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モンゴリー
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「朝よ!コウ君起きなさい」叔母さんの優しい声で目が覚める。なんだか頬の辺りがなんだか乾燥しているような感じがする。
「おはようございます・・・・・・・」俺は欠伸をしながら朝の挨拶をする。
「直美も起こしてきて、日曜日だからってダラダラしていたら癖になるから」叔母さんは言い残すとキッチンに移動していった。
「はい」俺はソファから起き上がると階段を上った。
直美の部屋をノックする。「直美! 朝だぞ、叔母さんが朝食だって!」
返事は無い。
「直美! 朝だってば!」もう一度ノックをした。その勢いでゆっくりとドアが開く。
俺は誘われるように部屋の中に入っていった。
カーテンを閉め切っていて部屋の中は真っ暗であった。
「これじゃあ、朝だって解らない訳だ・・・・・・・」言いながら俺はカーテンを開けた。 空は相変わらず曇っていたが、それなりに部屋の中が明るくなった。
「う、ううん・・・・・・」直美が女の子らしい声を出した。その声に反応して直美の顔を眺める。
「こいつ・・・・・・けっこう可愛いんだ」改めて見ると直美は色が白く肌が綺麗だ。頬は少し赤く紅潮し唇も可愛い。なぜだかしゃがみ込んで頬杖をついてその顔を観察するかたちになった。今までこのような機会がなく、俺は食い入るように見つめていた。
「ううん、あ・・・・・・・幸太郎君・・・・・・・?」直美の目が見開いている。
「あ、ああ、おはよう」急に目が合って俺は緊張で言葉が上擦った。
「な、なにしてるの?」
「いや、叔母さんが直美を起こして来いって」
「い、いやー!! 変態!」右ストレートが俺の顔面に炸裂する。仰け反るように俺の体が宙を舞った。
「い、いひゃい」顔面を押さえながら俺はその場にうずくまった。
「部屋に勝手に入って来て、女の子の寝顔を観察するなんて変態の極みじゃない!」直美はベッドの上に立ち上がり腰に手をやり、大の字のように立っていた。彼女は少し大きめのパジャマの上着を着ており、ズボンは・・・・・・・穿いていなかった。下から見上げるとピンクの下着が見えている。 先ほどのパンチとこの刺激で俺は鼻血を垂れ流した。
彼女は頬を真っ赤に染めながらベッドの上に座り込み毛布で下着を隠した。
「エッチ! 部屋から出て行け!」
「はいっ!!」俺は鼻血を押さえながら直美の部屋を飛び出した。
「ファムちゃん! ソーニャちゃんも朝ごはんよ!」叔母さんの声が聞こえる。
「おほほーい!」ファムは雄叫びのような返事をしながら階段を駆け下りていった。ソーニャも詩織さんの部屋の住人と化していた。
本当に叔母さんは寛大で、急激に増加した住人に文句の一つも言わずに、彼らの食事を用意している。逆に嬉しそうであった。
俺は頭を上に向けて、後頭部を叩きながら階段を下りた。テーブルにはファムがニコニコしながら、叔母さんの作った朝食を食べていた。
「ママさんの作った、料理は本当に美味しいのだ! ワシの城の調理人よりも旨い!」ファムは満面の笑みを見せた。なんだか、キャラが変わっているような気がするのは俺だけか・・・・・・。
「おはよう・・・・・・」直美がリビングに入ってきた。顔は赤みを帯びたままであった。
「あら、直美。熱でもあるの? 顔が真っ赤よ」叔母さんが少し心配そうに直美の額に手を当てる。
「だ、大丈夫よ」
「そうね、熱はなさそうね」叔母さんは安心したようだ。
「もう、子供じゃないんだから」直美は拗ねたような顔を見せた。ファムは周りのやり取りを気にする素振りも無くひたすら食事を続けていた。
「う、うん! 幸太郎君、ちょっと」直美は業とらしい咳払いをしたかと思うと、人差し指を口元に当ておもむろに俺の名前を呼び手招きをした。
「えっ?!」招かれるままに直美の顔を近づけた。
「ちょ、ちょっと近すぎ!」恥ずかしそうに彼女は顔を赤らめた。
「ああ」俺は彼女の指示に従い少し距離を置いた。
「今日の約束なんだけど・・・・・・・皆に気づかれるとややこしいから、隣駅の噴水前で一時に待ち合わせ、いいわね」ファム達に聞こえない位の大きさで直美は呟いた。
「ややこしい? 何で?」何がややこしいのか意味が解らない。
「え、あ、とにかくいいわね! 解った?!」なんだか少し怒り気味の様子で直美は言い残しリビングから消えた。ファム達の様子を確認したが俺達の会話は聞こえていなかったようだ。相変わらず叔母さんの作った朝ごはんを飲み込んでいた。詩織さんとソーニャがリビングに入ってくるのと入れ替わりに俺は旧俺の部屋へと向かった。私服や私物はまだあの部屋に置いたままだ。ファムが食事をしている間に出かける用意をすることにする。
「あ、お兄ちゃんおはよう」廊下で愛美ちゃんとすれ違う。
「愛美ちゃんおはよう」なんだかこの家は、小さな民宿のような感じになっていた。すれ違い様に小さな胸をわざとらしく俺に押し付けてきた。
「ちょ、ちょっと愛美ちゃん」恥ずかしくて顔を背けた。
「お兄ちゃん・・・・・・・もしかして、勃った、ねえ勃った?!」この娘の行動はなにを考えているのか良く解らない。
パコーン!
「痛っ!」 綺麗な音が廊下に響く。愛美ちゃんの頭を直美がスリッパで叩いていた。
「あんた、朝っぱらから何馬鹿な事やってんのよ!」直美が腰に手を当て怒ったような仕草を見せた。白いブラウスにフードのついたパーカー、それに綺麗ば赤いミニスカート。
「だって、お兄ちゃんの反応が面白いから・・・・・・・、あれ? それより直美お姉ちゃん可愛い服着て何処かにお出かけするの?」愛美ちゃんは直美のスカートの裾を掴みめくり上げた。「ひっ!!」直美は慌ててスカートの裾を押さえた。
「えっ!」俺は食い入るように直美の足を見つめた。白く引き締まった綺麗な生足であった。また、鼻血が出そうな感覚に襲われる。
「み、幸太郎君! 何を見ているのよ!」
「ぐえ!」直美の強烈な真空飛び膝蹴りが俺の腹部にめり込んだ。俺は廊下の隅でグッタリとしていた。
「行ってきます!!」直美は少し蟹股気味で階段を下りていった。
「行ってらっしゃい!」愛美ちゃんが元気良く見送る。果たして俺は、自分の部屋に辿りつくことが出来るのであろうか・・・・・・。
いつもの着慣れたシャツにジーンズ、白いスポーツシューズで俺は待ち合わせの場所に向かう。なんだか男物の私服で出かけるのが久しぶりのような気がする。
今日もあいにくのお天気、いつもより増して空は暗い。しかし雨の降る気配は無い様子だ。
電車に乗り一つ隣の駅に到着する。丁度待ち合わせの時間に到着した。結構人が多くて直美を見つけるのは結構大変だと思ったが、その心配は無用であった。
「ねえ、シカトしてないで返事してよ」
「どっか、遊びに行こうよ!」直美の周りはナンパな男達で人だかりとなっていた。
直美は動じる事無く無視を決め込んでいる。
「な、直美!」俺は意を決して声をかける。「はぁ?!」男達が一斉に俺のほうに振り返る。皆さん殺伐とした目をして俺の顔を見ている。
「幸太郎くーん! 遅かったじゃない!」直美が業とらしいくらいに大きく手を振って走ってくる。作り笑顔が恐ろしい。直美は俺の腕に自分の腕を絡みつけた。
「お、おい、ちょっと!」俺はその行動に躊躇した。
「いいから、私の言うとおりにして!」小さいがドスの利いた声で脅された。
「解りました・・・・・・」俺は脅迫に屈服した。
「まさかそいつが彼氏?」ナンパ男が訝しげな顔で俺の顔を睨みつけている。
「ええ、私達アツアツの恋人よ!」直美は頭を俺の体に傾けて大きな声で宣言した。
「えっ?! アツアツ! 痛っ!」直美が俺の腕を抓った。直美の顔を見ると鬼のような形相で俺を睨みつける。貴方、魔女ではなかったのですか・・・・・・。
「そ、そう、アツアツ! 湯気がでるほどアッツアッツ!」俺は直美に同調するように大声で叫んだ。 周りの人たちの視線が冷たい。
「そうか・・・・・・・男付じゃしかたないわ、じゃあ!」男は格好良く片手を上げると別の女の子を物色するように姿を消した。辺りにいた別の男達も蜘蛛の子を散らすように姿を消した。去り際に「釣り合わない」とか批判の声が聞こえたような気がするが、それは気にしないことにする。
「ちょっと、遅いじゃない! 大変だったんだから・・・・・・・・」直美が少し怒ったように頬を膨らませた。
「いや、俺は時間通りに来たつもりなんだが、大体そんな格好してっから男に声かけられるんだよ」直美は先ほどと同じ短いスカートを履いた。スラッと出た綺麗な足が艶かしい。
「誰の為だと思っているのよ・・・・・・」直美が何か呟いた。
「え、なんか言ったか?」彼女の言葉が聞き取れずに俺は聞き返した。
「な、何でも無いわよ!」何故か顔を真っ赤に染めている。
「そうか・・・・・・・、あっ!」俺は腕を上げようとしたが直美の腕に阻止された。俺達は腕を組んだままであった。
「ア、アンタ何時まで腕組んでいるのよ!」直美は慌てて腕を振りほどいた。
「俺じゃなくて、無理やり腕を組んだのはお前だろ!」
「無理やりって、私が相手じゃ嫌って事!」
「誰もそんな事言ってねえよ!! ぐへっ!」鳩尾に強烈なボディーブロー! 朝食ってないので出るものが何も無かった。
「早く来なさい、置いていくわよ!」まるで母親が駄々をこねる子供に言うように直美は言った。痛む腹を押さえながら彼女の後を着いていった。
男性向けの衣服売場で俺の服を見立ててもらう。
「これなんて、いいんじゃない!」直美はテキパキと服をチョイスして、俺の体に合わせる。
「ああ、俺はよく解らないから直美のセンスに任せるよ!」
「もう、責任重大じゃない」文句を言いながらもなんだか楽しそうな様子であった。
自分の服を選ぶように、あれでもないこれでも無いと服を選んでいる。彼女が服を差し出すたびに俺は、更衣室に入り着替える。一時間ほどかけて、彼女のコーディネートにより服を購入した。
「ねえねえ!次は私の服を買うのも付き合って!」直美は微笑みながら首を傾けた。たまに直美も可愛らしい表情を見せる。
「ああ、いいよ!」この一言を俺は後で後悔することになる。
女性用の衣服フロアーに移動する。
「わあ!」直美の瞳が輝きを増している。
「いらっしゃいませ」女性定員が丁寧に頭を下げた。
「カラフルだな・・・・・・・・」俺はその彩に躊躇した。実際女性物の売場など初めてで、目のやり場に困る。
「ねえ、ねえこれなんてどうかな?」直美は綺麗な緑色のキャミソールを片手に俺に感想を聞いてきた。露出が多すぎるような気がするが・・・・・・・。
「小さすぎて窮屈なんじゃないか」
「なにが?」直美は意味が解らないようで首を傾げる。
「いや、胸が・・・・・・・」俺は正直な感想を述べた。
「な、エッチ!」
「痛っ!」直美は俺の足を踏みつけた。
「私、試着してくるから!」言いながら直美は2、3着の服を片手に更衣室に向かった。
俺は通路の設置された椅子に腰掛けて直美の着替えを待つことにした。
若い女性向けの売場、日曜日ということもあり多くの女性客で賑わっている。俺は場違いな空気を感じていた。俯きながら通路の床を見つめていた。
「幸太郎」声の主が俺の隣に座る。聞き覚えのある声で不意に名前を呼ばれ俺は驚きながら顔を確認した。
「お、お前・・・・・・・なぜ、ここにいるんだ?!」その顔を見て驚愕で体を動かせないでいた。
「なんだか邪険にされているようね、元は同じ体だったのに」モンゴリーであった。
俺は立ち上がり警戒をした。そしていつでも指輪を触れることが出来る状態をキープした。
「おいおい、いくら私でもこんなところで一戦交えるつもりは無い。それに少し話したいことがあるのでな」言いながら彼女は足を組んだ。長い足を綺麗に組み子悪魔な表情で微笑んでいる。これがあの黒猫だったとは信じがたい。そのいでたちはまるでモデルのようであった。
「話って、なんだ?!」俺は警戒を解かずに聞いた。
「とにかく、座れ。お前に皆の視線が集中しているぞ」モンゴリーの言葉を聞いて周りを確認すると女の子達が訝しげな目で俺を見てヒソヒソ話しをしている。
美しい女性を脅迫する男にでも見えたようだ。俺は咳払いをしながら彼女の隣に座った。
「細かい説明は省くが、もうすぐ人間界に大きな災いが起きる。それを防ぐ為には、お前の力が必要なのだ」
「唐突になんだ、お前の話を信じろというのか?」モンゴリーの顔を睨みつける。
「そうだ、そしてこの話はエリザ達には秘密だ」
「どうしてなんだ、それなら神戸、いや詩織さん達も一緒に協力すればいいじゃないのか?」
「それは・・・・・・・駄目よ」彼女は目を瞑った。
「なぜだ、皆で協力したほうが効率がいいのは明らかだろう!」俺は再び立ち上がった。
「幸太郎くーん!」直美の呼ぶ声が聞こえその方向に目を向けた。モンゴリーのせいで直美の事をすっかり失念していた。もう一度モンゴリーのいた椅子に視線を移すとそこに彼女の姿は無かった。
「もう、幸太郎君! ちょっと!」少し怒り気味の声が聞こえた。俺は更衣室のほうに移動する。
「ごめん・・・・・・・」
「どうしたの? 誰かいたの」直美は更衣室のカーテンで体を隠しながら聞いた。
「い、いや別に、それより気に入った服あったのか?」俺は話題を誤魔化すように言った。
「あ、そうだ、これどうかな?」言いながらカーテンを手から離した。直美は可愛らしいワンピースを着ていた。白く可愛い模様のついたデザインであった。
「ちょっと、可愛すぎるかな?」彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤くした。
「おはようございます・・・・・・・」俺は欠伸をしながら朝の挨拶をする。
「直美も起こしてきて、日曜日だからってダラダラしていたら癖になるから」叔母さんは言い残すとキッチンに移動していった。
「はい」俺はソファから起き上がると階段を上った。
直美の部屋をノックする。「直美! 朝だぞ、叔母さんが朝食だって!」
返事は無い。
「直美! 朝だってば!」もう一度ノックをした。その勢いでゆっくりとドアが開く。
俺は誘われるように部屋の中に入っていった。
カーテンを閉め切っていて部屋の中は真っ暗であった。
「これじゃあ、朝だって解らない訳だ・・・・・・・」言いながら俺はカーテンを開けた。 空は相変わらず曇っていたが、それなりに部屋の中が明るくなった。
「う、ううん・・・・・・」直美が女の子らしい声を出した。その声に反応して直美の顔を眺める。
「こいつ・・・・・・けっこう可愛いんだ」改めて見ると直美は色が白く肌が綺麗だ。頬は少し赤く紅潮し唇も可愛い。なぜだかしゃがみ込んで頬杖をついてその顔を観察するかたちになった。今までこのような機会がなく、俺は食い入るように見つめていた。
「ううん、あ・・・・・・・幸太郎君・・・・・・・?」直美の目が見開いている。
「あ、ああ、おはよう」急に目が合って俺は緊張で言葉が上擦った。
「な、なにしてるの?」
「いや、叔母さんが直美を起こして来いって」
「い、いやー!! 変態!」右ストレートが俺の顔面に炸裂する。仰け反るように俺の体が宙を舞った。
「い、いひゃい」顔面を押さえながら俺はその場にうずくまった。
「部屋に勝手に入って来て、女の子の寝顔を観察するなんて変態の極みじゃない!」直美はベッドの上に立ち上がり腰に手をやり、大の字のように立っていた。彼女は少し大きめのパジャマの上着を着ており、ズボンは・・・・・・・穿いていなかった。下から見上げるとピンクの下着が見えている。 先ほどのパンチとこの刺激で俺は鼻血を垂れ流した。
彼女は頬を真っ赤に染めながらベッドの上に座り込み毛布で下着を隠した。
「エッチ! 部屋から出て行け!」
「はいっ!!」俺は鼻血を押さえながら直美の部屋を飛び出した。
「ファムちゃん! ソーニャちゃんも朝ごはんよ!」叔母さんの声が聞こえる。
「おほほーい!」ファムは雄叫びのような返事をしながら階段を駆け下りていった。ソーニャも詩織さんの部屋の住人と化していた。
本当に叔母さんは寛大で、急激に増加した住人に文句の一つも言わずに、彼らの食事を用意している。逆に嬉しそうであった。
俺は頭を上に向けて、後頭部を叩きながら階段を下りた。テーブルにはファムがニコニコしながら、叔母さんの作った朝食を食べていた。
「ママさんの作った、料理は本当に美味しいのだ! ワシの城の調理人よりも旨い!」ファムは満面の笑みを見せた。なんだか、キャラが変わっているような気がするのは俺だけか・・・・・・。
「おはよう・・・・・・」直美がリビングに入ってきた。顔は赤みを帯びたままであった。
「あら、直美。熱でもあるの? 顔が真っ赤よ」叔母さんが少し心配そうに直美の額に手を当てる。
「だ、大丈夫よ」
「そうね、熱はなさそうね」叔母さんは安心したようだ。
「もう、子供じゃないんだから」直美は拗ねたような顔を見せた。ファムは周りのやり取りを気にする素振りも無くひたすら食事を続けていた。
「う、うん! 幸太郎君、ちょっと」直美は業とらしい咳払いをしたかと思うと、人差し指を口元に当ておもむろに俺の名前を呼び手招きをした。
「えっ?!」招かれるままに直美の顔を近づけた。
「ちょ、ちょっと近すぎ!」恥ずかしそうに彼女は顔を赤らめた。
「ああ」俺は彼女の指示に従い少し距離を置いた。
「今日の約束なんだけど・・・・・・・皆に気づかれるとややこしいから、隣駅の噴水前で一時に待ち合わせ、いいわね」ファム達に聞こえない位の大きさで直美は呟いた。
「ややこしい? 何で?」何がややこしいのか意味が解らない。
「え、あ、とにかくいいわね! 解った?!」なんだか少し怒り気味の様子で直美は言い残しリビングから消えた。ファム達の様子を確認したが俺達の会話は聞こえていなかったようだ。相変わらず叔母さんの作った朝ごはんを飲み込んでいた。詩織さんとソーニャがリビングに入ってくるのと入れ替わりに俺は旧俺の部屋へと向かった。私服や私物はまだあの部屋に置いたままだ。ファムが食事をしている間に出かける用意をすることにする。
「あ、お兄ちゃんおはよう」廊下で愛美ちゃんとすれ違う。
「愛美ちゃんおはよう」なんだかこの家は、小さな民宿のような感じになっていた。すれ違い様に小さな胸をわざとらしく俺に押し付けてきた。
「ちょ、ちょっと愛美ちゃん」恥ずかしくて顔を背けた。
「お兄ちゃん・・・・・・・もしかして、勃った、ねえ勃った?!」この娘の行動はなにを考えているのか良く解らない。
パコーン!
「痛っ!」 綺麗な音が廊下に響く。愛美ちゃんの頭を直美がスリッパで叩いていた。
「あんた、朝っぱらから何馬鹿な事やってんのよ!」直美が腰に手を当て怒ったような仕草を見せた。白いブラウスにフードのついたパーカー、それに綺麗ば赤いミニスカート。
「だって、お兄ちゃんの反応が面白いから・・・・・・・、あれ? それより直美お姉ちゃん可愛い服着て何処かにお出かけするの?」愛美ちゃんは直美のスカートの裾を掴みめくり上げた。「ひっ!!」直美は慌ててスカートの裾を押さえた。
「えっ!」俺は食い入るように直美の足を見つめた。白く引き締まった綺麗な生足であった。また、鼻血が出そうな感覚に襲われる。
「み、幸太郎君! 何を見ているのよ!」
「ぐえ!」直美の強烈な真空飛び膝蹴りが俺の腹部にめり込んだ。俺は廊下の隅でグッタリとしていた。
「行ってきます!!」直美は少し蟹股気味で階段を下りていった。
「行ってらっしゃい!」愛美ちゃんが元気良く見送る。果たして俺は、自分の部屋に辿りつくことが出来るのであろうか・・・・・・。
いつもの着慣れたシャツにジーンズ、白いスポーツシューズで俺は待ち合わせの場所に向かう。なんだか男物の私服で出かけるのが久しぶりのような気がする。
今日もあいにくのお天気、いつもより増して空は暗い。しかし雨の降る気配は無い様子だ。
電車に乗り一つ隣の駅に到着する。丁度待ち合わせの時間に到着した。結構人が多くて直美を見つけるのは結構大変だと思ったが、その心配は無用であった。
「ねえ、シカトしてないで返事してよ」
「どっか、遊びに行こうよ!」直美の周りはナンパな男達で人だかりとなっていた。
直美は動じる事無く無視を決め込んでいる。
「な、直美!」俺は意を決して声をかける。「はぁ?!」男達が一斉に俺のほうに振り返る。皆さん殺伐とした目をして俺の顔を見ている。
「幸太郎くーん! 遅かったじゃない!」直美が業とらしいくらいに大きく手を振って走ってくる。作り笑顔が恐ろしい。直美は俺の腕に自分の腕を絡みつけた。
「お、おい、ちょっと!」俺はその行動に躊躇した。
「いいから、私の言うとおりにして!」小さいがドスの利いた声で脅された。
「解りました・・・・・・」俺は脅迫に屈服した。
「まさかそいつが彼氏?」ナンパ男が訝しげな顔で俺の顔を睨みつけている。
「ええ、私達アツアツの恋人よ!」直美は頭を俺の体に傾けて大きな声で宣言した。
「えっ?! アツアツ! 痛っ!」直美が俺の腕を抓った。直美の顔を見ると鬼のような形相で俺を睨みつける。貴方、魔女ではなかったのですか・・・・・・。
「そ、そう、アツアツ! 湯気がでるほどアッツアッツ!」俺は直美に同調するように大声で叫んだ。 周りの人たちの視線が冷たい。
「そうか・・・・・・・男付じゃしかたないわ、じゃあ!」男は格好良く片手を上げると別の女の子を物色するように姿を消した。辺りにいた別の男達も蜘蛛の子を散らすように姿を消した。去り際に「釣り合わない」とか批判の声が聞こえたような気がするが、それは気にしないことにする。
「ちょっと、遅いじゃない! 大変だったんだから・・・・・・・・」直美が少し怒ったように頬を膨らませた。
「いや、俺は時間通りに来たつもりなんだが、大体そんな格好してっから男に声かけられるんだよ」直美は先ほどと同じ短いスカートを履いた。スラッと出た綺麗な足が艶かしい。
「誰の為だと思っているのよ・・・・・・」直美が何か呟いた。
「え、なんか言ったか?」彼女の言葉が聞き取れずに俺は聞き返した。
「な、何でも無いわよ!」何故か顔を真っ赤に染めている。
「そうか・・・・・・・、あっ!」俺は腕を上げようとしたが直美の腕に阻止された。俺達は腕を組んだままであった。
「ア、アンタ何時まで腕組んでいるのよ!」直美は慌てて腕を振りほどいた。
「俺じゃなくて、無理やり腕を組んだのはお前だろ!」
「無理やりって、私が相手じゃ嫌って事!」
「誰もそんな事言ってねえよ!! ぐへっ!」鳩尾に強烈なボディーブロー! 朝食ってないので出るものが何も無かった。
「早く来なさい、置いていくわよ!」まるで母親が駄々をこねる子供に言うように直美は言った。痛む腹を押さえながら彼女の後を着いていった。
男性向けの衣服売場で俺の服を見立ててもらう。
「これなんて、いいんじゃない!」直美はテキパキと服をチョイスして、俺の体に合わせる。
「ああ、俺はよく解らないから直美のセンスに任せるよ!」
「もう、責任重大じゃない」文句を言いながらもなんだか楽しそうな様子であった。
自分の服を選ぶように、あれでもないこれでも無いと服を選んでいる。彼女が服を差し出すたびに俺は、更衣室に入り着替える。一時間ほどかけて、彼女のコーディネートにより服を購入した。
「ねえねえ!次は私の服を買うのも付き合って!」直美は微笑みながら首を傾けた。たまに直美も可愛らしい表情を見せる。
「ああ、いいよ!」この一言を俺は後で後悔することになる。
女性用の衣服フロアーに移動する。
「わあ!」直美の瞳が輝きを増している。
「いらっしゃいませ」女性定員が丁寧に頭を下げた。
「カラフルだな・・・・・・・・」俺はその彩に躊躇した。実際女性物の売場など初めてで、目のやり場に困る。
「ねえ、ねえこれなんてどうかな?」直美は綺麗な緑色のキャミソールを片手に俺に感想を聞いてきた。露出が多すぎるような気がするが・・・・・・・。
「小さすぎて窮屈なんじゃないか」
「なにが?」直美は意味が解らないようで首を傾げる。
「いや、胸が・・・・・・・」俺は正直な感想を述べた。
「な、エッチ!」
「痛っ!」直美は俺の足を踏みつけた。
「私、試着してくるから!」言いながら直美は2、3着の服を片手に更衣室に向かった。
俺は通路の設置された椅子に腰掛けて直美の着替えを待つことにした。
若い女性向けの売場、日曜日ということもあり多くの女性客で賑わっている。俺は場違いな空気を感じていた。俯きながら通路の床を見つめていた。
「幸太郎」声の主が俺の隣に座る。聞き覚えのある声で不意に名前を呼ばれ俺は驚きながら顔を確認した。
「お、お前・・・・・・・なぜ、ここにいるんだ?!」その顔を見て驚愕で体を動かせないでいた。
「なんだか邪険にされているようね、元は同じ体だったのに」モンゴリーであった。
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「話って、なんだ?!」俺は警戒を解かずに聞いた。
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「そうだ、そしてこの話はエリザ達には秘密だ」
「どうしてなんだ、それなら神戸、いや詩織さん達も一緒に協力すればいいじゃないのか?」
「それは・・・・・・・駄目よ」彼女は目を瞑った。
「なぜだ、皆で協力したほうが効率がいいのは明らかだろう!」俺は再び立ち上がった。
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「もう、幸太郎君! ちょっと!」少し怒り気味の声が聞こえた。俺は更衣室のほうに移動する。
「ごめん・・・・・・・」
「どうしたの? 誰かいたの」直美は更衣室のカーテンで体を隠しながら聞いた。
「い、いや別に、それより気に入った服あったのか?」俺は話題を誤魔化すように言った。
「あ、そうだ、これどうかな?」言いながらカーテンを手から離した。直美は可愛らしいワンピースを着ていた。白く可愛い模様のついたデザインであった。
「ちょっと、可愛すぎるかな?」彼女は少し恥ずかしそうに顔を赤くした。
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二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
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余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
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私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
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