上 下
31 / 56

映画に行かない?

しおりを挟む
学校に到着すると、シンディに勇希は職員室の場所を説明してから、二年生の校舎に向かって歩いていった。

 別れ際、勇希は響樹に軽く手を振ってから微笑んだ。彼女のその微笑に響樹も笑顔で返した。

「へー、紅先輩って、なんだか雰囲気変わったわね」声のする方向を見ると、同じ空手部の有村がいた。 彼女は覗き込むように響樹の顔を見た。

 なぜだか、彼女は怪訝な顔をしているような感じであった。

「ねえ、不動君。 紅先輩と付き合っているの?」直球で質問してきた。

「な、なにを言っているんだよ。・・・・・・・そんな訳無いだろう」響樹は誤魔化すように返答する。ただ、本当に勇希とは付き合っているという関係ではない。

「ふーん、でも昨日は一緒に部活休んでいたし、・・・・・・皆《みんな》、少し疑《うたが》っているよ。 なんだか紅先輩も首に赤いチョーカー巻いちゃって、なんだか違う人みたい。女の子って感じになっちゃって・・・・・・」有村の言葉はもっともだと響樹は思った。 この数日で彼の勇希への印象も一気に変化した。

 以前の勇希は、空手部の先輩で指導員。 組手、型、基本全てが素晴らしくて、その技を見ているだけで魅了され、この人のようになりたいという存在であった。 しかし、ここ数日の勇希は、拗ねたり怒ったり笑ったり、女の子らしい可愛い姿を沢山見せてくれる。

 もちろん、それが嫌だという事では決してなかった。
「あの、ゆ・・・・・・・・紅先輩が、男と付き合う訳無いだろう。 それに付き合ったとしても、もっと相応しい人がいるよ」響樹は勇希と口づけした事により、彼女を妙な事件に巻き込んでしまったようだ。 

 なんとか勇希の体を元にもどして、普通の生活にもどしてあげたいと考えていた。 
これ以上、無関係の人間を巻き込む事は、響樹には耐え切れなかった。

「ねえ、ところで今度の日曜日って暇?」有村は突然提案をしてきた。
「え、なに。 別に用事はないけれど」日曜日は、部活動は休みである。 響樹には取り立てて予定は無かった。

「じゃあさ、映画行かない? 不動君が好きっていていたアメコミの券が二枚手に入ったんだ」有村は鞄の中を探り、二枚のチケットを取り出した。

 その映画は、以前有村との会話の中で、響樹が見てみたいと言っていた映画であった。
「でも、その券・・・・・・高いんじゃないのか?」一人暮らしの響樹には、映画を見るほどの余裕は無かった。 それに、最近の洋画は三ヵ月もすればレンタルビデオの棚に並ぶのだから好きな映画も劇場で見るのは勿体無い。
「・・・・・・・ざ、雑誌の懸賞で当たったのよ。・・・・・・・あ、別にわざわざお金を出して不動君と見るために買った訳じゃないから、本当よ!」有村は顔を真っ赤に染めてチケットを一枚差し出した。

「俺とでいいのか? 狩屋とかと一緒に行かなくていいのか?」狩屋とは、有村と一緒に仲のいいクラスメイトであった。

「ふ、普通、女の子はこんな映画行かないよ。 狩屋さんとは、また違う映画に行くから・・・・・・・・、それとも私と一緒じゃ嫌?」有村は少し俯いて呟いた。

「いや、そんなこと無いよ。 これ、俺が丁度見たかった映画だから、有難う」響樹は嬉しそうにお礼を言った。

「う、それじゃあ駅のビッグマンの前で・・・・・・朝、八時。すこし早いけれど大丈夫?」有村がはにかみながら微笑んだ。

「うん、大丈夫。遅れないように行くよ」響樹はもらったチケットを鞄にしまうと手を振りながら教室に向かった。

「よかった・・・・・・紅先輩とは、付き合ってないんだ・・・・・・」有村はスキップするように歩いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

聖女戦士ピュアレディー

ピュア
大衆娯楽
近未来の日本! 汚染物質が突然変異でモンスター化し、人類に襲いかかる事件が多発していた。 そんな敵に立ち向かう為に開発されたピュアスーツ(スリングショット水着とほぼ同じ)を身にまとい、聖水(オシッコ)で戦う美女達がいた! その名を聖女戦士 ピュアレディー‼︎

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

魔法少女ピュアハメ淫らに堕つ~原理主義オタクの催眠調教~

猪熊夜離(いのくま よが)
ファンタジー
魔法少女ピュアハメは愛と正義の魔法少女である。他者からの愛を受け取って戦う彼女のエネルギーは、愛する者の精液。今日も幼馴染と近所の公園で青姦もといエネルギー補給に勤しんでいたはずが、全ては敵の催眠が見せる幻だった! 「幼女の憧れ魔法少女が膣内射精大好き変態女のはずがない。偽物め!」と歪んだ義憤を撒き散らして怪人化した男(元ピュアハメ大好きオタクくん)に捕まり、催眠で身体の自由を奪われ何度もアヘらされる魔法少女の明日はどっちだ!

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

異世界の剣聖女子

みくもっち
ファンタジー
 (時代劇マニアということを除き)ごく普通の女子高生、羽鳴由佳は登校中、異世界に飛ばされる。  その世界に飛ばされた人間【願望者】は、現実世界での願望どうりの姿や能力を発揮させることができた。  ただし万能というわけではない。 心の奥で『こんなことあるわけない』という想いの力も同時に働くために、無限や無敵、不死身といったスキルは発動できない。  また、力を使いこなすにはその世界の住人に広く【認識】される必要がある。  異世界で他の【願望者】や魔物との戦いに巻き込まれながら由佳は剣をふるう。  時代劇の見よう見まね技と認識の力を駆使して。  バトル多め。ギャグあり、シリアスあり、パロディーもりだくさん。  テンポの早い、非テンプレ異世界ファンタジー! *素敵な表紙イラストは、朱シオさんからです。@akasiosio

処理中です...