい、とても胃が痛いです。うぼぁー。

「実は他の大陸にも似たような冒険者の方がいらっしゃってですね、その方は姉を探しているそうですよ。いつか会った時に、情報交換でお話ししてみるのも良いかもしれませんね」

「ご丁寧にありがとうございます……」

 私のは嘘なのに、同じ扱いを受けるのは本当にさがしているその人になんだか申し訳無いですね……。今は祈ることしか出来ませんが、早く無事に見つかることを願っておきましょう。

「それじゃあメルさん、この運搬クエスト、お願いしますね。すみませんルマー、このクエストの申請をしたいのですが……」

 受付のウサミミお姉さんはルマーさんですね、覚えました。

「承りました。書類をお預かりします。これは……指名相手がメル様の運搬依頼ですね。運搬品は回復効果のあるポーション。運搬量は……かなりありますね!?」

 どれどれ……。おや、本当に思ったより多いですね。アイテムストレージの中身を少し減らした方が良いでしょうか……。あ、そうでした。アイテムストレージといえば。

「あの……先に討伐報告をしても良いですか? 討伐したのはフィスクジュラという蛇の魔物なのですが……」

「え……、本当にアレを討伐したのですか?」

「モルクオーナーも確認したそうですよ。あの人はまったく……」

「なにがあったのかお察しします……。ともかく彼が確認したのなら嘘はないですね」

 ちょいちょいとルマーさんがダラムさんに手招きをして、そこで二人は何やらアイコンタクトを取る。彼女たちは仲が良いのでしょうか?

「こほん。それでは討伐データを確認しますね」

 目でのやりとりを終えたルマーさんがカウンターの上に置いていた冒険者カードを写真立ての枠だけのような装置に差し込んだ。……まさか冒険者カードに勝手にデータが保存されていて、それを今読み取っているのですか? この冒険者カード関連の技術、ものすごいオーパーツですね。 昔の文明はどれほどのものを……。

 カウンターの上にある石版のようなものに目を通していたルマーさんが頷いた。

「はい、無事確認できました。討伐はお一人で成されたのですか? ものすごいお力ですね……」

「私は物理攻撃が主体ですので、魔法が効かない能力のフィスクジュラとは相性が良かっただけですよ」

「何言っているんですか! この蛇は魔法が効かないだけでなく、硬い早い強いを体現した魔物ですよ? Sランクパーティーを撤退まで追い込んだ強さは伊達ではありません。蛇ゆえに毒にもそれなりの耐性を持っていますし、隠れてからの奇襲も上手くいきづらい。格下では万が一にも勝ちはありません。フィスクジュラに勝てると言うことは、素の実力が高いことを意味します。冒険者様はすごいのですよ?」

「そ、そうなのですね……」

 藪蛇だったかもしれません。うう……、私はチート能力のおかげで勝てただけで、本当は才能の欠片もないのに……。褒められるとなんだか申し訳無くなってきます。

「討伐されたフィスクジュラはどうされました? 場所さえ教えていただければ、ギルドのものが回収に向かいますよ。手数料は少々頂くことになりますが」

「アイテムストレージに収納しているので大丈夫ですよ」

「アイテムストレージ……。もしかして冒険者様は収納系のスキルをお持ちなのですか?」

「そうですよ。一定量を超えると負荷がかかるタイプですが」

「なるほど。それで運搬依頼を。強い上に便利なスキルを持っているなんて、さすが未来のSランク冒険者ですね!!」

「あ、あはは……」

「あれ? 冒険者様、それ以前に他にもたくさんの魔物を討伐されているようですね。確認しても?」

 それ以前……? まさか冒険者カードをもっている間に狩った魔物全て表示されているんじゃ……。 それだとこの半年、あの森で魔物を食料確保目的で狩りまくっていた事がバレてしまう。奥に行くとヤバいのがたくさん居たのでそれが表示されるのは拙い……!!

 や、藪蛇です!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...