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断章 嵐前
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「イザク=マティアス、お呼びとうかがい参上いたしました」
「あぁ、忙しいところ呼び立てて悪いな」
この日、イザクは国王アーデルベルトからの呼び出しを受けた。
次期マティアス侯爵と言っても、まだ宰相府の文官の1人に過ぎない彼が、直接国王と話す機会は滅多にない。
まぁこの件しかないだろうと思ってやってきたわけだが、アーデルベルトはその通りのことを話し始めた。
エルンストはよく学んでいるか、と。
対する答えは是だ。
随分と手を抜いていた学術院時代からすれば、想像よりずっとよくやっていると言っていい。父宰相からの命令を受け嫌々ながら引き受けた講師役だったが、日々真面目に課題をこなすのを見ていれば、その出来がいまいちでも情が湧いてくる。
王子殿下に対して不敬だが、出来の悪い弟を見ているようだと苦笑する。
「よくやっていらっしゃいますよ」
「そうか…」
前向きな回答にほっと安堵のため息を吐いたアーデルベルトは、けれどすぐさま表情を戻した。
そして、そなたはどう思うとと続けた次の問いは、父親としてではなく、王家の長としてのものだった。
特に表向きの言葉を求められているわけではないと受け取ったイザクは、淡々とした口調で応じる。
「まだまだ難しいお立場でしょう」
「だろうな」
王位継承権2位の王子として表に出せるかと言えば、それは難しい。
学術院の卒業パーティーで婚約破棄を言い放っただけではなく、次の相手として告げたのが、前の戦争でライドゥルに対しても武器を流し今なお支援していたことが明るみになったカラフェ男爵の令嬢だったのだ。
更に、彼の立太子の為に想いあっていた王太弟殿下とマティアス侯爵令嬢が犠牲になっていたという噂が広がり、王都におけるエルンストの評判は地を這っている。
だが、エルンストには早々に王子としての地位を取り戻してもらわなければならないのだ。
そうしなければ彼は王子の地位だけでなく、臣下に降り貴族社会で生きることも難しくなってしまう。さして目をかけてきた息子ではなかったが、それでも我が子の失敗を望んでいるわけではない。
「どうしたものか」
「陛下」
思案するアーデルベルトに、申し上げてもよろしいでしょうかとイザクはわざわざ前置きをした。
「イザク?」
「不敬かもしれませんが」
「よい、許す」
それではとイザクは身を乗り出した。
この国のことを考えれば優先順位は1つだ。
ジークヴァルトの次を確保したい。それがエルンストであろうとそうでなかろうと構わない。
「陛下、新たな奥方様を迎えられてはいかがでしょうか」
「なんだと」
「この国は、王太弟殿下とエルンスト殿下を同時に戦場に出すほどの余裕はありません」
エルンストの評価を高めるためには軍属させ、手柄を立てるのが一番早い。
今、手柄を立てようとすれば行先はシレジアしかない。
しかしながら王位継承権者のすべてが戦場に出るのはあまりにも心許ない。
婚約したばかりの王太弟は戦場にいるばかりかその婚約者はまだ未成年で、すぐに世継ぎを望める状態にない。エルンストに妃を迎えようにも、地に落ちたエルンストの評判では下級貴族の令嬢であっても敬遠するだろう。
いずれにせよ、アーデルベルトしかいない。
「お前、その不遜さは父譲りか」
「父も同じことを申しましたか」
「あぁ、側妃を何人か見繕うと言ってきた」
「それはまた」
あまりにあけすけな言いようにさすがのイザクも苦笑する。
アーデルベルトは忌々しいとばかりに眉間に皺を寄せた。
理解はしているのだ。
いかなる選択をしようとも、何もしないとしても、自身には妃が必要だった。確かにジークヴァルトを焚きつけるために言っていたのもあったが、2人が婚約しなければ実際にアーデルベルトはシェイラを妃としていただろう。
そうしなければ打開出来ない。
イザクにはそれだけを告げたが、フェルディナンドが放った言葉はもっと辛辣だった。
陛下、いえ、陛下だけではなく我々貴族も含め、機会は一度しかないのです。
陛下はあの方を今更隣に望むことは出来ないし、あの方もまた、そうです。
本気だったのであれば、貴方はもっと抗うべきでした。
当時、それをしなかった貴方は諦めるしかないのです。高位であればあるほどに自由は少なく、貴方はその、最も不自由な立場におられるのですから。
「イザク、ジークの妃候補だった令嬢達の中から余の側妃となりそうな者を見繕うよう宰相に言っておけ」
「陛下」
「エルンストは軍属させる、時間を稼ぎたい」
カテリーナの我儘は数ヶ月、まるでままごとのような穏やかな日々をアーデルベルトに与えてくれた。
それで満足しなければならないのだろうと受け入れ、アーデルベルトは目を閉じた。
ユイナ=ロロがその話に飛びついたのは家名のためだった。
彼女は最初、王太弟の妃の地位を狙ったが、ジークヴァルトという個人に何か感情があってのことではない。
やさしかったらいいなとか、どうせならよい関係が築けたらいいなとか、思わないことはなかったが、あの卒業パーティーの参加者の1人であった彼女は、それが困難だろうことも理解していた。
大体あのシェイラ=マティアスに勝てるわけがない。
ユイナが彼女に勝るのは、年上で学術院を既に卒業しているということしかなかった。いや、それも勝るというほどではない。すぐに婚礼が出来る年齢であることは間違いないが、彼女がそうなる1年で妃教育を終わらせられるとは到底思えない。まったく引けを取らず国王のエスコートを受け、ユイナには話を聞くだけで精一杯な政治の話にも臆することなく答えられることが出来る彼女が、更には長年に渡り王太弟殿下の想い人だったと知らされ、割り込むことが出来ると思う方が愚かだろう。
ユーリエ派の期待を一心に受けジークヴァルトに言い寄ろうとするリデル=ゲディングに哀れみさえ覚えつつ、しかしながらユイナもまた、勝ち目のないその輪に加わった。
彼女が望んだのは王太弟の妃ではなく、王家とのつながりだった。
ジークヴァルトと同じテーブルにテリーナがいた。彼女の狙いは寧ろ、カテリーナの目に留まり、王太后宮に出仕することだった。
国王付きの女官でもよかった。シェイラが選ばれることを見越し、彼女に取り入ってもよかった。
ロロ伯爵家は、3公爵家の中ではレノ公爵家に近い、部門の家柄である。
そして今は、日陰の身にある。
アーデルベルトの前の王、ゲオルグ王の第2王子であったツェーレはライドゥルとの戦争で流れ矢を受け、戦死した。
ユイナの父である前ロロ伯爵は当時、ツェーレの側近を務めながら、主人の命をやすやすと奪われたばかりか、自身はのうのうを戦争を生き延びてしまった。戦後、思い詰めた彼は自害したのだが、特に反アーデルベルト派の貴族達がロロ伯爵家を貴族社会から爪弾きにした。
現在、若くして伯爵位を継いだユイナの兄が武官となり汚名を注ぐべく懸命に働いているのだが、ユイナもまた、どんな形であれ王家に対し忠誠を果たし、役に立たなければと考えている。
お茶会の場は彼女にとって、自身を直接王家に売り込めるまたとない機会だった。
結局、ジークヴァルトの妃にはシェイラが選ばれたのだが、お茶会から一ヶ月ほど後、ユイナの元に王宮からの書状が届けられた。
「私が、ですか」
「そうです、最初は私の女官として入り、遠くないうちに陛下が貴方を見初められることになります」
再び王太后宮に招かれたユイナを待っていたのは王太后、ではなく側近のマノントン夫人だった。
告げられたのは有り体に言うと王の側妃となり子を産んで欲しいというもので、続けてエルンスト王子を軍属させようと思っていると言われれば、その話がすとんと落ちる。
王家の子供の少なさに王家が頭を悩ましていることは、貴族社会の一員であればよく知られたことである。
エルンストが立太子したのもアーデルベルトの王子が彼1人だったことが大きいし、今なお彼を王子の地位に置いているのも同様の理由だ。
ジークヴァルトに続きエルンストまで軍属させようとすれば、万が一のために次の王子を欲されるのはもはや必要不可欠と言っていい。
ユイナの中で思考がぐるぐるとする。
この申し出を受けることは伯爵家の利となるかを必死に考える。
が、彼女の狭い知識で得られる解は不安しかなく、率直に聞いてみることにする。
「伺ってもよろしいですか」
「えぇ、なんなり」
「ここでうなずけば当家の利となりますでしょうか」
マノントン夫人は一瞬喉を詰まらせ、続いて思わず笑い出してしまう。
貴族女性の回りくどいやり取りに慣れ切った王太后の側近には、あまりに正直な問いは斬新で、微笑ましくすら思える。
まぁ、こちらの令嬢にすれば必死なのだろうけれど、お茶を飲み、なんとか笑みを収める。
「あの、マノントン様」
「ロロ伯爵家の建て直しの役に立てるか、でよろしいのね」
問い返せば、ユイナは不安げにうなずく。
マノントン夫人はしばらく思案した。
利となるかならないか、率直過ぎる問いはなかなか難しい。
敢えて言えば、こういうことだろうか。
「貴方のやり方次第ね」
「私の?」
「そう、うまくやれば家名の向上に寄与するし、失敗すれば更に地を這うことになるでしょう」
そうね…、とつぶやき、夫人は胸元で指を組む。
真っ直ぐに令嬢を見、あの令嬢達の中ではこの娘が一番可能性があるだろうと改めて考える。
「うまくやれば力のないレノに縋るよりよほど可能性はあるわ。まずを陛下を信頼を得なさない。陛下は家柄よりも能力を尊ぶ方だわ。そして、シェイラ様を頼りなさい。陛下のお気に入りでもあるあの方もまた、その能力により認められている方です。お2人とも家名だけで優遇されるようなことはないけれど、努力と能力を正しく受け止められる方です」
「陛下と、シェイラ様」
「そう、あとはそうね」
最後に加えたのは完全なお節介だ。
「陛下に決して恋をしてはだめよ」
「マノントン様?」
これから自身を政略の具としようとしている18歳の令嬢には、自身の倍以上も年上の国王に対する恋愛感情などとても想像できないようで、苦笑が戻ってくる。
ロロ伯爵令嬢ユイナが王太后付きの女官として出仕したのは程なくしてのことである。
「あぁ、忙しいところ呼び立てて悪いな」
この日、イザクは国王アーデルベルトからの呼び出しを受けた。
次期マティアス侯爵と言っても、まだ宰相府の文官の1人に過ぎない彼が、直接国王と話す機会は滅多にない。
まぁこの件しかないだろうと思ってやってきたわけだが、アーデルベルトはその通りのことを話し始めた。
エルンストはよく学んでいるか、と。
対する答えは是だ。
随分と手を抜いていた学術院時代からすれば、想像よりずっとよくやっていると言っていい。父宰相からの命令を受け嫌々ながら引き受けた講師役だったが、日々真面目に課題をこなすのを見ていれば、その出来がいまいちでも情が湧いてくる。
王子殿下に対して不敬だが、出来の悪い弟を見ているようだと苦笑する。
「よくやっていらっしゃいますよ」
「そうか…」
前向きな回答にほっと安堵のため息を吐いたアーデルベルトは、けれどすぐさま表情を戻した。
そして、そなたはどう思うとと続けた次の問いは、父親としてではなく、王家の長としてのものだった。
特に表向きの言葉を求められているわけではないと受け取ったイザクは、淡々とした口調で応じる。
「まだまだ難しいお立場でしょう」
「だろうな」
王位継承権2位の王子として表に出せるかと言えば、それは難しい。
学術院の卒業パーティーで婚約破棄を言い放っただけではなく、次の相手として告げたのが、前の戦争でライドゥルに対しても武器を流し今なお支援していたことが明るみになったカラフェ男爵の令嬢だったのだ。
更に、彼の立太子の為に想いあっていた王太弟殿下とマティアス侯爵令嬢が犠牲になっていたという噂が広がり、王都におけるエルンストの評判は地を這っている。
だが、エルンストには早々に王子としての地位を取り戻してもらわなければならないのだ。
そうしなければ彼は王子の地位だけでなく、臣下に降り貴族社会で生きることも難しくなってしまう。さして目をかけてきた息子ではなかったが、それでも我が子の失敗を望んでいるわけではない。
「どうしたものか」
「陛下」
思案するアーデルベルトに、申し上げてもよろしいでしょうかとイザクはわざわざ前置きをした。
「イザク?」
「不敬かもしれませんが」
「よい、許す」
それではとイザクは身を乗り出した。
この国のことを考えれば優先順位は1つだ。
ジークヴァルトの次を確保したい。それがエルンストであろうとそうでなかろうと構わない。
「陛下、新たな奥方様を迎えられてはいかがでしょうか」
「なんだと」
「この国は、王太弟殿下とエルンスト殿下を同時に戦場に出すほどの余裕はありません」
エルンストの評価を高めるためには軍属させ、手柄を立てるのが一番早い。
今、手柄を立てようとすれば行先はシレジアしかない。
しかしながら王位継承権者のすべてが戦場に出るのはあまりにも心許ない。
婚約したばかりの王太弟は戦場にいるばかりかその婚約者はまだ未成年で、すぐに世継ぎを望める状態にない。エルンストに妃を迎えようにも、地に落ちたエルンストの評判では下級貴族の令嬢であっても敬遠するだろう。
いずれにせよ、アーデルベルトしかいない。
「お前、その不遜さは父譲りか」
「父も同じことを申しましたか」
「あぁ、側妃を何人か見繕うと言ってきた」
「それはまた」
あまりにあけすけな言いようにさすがのイザクも苦笑する。
アーデルベルトは忌々しいとばかりに眉間に皺を寄せた。
理解はしているのだ。
いかなる選択をしようとも、何もしないとしても、自身には妃が必要だった。確かにジークヴァルトを焚きつけるために言っていたのもあったが、2人が婚約しなければ実際にアーデルベルトはシェイラを妃としていただろう。
そうしなければ打開出来ない。
イザクにはそれだけを告げたが、フェルディナンドが放った言葉はもっと辛辣だった。
陛下、いえ、陛下だけではなく我々貴族も含め、機会は一度しかないのです。
陛下はあの方を今更隣に望むことは出来ないし、あの方もまた、そうです。
本気だったのであれば、貴方はもっと抗うべきでした。
当時、それをしなかった貴方は諦めるしかないのです。高位であればあるほどに自由は少なく、貴方はその、最も不自由な立場におられるのですから。
「イザク、ジークの妃候補だった令嬢達の中から余の側妃となりそうな者を見繕うよう宰相に言っておけ」
「陛下」
「エルンストは軍属させる、時間を稼ぎたい」
カテリーナの我儘は数ヶ月、まるでままごとのような穏やかな日々をアーデルベルトに与えてくれた。
それで満足しなければならないのだろうと受け入れ、アーデルベルトは目を閉じた。
ユイナ=ロロがその話に飛びついたのは家名のためだった。
彼女は最初、王太弟の妃の地位を狙ったが、ジークヴァルトという個人に何か感情があってのことではない。
やさしかったらいいなとか、どうせならよい関係が築けたらいいなとか、思わないことはなかったが、あの卒業パーティーの参加者の1人であった彼女は、それが困難だろうことも理解していた。
大体あのシェイラ=マティアスに勝てるわけがない。
ユイナが彼女に勝るのは、年上で学術院を既に卒業しているということしかなかった。いや、それも勝るというほどではない。すぐに婚礼が出来る年齢であることは間違いないが、彼女がそうなる1年で妃教育を終わらせられるとは到底思えない。まったく引けを取らず国王のエスコートを受け、ユイナには話を聞くだけで精一杯な政治の話にも臆することなく答えられることが出来る彼女が、更には長年に渡り王太弟殿下の想い人だったと知らされ、割り込むことが出来ると思う方が愚かだろう。
ユーリエ派の期待を一心に受けジークヴァルトに言い寄ろうとするリデル=ゲディングに哀れみさえ覚えつつ、しかしながらユイナもまた、勝ち目のないその輪に加わった。
彼女が望んだのは王太弟の妃ではなく、王家とのつながりだった。
ジークヴァルトと同じテーブルにテリーナがいた。彼女の狙いは寧ろ、カテリーナの目に留まり、王太后宮に出仕することだった。
国王付きの女官でもよかった。シェイラが選ばれることを見越し、彼女に取り入ってもよかった。
ロロ伯爵家は、3公爵家の中ではレノ公爵家に近い、部門の家柄である。
そして今は、日陰の身にある。
アーデルベルトの前の王、ゲオルグ王の第2王子であったツェーレはライドゥルとの戦争で流れ矢を受け、戦死した。
ユイナの父である前ロロ伯爵は当時、ツェーレの側近を務めながら、主人の命をやすやすと奪われたばかりか、自身はのうのうを戦争を生き延びてしまった。戦後、思い詰めた彼は自害したのだが、特に反アーデルベルト派の貴族達がロロ伯爵家を貴族社会から爪弾きにした。
現在、若くして伯爵位を継いだユイナの兄が武官となり汚名を注ぐべく懸命に働いているのだが、ユイナもまた、どんな形であれ王家に対し忠誠を果たし、役に立たなければと考えている。
お茶会の場は彼女にとって、自身を直接王家に売り込めるまたとない機会だった。
結局、ジークヴァルトの妃にはシェイラが選ばれたのだが、お茶会から一ヶ月ほど後、ユイナの元に王宮からの書状が届けられた。
「私が、ですか」
「そうです、最初は私の女官として入り、遠くないうちに陛下が貴方を見初められることになります」
再び王太后宮に招かれたユイナを待っていたのは王太后、ではなく側近のマノントン夫人だった。
告げられたのは有り体に言うと王の側妃となり子を産んで欲しいというもので、続けてエルンスト王子を軍属させようと思っていると言われれば、その話がすとんと落ちる。
王家の子供の少なさに王家が頭を悩ましていることは、貴族社会の一員であればよく知られたことである。
エルンストが立太子したのもアーデルベルトの王子が彼1人だったことが大きいし、今なお彼を王子の地位に置いているのも同様の理由だ。
ジークヴァルトに続きエルンストまで軍属させようとすれば、万が一のために次の王子を欲されるのはもはや必要不可欠と言っていい。
ユイナの中で思考がぐるぐるとする。
この申し出を受けることは伯爵家の利となるかを必死に考える。
が、彼女の狭い知識で得られる解は不安しかなく、率直に聞いてみることにする。
「伺ってもよろしいですか」
「えぇ、なんなり」
「ここでうなずけば当家の利となりますでしょうか」
マノントン夫人は一瞬喉を詰まらせ、続いて思わず笑い出してしまう。
貴族女性の回りくどいやり取りに慣れ切った王太后の側近には、あまりに正直な問いは斬新で、微笑ましくすら思える。
まぁ、こちらの令嬢にすれば必死なのだろうけれど、お茶を飲み、なんとか笑みを収める。
「あの、マノントン様」
「ロロ伯爵家の建て直しの役に立てるか、でよろしいのね」
問い返せば、ユイナは不安げにうなずく。
マノントン夫人はしばらく思案した。
利となるかならないか、率直過ぎる問いはなかなか難しい。
敢えて言えば、こういうことだろうか。
「貴方のやり方次第ね」
「私の?」
「そう、うまくやれば家名の向上に寄与するし、失敗すれば更に地を這うことになるでしょう」
そうね…、とつぶやき、夫人は胸元で指を組む。
真っ直ぐに令嬢を見、あの令嬢達の中ではこの娘が一番可能性があるだろうと改めて考える。
「うまくやれば力のないレノに縋るよりよほど可能性はあるわ。まずを陛下を信頼を得なさない。陛下は家柄よりも能力を尊ぶ方だわ。そして、シェイラ様を頼りなさい。陛下のお気に入りでもあるあの方もまた、その能力により認められている方です。お2人とも家名だけで優遇されるようなことはないけれど、努力と能力を正しく受け止められる方です」
「陛下と、シェイラ様」
「そう、あとはそうね」
最後に加えたのは完全なお節介だ。
「陛下に決して恋をしてはだめよ」
「マノントン様?」
これから自身を政略の具としようとしている18歳の令嬢には、自身の倍以上も年上の国王に対する恋愛感情などとても想像できないようで、苦笑が戻ってくる。
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