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第37羽 対ヒドラ

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「メル!このままこの大通りで戦うのはマズい。この親子がいるのもそうだけど、それだけじゃなくて大通りに沿ってブレスを吐かれると、逃げ場がほとんど無い。御誂向《おあつらえむき》にこいつの後ろに大広場がある。なんとかしてそこに誘導するよ!」

――わかりました!!やってみます!【崩鬼星ほうきぼし】!!

――ドゴオォッ!!!

「は?」

呼吸と共に闘気と鬼気が爆発し、驚愕から立ち直って警戒していた筈のヒドラのミツ首に付け根に渾身のドロップキックが炸裂。有無を言わせず吹き飛ばし、噴水を押しつぶして止まった。ヨシ!オーダー通りに大広場に押し込んむことに成功しましたね。

地面に降り立つと強い視線を感じたので、見上げるとフレイさんがじっと見つめていました。

――えっと、噴水が潰れてしまいましたが、コラテラルダメージと言うことでここは一つ……、やっぱりごめんなさい!!

「凄いじゃないかメル!」

――へ?

「強いとは思っていたけどここまでとは思わなかったよ。Sランクが欲しいくらいなんだ。強いのは大歓迎だ!!ほら、行くよ!あんたらは後ろに冒険者がいるから今のうちに避難しな!!」

「あ、ありがとうございます!」「鳥さんとお姉ちゃんありがとー!」

どうにも噴水は眼中に無い様子です。助かりました。お礼を言ってくれた親子に指示を出し、走り出したフレイさんを追いかけて大広場に駆け込む。親子に何事もなくて良かった。
それにしても、褒められるとむずがゆいですね……。師匠にはボロクソに言われていたので。

大広場のヒドラは体を起こしているところだった。胸元の鱗は複数枚割れています。
鬼眼で見るに感じる力は地竜より僅かに下、と言ったところでしょうか。吸血鬼の力が使えない以上どれだけできるかと思っていたのですが、『空の息吹』を使った闘気の威力が想定より高い。

起き上がったヒドラが私達を視界に入れ、すぐさま襲いかかってくる。闘気を纏い積極的に前に出て注目を集めます。私はこちらですよ?

接近したヒドラは三つの首で次々に襲いかかってくる。噛みつき、叩きつけ、なぎ払い。その全てを闘気を纏った状態で捌いていく。確かに速く鋭く強いですが……、まだ闘気を維持できる強さです。
噛みついてきた右の首をなぎ払ってきた左の首にぶつけ、その隙に【昇陽のぼりび】を真ん中の首の顎に的中させれば、ヒドラは苦痛の悲鳴を上げた。

「《フレイムバレット》!!」

そこにフレイさんの炎の弾丸がいくつも突き刺さる。……思ったより、いけそうですね。これも、『空の息吹』で動き続けるのが簡単になったおかげです。呼吸を挟むために止まらなくて良いというのは、これまでの人生でも初めての感覚で、開放感が凄い。

魔法を放つフレイさんに注意が向かないように、只管前に出て注意を引き続けていると、突如飛来したいくつもの魔法がヒドラに直撃した。一つ一つは大きなダメージではないようですが、確実にダメージは蓄積されます。これは……?

「来たのかい!?ゲラーク!!」

「おうよ、仲間を置いて見てられるか!遅くなって悪かったな、人員の選抜に時間を取った!!無駄に死者を出すわけには行かねえからな!」

「助かるよ!」

先ほど情報を教えてくれた冒険者の人、ゲラークさんというコワモテのおじさまがさっきの冒険者の一団から一部の人員を引き連れてきてくれた様です。
ログさんとターフさんもいます。心強いです!

「フレイ!お前はこの後どうするつもりだったんだ!?」

「無理そうなら時間だけ稼いで逃げようと思ったけど、この子のおかげで問題ないね!このまま倒すよ!」

「俺も同意見だ!!おい!そこの鳥!!」

――私ですか?

「そうだ!おめえだ!さっきの親子を助けたガッツ痺れたぜ!!ログとターフに聞いた。グレーターワイバーンを撃退できるくらい強いらしいが、メインを任せても良いか!?」

――呼び方はともかく……ええ、問題ありません。

「即答か、気に入った!!」

豪快に笑ったゲラークさんは連れてきた冒険者の一団に呼びかけます。

「いいか!聞いたとおりこいつがメインで戦う。周りはサポートだ!魔物にメインを任せるのに不安があるのはわかるが、こいつの行動を見ただろ!?今はゴチャゴチャ言ってる時間はねえ!!文句があるなら今すぐ抜けろ!途中で騒がれても迷惑だ!!」

誰も抜けるものはいない。

「よし!この蛇野郎は俺らの街を襲い、壊しやがった!討伐隊が組まれてもAランク以上だ。俺らは出る幕もなくなる!それで良い訳ないよなぁ!?折角助っ人が来たんだ!このままヒドラをたたんじまうぞ!!そしたら報酬もたんまりだ!!」

――街を壊されて怒っているのかと思ったら、最後に即物的な願いが出てきました。う~ん、良いダシにされているような気もしますが倒せるなら……ヨシ!!

ヒドラは人間の生活圏に大きな影響を与えてしまったので、どうせいずれ討伐されるでしょう。手を出さない方が良かったのですが、あそこで見捨てる選択肢はあり得ません。注意を引いてしまった以上被害が少ないうちに倒してしまった方が良いです。
私は魔物なのでヒドラの側なのですが……襲ってくる相手と襲ってこない相手なら、どちらの味方をするかなんてわかりきった話です。

「ここに来る前に言ったとおり、怪我人が1人出るだけで足でまといになる!前に出るならぜってぇに怪我すんじゃねえぞ!!」

「「「「「 おう!! 」」」」」

「おい鳥!!あの灰色のブレスには気を付けろ!さっきは上手く避けたみたいだが石にされるぞ!!」

――親子を助けた時の事でしょうか?避けてないですが石化してないですね……。闘気のおかげでしょうか。いえ……、おそらく『呪術耐性』のおかげですね。ブレスが、石化の効果を持った物質をまき散らすタイプでなく、石化の効果を持った魔法攻撃だったということでしょう。助かりました。

「それと麻痺と毒のブレスも使う!首それぞれが一つのブレスしか使えない!左から、麻痺、毒、石化だ!!」

――流石です。そこまで調べたのですね。なら私は右の石化の首をメインで相手しましょう!

相手をしていた左の首を【降月おりつき】で地面に叩きつけ、その隙に滑歩《かっぽ》で素早く右に回り込んだ。

「「「「え、気持ちわる……」」」」

――うるさいですね……。

滑歩かっぽの不自然な挙動を目にした冒険者の一部が引いたような声を出したきたので、思わずジトリとした視線を送る。真面目に戦ってください。

右の首がブレスを吐きそうになれば、顎を蹴り砕き、頭を叩きつけ、闘気をまとった『射出』で全力で邪魔をしてまともに動けないようにします。

冒険者達にとって一番厄介な石化ブレスがなくなったことで、前衛が動きやすくなりました。

私が戦撃で首の鱗を割り砕き、冒険者がそこに攻撃をする。ヒドラが反撃しようとした所で撤退し、すぐさま魔法使いの魔法が襲いかかる。痛みにもだえる様な隙を晒せば私が戦撃を使い、さらに鱗を砕いていきます。そうなればさらに冒険者の攻撃が通るようになる。
余裕がなくなったヒドラの他のブレスを邪魔することは容易いです。もうブレスは打たせませんよ。

そんな中、右の首を相手していると死角から地面を這うように左の首が襲いかかってきました。噛みつきを受け流し、伸びきったそこに【貪刻どんこく】を叩き込む。甘いですよ。いくつかの鱗をたたき割り、痛みにたまらず首を振って元の場所に戻った所へゲラークさんがすぐさま駆け込んできた。

「ぬううぅん!!」

はち切れそうな筋肉を躍動させ、巨大な大斧を私の【貪刻どんこく】と同じ場所叩き込んだ。
重い一撃に、遂に耐えきれなくなったのか一番左の麻痺ブレスの首が切り落とされることになる。

――あ、嫌な予感が……。

「やった!!」

見ていた冒険者が歓声の声を上げますが、すぐさま断面が盛り上がり、にょきりと首が生えてきました。それも二つ。

「マズい!!首が増えたぞ!!」

――やっぱり。
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