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lll.ニューリアン王国、セルジオ王国

王様の考え‐婿養子‐

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「バル様。私は反対です」
 そのように言ったのはこの部屋に居る誰でもない。
 しかし扉のところを見れば男が真っ直ぐ立っている。
「おお、君は」
 マルク王も顔見知りであるルイスであった。
 毎度足音も立てず忍んで現れるので陰湿さが払拭できない。
「舞踏会は反対です。バル様には殺害予告を思わせる内容の文言が突きつけられているのです。このタイミングで人の多い場所に出られるのは危険でしかありません」
 扉のところでそう言う。
 俺は初めて嬉しい気持ちがした。それでルイスに部屋の中に入るよう指示をした。
 理由はもっともであるのと、何より舞踏会を開かない派が現れてくれて嬉しいのだ。それもちゃんと意見の言える男でかなり助かる。
 部屋に入ったルイスを怪しむ目で見るマルク王であった。唸り声まで上げていて、俺とルイスの関係を知りたいと思ったのだろう。
「まあ、それは後で聞けばいいか」と、俺のことを振り返る。
「殺人予告なんてよくある話じゃないか。そんなものをいちいち気にしているのかい? バル君は」
 やれやれと両手を上げながら言われた。
 本心で返事をするなら、俺は殺人予告など眼中に入れていない。だがここでは反対派として主張する。
「貴族狩りの動きもありますし、エセルが巻き込まれるのが一番心配でして……」
「それは彼が守れば良いだけだろ? なあ、アルバート君?」
 思いもよらないパス回しに呆然となった。
 しばらくは人間に戻っていたアルバートが、また犬のようになってマルク王に擦り付いている。名を呼ばれればシャッキリ立って敬礼を決めこんだ。
「守ります! 守り抜きます!」
「そうだそうだ。彼はやる気だぞ?」
「いや、しかし……」
 素早くマルク王は「君もだろう?」と背中側のルイスにも言葉を投げた。
「守りたい人の守りたいものまで守ってこそ兵士というものだ」
「……」
 ルイスは黙っていた。
 俺は、その言葉がアイツの心に響いたのだと感じずにはいられなかった。
 忠誠心で動く機械じみた人間だからな。言われた言葉は言葉の通り受け取っているだろう。
「側近なら尚の事だよ」
 何を勘違いしてかマルク王は後で言う。
 先に反応したのは奇しくもアルバートであった。
「はい! 側近は自分です!」
 利口に手を上げる者に、マルク王は「んん?」と眉を曲げる。
「どういうことかな?」
「師匠の……じゃなかった。カイセイ様の弟子として、自分がバル様の側近を任されることになったんです!」
 威勢よく腰に手を当てたアルバートであったが、マルク王からの拍手は無かった。それよりも王は俺の方に確認を取ってきた。
「……色々なことを考慮した末にです」
 ここでも色々なことを考慮した上で俺は告げたのだ。
「側近かぁ。君には難しいかもね~」
「そ、そんなあ!」
「うん。諦めた方が良い。若いならいくらでも転職できるはずだよ」
 言うてくれるマルク王に俺の胸が熱くなる。
 自分の気量を理解できるチャンスだぞと、アルバートに俺から勧めるのであるが、ヤツはしぶとい上に強欲だったのである。
「じゃ、じゃあ! 僕を家族にして下さい!!」
「お、お前は調子に乗るな!?」
 俺からもう一度拳を見舞わせようとしたら華麗に避けられた。
「お願いします!!」
 真面目に志願するこの男をマルク王は足で蹴っても良いのに、ここ一番の笑いを響かせて腹を痛めているのであった。
「側近はやめて、王になるのか。いやはや……」
 涙を拭いながらヒイヒイ言っている。
 アルバートが望んでいるのは、婿養子になることではなく、ただ単に美女に囲まれた暮らしがしたいだけだ。そんな恥晒しの妄想など恐ろしくて王には伝えられん。
 それにちゃんとマルク王は断った。
 これでも懲りんのだろうなと勝手に呆れていたら、しょんぼりするアルバートにマルク王はいらん救済処置を施してくる。
「実は婿養子候補は決まっているんだよ。君が彼を越えてくれるんだったら考え直しても良いかもね」
 指を立てられると諦めの悪いこの男は尻尾を振った。
「その候補はまさか」と、俺は声を上げる。
 キースですか。
 問う前にマルク王は意味深な笑みをこぼしていた。
 それは確証を示すものに見え、あまり良いという風には受け止め難い。
 微笑もできない俺の顔をルイスだけは何か受け取って見ていたであろう。
 一人だけ怪しく笑う場所に、三人は真剣な表情を固まらせたまま佇んでいた。
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