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恥ずかしくないんですか?

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 クレナイが調理をしている。
 少し手の込んだ料理のようで下ごしらえから始めるようだ。

「「不動君は、ご両親の事を覚えていないの?」」

「「・・・・・・・本当の事を言うと、俺、中学校の途中からの記憶しか無いのです。 初めは施設にいたのですが、高校入学と同時にこのマンションに越してきたんです。 だから、親のことは憶えていません。 それに、あの静香って娘の言うことも本当なのか嘘なのか・・・・・・・」」その言葉を聞いたクレナイの手が止まる。

「「そうなんだ・・・・・・」」
 気持ちは二人なのだが、体は一人なので一人前の量だけ準備した。

「「いただきます」」クレナイは自分で作った料理を口にする。

「「旨い! 美味しいです。 本当に料理が上手なんですね! 先輩」」響樹は久しぶりに食べる手料理に感動していた。

「「だから言ったじゃない。得意だって・・・・・・」」クレナイの表情が得意満面になった。 傍から見れば彼女は一人談議に華を咲かせているようにみえるであろう。

「「ああ、美味しかった」」響樹は勇希の料理を堪能したようであった。 クレナイは食器を洗いくつろぐ。

「「さあ・・・・・・」」クレナイが立ち上がる。

「「そろそろ寝ますか?」」

「「そうね、・・・・・・その前に・・・・・・お風呂・・・・・・」」

「「え! 風呂ですか・・・・・・」」

「「だって、このまま寝るのは気持ち悪いもの・・・・・・貴方が準備して、手順が解らないから・・・・・・」」クレナイが立ち上がった。

「「はい」」響樹はクレナイの体の主導権を委譲されて浴槽を洗い、湯船を張った。 

「「さあ」」言うとクレナイは着ていたシャツの裾を掴み脱ぎ捨てようとする。

「「ちょ、ちょっと待ってください!」」響樹がクレナイの動きを止めた。

「「な、なによ! 服を脱がないとお風呂に入れないわ・・・・・・」」勇希が不服そうに呟く。

「「目隠しをお願いします」」クレナイが先ほどのタオルをアイマスクの代わりに巻いた。クレナイは手探りで浴室に移動して、衣服を脱ぎ捨てた。
 浴室に入る扉の位置が解らずあたふたする。足の小指を棚にぶつけた。

「「痛っ! ・・・・・・・もう、面倒くさい!」」言うとクレナイはタオルを取った。

「「ちょっと、さっきは嫌がったくせに・・・・・・・」」

「「トイレと、お風呂は違うわよ! それに、これじゃ体も洗えないわ!」」クレナイはズカズカと浴室の中に飛び込んだ。

 響樹は未知の世界に飛び込んだ。湯船を上がり、髪を丁寧に洗ってから、ボディーソープで体を洗う。
 体を確認して洗おうとする勇希と視線を逸らす響樹の戦いが繰り広げられる。

「「ちょっと、きちんと確認して洗わないと・・・・・・」」

「「確認しなくても洗えます!」」
 クレナイの体は必要以上にのぼせていた。
 勇希が長湯したことと、彼女の裸体を見た響樹の血流が激しくなり、鼻血を出す始末であった。

「「ああ、すっきりしたわ」」クレナイは髪をドライヤーで乾かしながらくつろいでいた。 響樹のシャツと短パンを身につけていた。

「「・・・・・・・」」響樹は無言のままであった。

「「どうしたの・・・・・・・怒ったの?」」勇希は響樹の態度が気になった。 クレナイは先ほど、食材と一緒に購入した牛乳をコップに注そそぎ一気に流し込む。

「「別に、怒っていませんよ・・・・・・・ただ・・・・・・」」

「「ただ?」」

「「恥ずかしくないんですか? ・・・・・・・その、裸見られて」」クレナイはベッドに潜り込んだ。

「「だって、私の裸じゃないもの」」平然と彼女は答えた。

「「・・・・・・・」」響樹は言い返す言葉が見つからなかった。

 灯りを消して目を閉じる。 クレナイは枕に顔を埋める。

「「不動君の匂い・・・・・・」」勇希は枕の匂いを嗅いだ。

「「なにか言いましたか?」」響樹はクレナイの声を聞き取れなかった。

「「べ、別に、何でもありません!」」勇希は照れ笑いで誤魔化した。
 少し長い沈黙が流れた。

「「このまま、戻れなかったらどうしよう・・・・・・」」勇希が不安を口にした。 その不安は響樹も感じていた。

「「大丈夫ですよ。きっと・・・・・・戻れますよ」」それは、全く確証の無いものであった。明日から戻れる方法を見つけないといけない。 きっと、あの葵 静香という少女の聞けばなにか解るのではないかとの期待をあった。

「「そうだね・・・・・・・お休みなさい。響樹君」」勇希は突然、響樹の下の名前を呼んだ。 何故かクレナイの頬が少し赤くなっていた。

「「ええ、お休みなさい・・・・・・えっ」」返事は無かった。なぜかいつもと違う呼び方をされて少し戸惑ったが、響樹は決して悪い気はしなかった。
 クレナイはゆっくりと目を閉じて眠りについた。
 
 マンションの上には、二人の様子を見守るように葵 静香が待機していた。彼女は両手で膝を抱えながらゆっくりと目を閉じた。
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