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lll.ロンド小国、旧ネザリア
出直し‐命を賭けても守るよ‐
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窓の光が差し込むテーブルに三人は座っていた。
まだほんのり暖かさの残る紅茶と、ルイスが手を付けなかったカップケーキが少し寂しげな雰囲気を演出しているように思う。
話題はもちろんリュンヒンのことであった。
「ありがとう。うちの弟が迷惑を掛けたね……」
俺に感謝の言葉を告げた後そう言っていた。
迷惑だとは思ってもいない。俺が救えた命を繋ぎきれなかったことが、ただただずっと後を引いている。
感謝も、その後の言葉も、俺は受け止められずに黙って下を向いていただけだ。
「弟とのことだけど」
俯くテダムが話しだす。
「昔の事があってベンブルクを憎んでいるのは知っていた。でも君の兄、アレン殿がベンブルクに絡んでいると判明してからは、兄弟の考え方に差が出来て、僕は弟のことを遠目で見るようになった」
「そういえば九カ国会議のあと、お前とリュンヒンは喧嘩でもしていそうだったな」
するとテダムは下を向いたままでフッと微笑した。
「実は、君がエセルさんを初めて城に連れ来た日の、少し前からそんな感じだったんだけどね」
俺が驚いているのを目にすると「そんな仲良しに見えた?」と、珍しくテダムがはにかむ顔を見せている。
「弟には守りたいものが多すぎた。敵国を意識するあまりだ。仕方が無いと言えばそうだけど、このまま一人で背負い続けていたら立てなくなってしまうよって。それが僕の意見だ。もちろんアイツはそんなの聞かないけどね。……だから僕がひとつ預かることにした」
それがこれである。と、手のひらを返してエセルの方に向けている。
あの会議の後でエセルは任せて欲しいと言われたのが、そういう理由だったのか。
「他の守りたいものとは何だったんだ?」
気になったために問いかけたのだが、テダムはじっと俺を見つめたままでいて話してはくれなかった。
「妻が焼いたものだけど。食べたら?」
小洒落たカップケーキがまさかの手作りだと知らされたからには食べないわけにはいかない。
俺はそれを頂きながら、ロンドに行ったが決裂した都度をテダムに伝える。
「そういう用事だったか……なら、急いだ方が良いだろうね」
テダムはいつも携帯してる手帳を開いてスケジュールに目を通したようだ。
指を使っておそらく立てられている予定を弾きながら「明日朝出発しようか」と言う。
早ければ有り難く思い、俺はその予定で頷いた。
「あの。私も行きたいです」
テダムが手帳に書き込むところへエセルが滑り込んできた。
ペンの手が止まり、咀嚼が止まるとエセルはさらに言う。
「ダメだと言われれば諦めます。でも私も何かしたいんです。だって……!」
訳を話そうとするところでテダムが手帳を閉じたことにより遮った。
「とても危険ですけど大丈夫ですか?」
テダムが問いかけ、エセルは強く頷いている。
だがヤツらが拠点とするキャンプの風情を知っている俺にとっては、絶対に引き止めたい気持ちがあった。
「ダメだ。俺が許さん」
残りの大きな一口を口の中に放り込んで早々に飲み込んだ。
エセルは自分で言っていた通りに「諦めます」と小さくなっていくが仕方が無いことだ。
「連れて行ってあげたら?」
「あんな野獣の巣窟に連れて行けるか」
冷えた茶も飲み込んだ。
腹が満たされて、ふうと息を吐く俺の前で、テダムが呆れた様子でため息を吐いている。
「じゃあ僕も行かない」
「え?」「へ?」
手帳をしまって悠長に茶を飲み出した。
俺もエセルも呆気に取られており、互いに顔を見合ったりした。
しかし当人だけは落ち着き払っていて空いた皿を重ねたりなどし始めている。このままでは簡単に話し合いが終わってしまうと俺は焦った。
「なんでそうなる!?」
「だって僕とエセルさんと離れるわけには行かないだろう」
「え……」
まさかいつの間に二人はそういう……。
「弟と、君との約束だ。命を賭けても守るよ」
リュンヒンと似た顔は決して格好付けてウインクすることも無い。ただの真剣な表情で自分の使命をキッパリと口にしただけだ。
だが女性側の受け取り方は色々と複雑と聞く。
この時のエセルも例外にはならない。彼女は耳も顔を赤々となり唇をワナワナと震わせていた。
この男の俺でさえ胸が揺らめいたのだ。
「ん? どうかした?」
分かっていないのは発言者のこの男だけなのである。
「……リュンヒンよりタチが悪いぞ、お前」
「何のこと?」
無知とは実に恐ろしい。
テダムが不在では意味が無いので、エセルのこともロンドへ連れて行くことにした。
案じずともエセルのことはよくよく守ってくれるのだろうが、俺はそのことで別の懸念材料を見つけてしまった気がする。
まだほんのり暖かさの残る紅茶と、ルイスが手を付けなかったカップケーキが少し寂しげな雰囲気を演出しているように思う。
話題はもちろんリュンヒンのことであった。
「ありがとう。うちの弟が迷惑を掛けたね……」
俺に感謝の言葉を告げた後そう言っていた。
迷惑だとは思ってもいない。俺が救えた命を繋ぎきれなかったことが、ただただずっと後を引いている。
感謝も、その後の言葉も、俺は受け止められずに黙って下を向いていただけだ。
「弟とのことだけど」
俯くテダムが話しだす。
「昔の事があってベンブルクを憎んでいるのは知っていた。でも君の兄、アレン殿がベンブルクに絡んでいると判明してからは、兄弟の考え方に差が出来て、僕は弟のことを遠目で見るようになった」
「そういえば九カ国会議のあと、お前とリュンヒンは喧嘩でもしていそうだったな」
するとテダムは下を向いたままでフッと微笑した。
「実は、君がエセルさんを初めて城に連れ来た日の、少し前からそんな感じだったんだけどね」
俺が驚いているのを目にすると「そんな仲良しに見えた?」と、珍しくテダムがはにかむ顔を見せている。
「弟には守りたいものが多すぎた。敵国を意識するあまりだ。仕方が無いと言えばそうだけど、このまま一人で背負い続けていたら立てなくなってしまうよって。それが僕の意見だ。もちろんアイツはそんなの聞かないけどね。……だから僕がひとつ預かることにした」
それがこれである。と、手のひらを返してエセルの方に向けている。
あの会議の後でエセルは任せて欲しいと言われたのが、そういう理由だったのか。
「他の守りたいものとは何だったんだ?」
気になったために問いかけたのだが、テダムはじっと俺を見つめたままでいて話してはくれなかった。
「妻が焼いたものだけど。食べたら?」
小洒落たカップケーキがまさかの手作りだと知らされたからには食べないわけにはいかない。
俺はそれを頂きながら、ロンドに行ったが決裂した都度をテダムに伝える。
「そういう用事だったか……なら、急いだ方が良いだろうね」
テダムはいつも携帯してる手帳を開いてスケジュールに目を通したようだ。
指を使っておそらく立てられている予定を弾きながら「明日朝出発しようか」と言う。
早ければ有り難く思い、俺はその予定で頷いた。
「あの。私も行きたいです」
テダムが手帳に書き込むところへエセルが滑り込んできた。
ペンの手が止まり、咀嚼が止まるとエセルはさらに言う。
「ダメだと言われれば諦めます。でも私も何かしたいんです。だって……!」
訳を話そうとするところでテダムが手帳を閉じたことにより遮った。
「とても危険ですけど大丈夫ですか?」
テダムが問いかけ、エセルは強く頷いている。
だがヤツらが拠点とするキャンプの風情を知っている俺にとっては、絶対に引き止めたい気持ちがあった。
「ダメだ。俺が許さん」
残りの大きな一口を口の中に放り込んで早々に飲み込んだ。
エセルは自分で言っていた通りに「諦めます」と小さくなっていくが仕方が無いことだ。
「連れて行ってあげたら?」
「あんな野獣の巣窟に連れて行けるか」
冷えた茶も飲み込んだ。
腹が満たされて、ふうと息を吐く俺の前で、テダムが呆れた様子でため息を吐いている。
「じゃあ僕も行かない」
「え?」「へ?」
手帳をしまって悠長に茶を飲み出した。
俺もエセルも呆気に取られており、互いに顔を見合ったりした。
しかし当人だけは落ち着き払っていて空いた皿を重ねたりなどし始めている。このままでは簡単に話し合いが終わってしまうと俺は焦った。
「なんでそうなる!?」
「だって僕とエセルさんと離れるわけには行かないだろう」
「え……」
まさかいつの間に二人はそういう……。
「弟と、君との約束だ。命を賭けても守るよ」
リュンヒンと似た顔は決して格好付けてウインクすることも無い。ただの真剣な表情で自分の使命をキッパリと口にしただけだ。
だが女性側の受け取り方は色々と複雑と聞く。
この時のエセルも例外にはならない。彼女は耳も顔を赤々となり唇をワナワナと震わせていた。
この男の俺でさえ胸が揺らめいたのだ。
「ん? どうかした?」
分かっていないのは発言者のこの男だけなのである。
「……リュンヒンよりタチが悪いぞ、お前」
「何のこと?」
無知とは実に恐ろしい。
テダムが不在では意味が無いので、エセルのこともロンドへ連れて行くことにした。
案じずともエセルのことはよくよく守ってくれるのだろうが、俺はそのことで別の懸念材料を見つけてしまった気がする。
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