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第44羽 覚悟の差、人の力

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「【赤陣せきじん一閃いっせん】」

その隙に槍を握りしめれば、現れた赤の魔術陣が槍に纏わり付き、炎の突きが吹き飛ばした。

赤陣せきじん一閃いっせん】。正確には《赤陣:付加ふか》を施した戦撃です。魔術陣にはそれぞれ属性に対応した色が存在しており、赤は今見た通り火。
攻撃と共に相手を焼き焦がし効率よくダメージを与えてくれます。

しかしどうやらこれもコアイマは耐えきった様です。本当にしぶとい。
槍で突いても深く貫くことはできませんでした。ステータス上の防御力が異常に高いのか、他の要因があるのかはわかりませんが。
槍の炎を振り払って消し、一気に接近する。ともかく、攻撃の手を緩めず攻め続けます。

素手ではリーチで劣る剣に翻弄されましたが、今は逆。圧倒的に私が有利です。もうまともに攻撃を受けるつもりはありません。

槍はリーチで勝っている敵の正面に構えてあるだけで既に脅威です。私に直接ダメージを与えるなら接近する必要があるのですが、接近するには、槍をどかすという一手がどうしても必要となります。そうでなければ勝手に串刺しになるだけです。

決死の表情で攻撃をしてくるその全てを捌き、返し、無効化させていく。それどころか反撃のおまけつきです。痛みにひるんで隙を見せれば容赦なく連続で攻撃を加えてきます。

今もほら。
焦りから無理に力んだ攻撃を横に優しく流してやれば、止めることもできずに地面に剣が激突した。明確な隙です。

コンパクトに左右から打ち据える。痛みに歪む顔めがけて頭上から叩きつけを見舞えば、後ろに飛び退って避けました。
なので踏み込んで突き。
リーチで勝っている以上、反撃を受けるリスクは極小。恐れることなく踏み込むことができます。コアイマは腹部に衝撃を受け、地面を転がっていく。

めげずに地面を叩いて跳ね起きたコアイマが、私を睨み付け、ガトリングのように幾つもの魔力の球体を放ってきた。なら――

「《黄陣おうじん誘岐連ゆうきれん》」

黄色の魔術陣から一筋の雷が生み出される。直進した雷は先頭の魔力球に近づくと、突如として枝分かれし、食らいついた。魔力球を爆発させ、なお貫き、突き進んでいく。その過程で幾重にも枝分かれして通り過ぎた先の魔法を全て誘爆させ、ついに終点のコアイマも貫いた。

「なに……、これ……ッ!!」

魔力に吸い寄せられる性質をもった雷です。最初の雷は直進しますが、そこから幾重にも分裂し魔法を貪欲の追い求めます。弱点も多々ありますが、弾幕型の魔法には大体有効です。もちろん自分の魔力は除外してありますよ。

電撃によって硬直した隙に一気に接近する。
射程距離に捉え、槍を振るえばコアイマに次々と傷が増えていく。必死に捌こうとしていますが、完全ではありません。
コアイマ自身のスペックの高さでなんとか持ちこたえていますが、技では私の方が上です。

さっきの焼き増しのようにコンパクトななぎ払いを左右から叩きつける。ギリギリでしたが今回は剣で防がれました。そして叩きつけ。
コアイマはさっきのを攻防を思い出したのか横に避ける。まあそうするでしょうね。
なので既にそこに攻撃を置いておきました。避けたと思った瞬間には、側頭部になぎ払いがヒットして吹き飛んだ。

「なんでよ!?今避けたでしょう!!」

「ええ、避けさせました」

相手の動きを予測し、追い詰め、移動範囲や攻撃方法などを徐々に制限させていけば、やがて取れる手は少なくなっていきます。そうすれば最後に行き着くのは選択肢が一つしかないという状況。そうなれば詰みです。
相手がやる事なんてわかっているのですから、それに対応した一手を置いておけば良いだけ。
既に接近において、貴女は私の手の平の上です。

コアイマの表情が屈辱に歪んでいく。
ここに来て接近戦では無理だと思ったのでしょう。

手を素早く振るって弱めの衝撃波の様な魔法を放ってきた。威力はないですがそれに押され一瞬足が止められる。
その間に更に魔力を集めたコアイマが最初の様に自分を中心に周辺を爆発させた。

「《白陣:壁盾へきじゅん》」

目の前に魔力で編んだ小型の盾を生み出してそれを防ぐ。砂塵が巻き上げられ、視界が遮られる。とは言え見えなくても補足はできています。と思った瞬間コアイマの気配がいきなり消え去った。

「な!?どこに……?」

「メル!上!!」

フレイさんの声に上を見上げれば、極大な球体が。アレ全部魔力なんですか!?恐らくですが街ごと消し去れる威力になります。
それにかなり注意しなければわかりませんが、さっきまでコアイマが居た場所に空間魔法の残滓が。
私が身を守った隙に使うのに時間がかかる空間魔法で上空に逃げ、魔力を溜めていたと言うことでしょう。
まだそんな手を……!!

「これはもう使うなって言われてたけどしょうがないわ……!!皆ここで消え去りなさい……!!」

対処する間もなく、破壊の化身が降りてきた。
間に合え……!!地面に槍を突き刺し、両手を握りしめる。

「《双白陣そうはくじん砲壊潰ほうかいつい》!!」

握りしめた両手の先から二つの魔術陣が生み出され、その砲門が開かれる。巨大なビーム、いわゆるゲロビが二つ放たれ、途中で混ざりさらに大きなビームとして極大な球体に突き刺さった。

「押し……負ける……!?」

みるみる魔力が無くなって行っているのに、極大の球体は徐々にその姿を近づけてきた。
仕方ない……!!闘気を作り出す時の呼吸を意識し、魔素を魔素のまま取り込んだ。

「グフッ!!」

喉から熱がこみ上げ、体の至る所が裂け血が噴き出す。魔素の中毒症状です。気分もドンドン悪くなってきた。それでも止めるわけにはいかない。

地面に後を付けて体が後ろに押しやられていく。その時腰に弱い衝撃を感じた。

「フレイさん!?危険なので戻っててください!」

「この馬鹿!こんな血まみれで無茶してるのに今ほっといてどうするのさ!!」

「その通りだ!何度も言ってんだろ!お前が死んだら俺らも終わりだ!」

「一蓮托生ってわけよ!!」

フレイさんだけじゃない。冒険者皆が後ろで私を支えてくれている。

「あたいらの全部、あんたに預けるよ!!」

瞬間、激熱が迸る。
私に他者の魔力を受け取る能力なんて無い。スキルも無い。
それでもフレイさん達の魔力を感じた。それでも魔力を受け取った。

何も手を加えていないのに炎をまとったこの砲撃がそれを証明しています。これは皆の力です。
押し合いが拮抗した。

「とっとと諦めなさいよ……!!そんなに負けたくないの!?」

私達を消し去ろうと力を込め、顔を歪めたコアイマがあきらめが悪いとばかりにそう言い放つ。

「負けたくない?違う……!!」

その程度では断じてない。
私の後ろには、フレイさんがいる。ログさんがいる。ターフさんがいる。私を庇ってくれた冒険者がいる。私が負ければきっと死ぬ。そんなの絶対に受け入れられない。だから――――

「負けられない……!!負けることなんて許されない……!!」

戦うとき、後ろに何かが在った事なんてないんでしょう。
貴女とは、覚悟が違う!!それは言葉にだって表れる。

タダでさえ握りしめている両手に『握撃』を使う。

魔術陣を作り出すのには想像力が必要です。そのため私にはルーティンとして手を握りしめる動作が必須でした。そこでさらに強く握りしめればどうなるか。

魔術陣の輝きが増し、魔力を流し込む許容量が増す。許容量を超えれば魔術陣は砕けます。それが大きくなった。
更に血が噴き出すのも構わず、魔素を取り込み、限界ギリギリまで魔術陣に流し込んでいく。
砲撃が球体を押し返していく。

「嘘でしょう!?」

「嘘じゃない!押し返す要因になったのは貴女が侮っていた、人の力です!」

押し返す速度はドンドン加速して行き、遂にコアイマの眼前まで迫った。

「死にたくない!死にたくない!」

そこに来てコアイマの顔が恐怖に歪んだ。……貴女が殺してきた人たちもきっとそんな気持ちでしたよ。

私が手を緩めることは無く、コアイマは自身の魔力と私達の砲撃に巻き込まれた。上空で巨大な爆発が起きる。しばらく耳が聞こえなくなるほどの轟音。徐々に音が戻ってくる。終わった……?

すると上空から声が聞こえた。

「はあ……!はあ……!運が良かったわね!今回は見逃してあげるわ!次はペットを連れてきて完膚なきまでに殺してあげるから覚悟してなさい、人間共!それとあんたもよ、魔物風情が!どこに居ても探し出して殺してあげるわ!!」

コアイマは死んでいなかった。ボロボロながらも高笑いしながら、今にも空間魔法を発動して逃げようとしている。

「《紫陣:加速かそく》」

呪術を発動する。眼前に紫の魔術陣、正確には呪術陣ですが。
結局貴女は最後まで他者を見下すことを止めませんでしたね……。
右手に槍を構え、全力で体を後ろにねじっていく。力の高まりが最高潮に達したときに、呪術陣に全力で踏み込んだ。

「【魔喰牙ばくうが】!!!!」

戦撃と呪術の両方の急激な加速に視界が引き延ばされる。右腕の槍を突き出せば瞬きもしない間に上空のコアイマを貫いた。

単発の片手突進技。距離を詰めるのに便利でよく使います。準備する必要がありますが、加速の呪術陣を踏み越えればその威力は一撃必殺にまで高まります。

「い……や」

体に巨大な風穴が開いたコアイマはそう溢して、息絶えた。
ボロボロと体が崩れていき、死体も残さずまるで魔法のように消えていきました。空間魔法で飛んで逃げたわけではありません。

終わった。背中の翼を広げ、ゆっくり落ちていくまま上空から見下ろせば、地平線をのぞく朝日が眩しいでs……

「いたたたたた!?」

体が焼ける痛みに急いでソウルボードから吸血鬼を外すと意識が遠のいていく。マズい、落ちる。

「メル!?」

――なんだかデジャブ……。

そして私は意識を失いました。
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