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Ⅱ.籠れぬ冬

メアネル大家族

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 雪の降る朝。監獄かと思った部屋に使用人が現れた。
「王がご一緒に朝食をと申されております」
 ようやく我々に招集がかかったのだ。
 豪邸ごと凍りついたのかと思うような、冷えに冷えた廊下を俺とカイセイは移動した。今まで物静かであった廊下には幾人の使用人が走り回っており、今日はやけに慌ただしい。
「おはようございます。中へどうぞ」
 この木扉を前にすると、シャーロットに叩かれた頬が痛むような気がする。
 あの時の大部屋はガランとして寂しい限りであったが今朝は違うようだ。
 部屋の外へもすでに良い香りが漂っていた。パンの焼けたような香ばしい香りである。寒さが勝り全く忘れていた食欲が急に掻き立てられた。
 中に入るとさらに賑わいを見せる。
「バル様、カイセイ様、おはようございます」
「まあバル様! 大きくなりましたね、おはようございます」
「おはようございます。お初にお目にかかりますわ」
 多くの女性達に口々に挨拶をされて気圧された。
 ガラ空きでしか見たことのなかったテーブルは満席となっていた。
 それも子供から大人まで女性ばかり。一番奥にあたる上座に控えるふくよかな男を除いては全員女性である。
「やあやバル君、カイセイ君、久しぶり! こっちだこっち!」
 片手を上げて俺たちを呼び寄せるのは、ただ一人の男であるマルク王だ。肉付きの良い指で俺達の席を示していた。
 上座にはマルク王が座り、俺の席はその王の一番側である。俺の隣ではカイセイが椅子を引いる。
「さあ食べなさい。食べなければ元気が出ないからね」
 筋肉ではなく主に脂肪をつけた恰幅の良いマルク王が言う。
 ゲストの出迎えをしなかった事や、長らく姿を見せなかった事を詫びる言葉は告げない。ただ上品にナイフでベーコンを切って口へと運んでいるだけであった。

 ナプキンを準備するなり俺たちのもとへも料理が運ばれてきた。魚介や野菜を中心とした朝食プレートである。さきほど良い香りを漂わせていたパンも付いてきた。
 ありがたく頂くとしよう。感謝の言葉を述べてから俺たちも食事を始めていく。
 同じテーブルにつく女性たちは隣人同士で別の話題で盛り上がっているようだ。向かい側に居るシャーロットもまた、明るい笑顔を見せながら話に花を咲かせていた。
 時にちらっと見えたのであるが、カイセイの横で食事を取っているのはスイナであった。あれはシャーロットの図らいなのだろうか。
 どっちにしてもカイセイは気付いていないようだが。
「……」
 それにしても……ゲストを目の前に個人の会話をやめない女性たちを、マルク王は叱るでもなく満足そうに眺めているのが不思議である。
「カイセイ君が家族に会うのは初めてだったね」
 この騒がしさに負けじと大声でマルク王は言う。すでに皿のものを平らげており、ナプキンで口を拭っていた。
 カイセイが「はい」と返事をする。
「じゃあ紹介しておかないとな」
 マルク王から女性たちの紹介がされた。だがその前にマルク王は断りを入れている。
「うちは大家族だからね。別に一気に覚えてくれなくても良いよ」
 その言葉を真に受けて良いのかどうか、真面目なカイセイは迷っているようであった。
 しかし妻が三人、その子供らが四人。ここに座る者だけで七人の似た顔の名前を覚えるのは難関である。その上相関関係まで一度に頭に入れるのはまず無理だ。
 カイセイも例外ではない。最終的に混乱の念が顔に出ていた。
「……それから昨日の晩、第四の妻が赤ん坊を産んだんだよ。五日間もかかる難産だったのでね。またいずれ二人にも会いに来てくれ」
 マルク王は嬉しそうに告げた。
 大事な用事があって俺達を待ちぼうけにした理由がそれであったのか。目出度いことなら咎める必要もない。
「はい。また会いに来ます」
「そうだカイセイ君。スイナが君と話したいことがあるらしい。あとで二人で温室にでも散策しに行くと良いよ。ねっ、バル君」
 カイセイに対して言っているものだと思いきや、マルク王のわざとらしい満面の笑みは俺の方に向けられていた。
「バル君は僕と話をしようか」
 目頭まで細められた縁起の良さそうな笑顔を見せられる。

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