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黒岩遥子

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 そうこうしている間に学校に到着する。校門をくぐり校舎へと向かう。
 祐樹のクラスは2年7組。奈緒のクラスは8組、隣の教室である。

 「何度も言うけど、浮気は駄目よ!」教室の前に到着すると奈緒は投げキッスを残して教室に姿を消した。どこまで本気なんだか・・・・・・。 

「はぁ・・・・・・ 」もう、本当にため息しか出てこない。
 祐樹が7組の教室に入ると同時に始業のチャイムが鳴った。
 ただ、チャイムが鳴ったからといって律儀に着席する生徒などいない。皆ふざけて遊んでいる。中には走り回る落ち着きの無い生徒がほとんどだ。
 しばらくすると教室の扉が開き、担任の松下が姿を現す。松下はサラリーマンのように髪型を七、三に分けている。オデコはかなり後退気味になっている。

「お前たち! 早く席に座れ!」松下は、教科書で教壇の上を叩いた。 
 祐樹の席は後ろから2番目の窓際である。天気の良い日は太陽の光が心地よく、勉強なんて出来る環境ではない。昨日の寝不足もあり大きな欠伸が出そうになるのを精一杯我慢した。

「今日は、時期外れではあるが転校生を紹介する。黒岩君入りなさい」松下が教室の入り口に皆は視線を送る。

「おお!」教室内の男子から歓声が上がる。
 教室に姿を現した転校生は、長い黒髪の美しい美少女であった。西高の制服を着用している。もちろん、奈緒が着ていた制服と同じものである。武闘派の奈緒とは違い清楚な姿であった。転校生は鞄を両手で前に持ち、ゆっくり教壇の松下の横に移動して来た。
 松下が黒板に置かれたチョークを握り、転校生の名前を書いた。

『黒岩瑤子』

「黒岩 瑤子です。皆さんヨロシクお願いします」黒岩という少女はペコリと頭を下げた。彼女の長い黒髪が前にたなびく。雪のように白い肌と大きな瞳、高い鼻と整った顔、まるで人形のように美しく整っており美少女と誰もが認める容姿であった。彼女が着用していると西高の制服がまるでアイドルの舞台衣装のように見える。

「ヒュー!ヒュー!」再び、男子生徒達から歓声が上がる。女生徒たちは少し冷ややかな表情で様子を窺っている。そんな様子を見ても黒岩 瑤子は笑顔を絶やさない。

「黒岩さん!彼氏は?」突然、手を上げて北が質問する。北は、いつもは大人しく、比較的クラスでも目立たない男だが、女関係の話になるとグイグイ前に出てくる。

「あっ、今はいません。募集中です」黒岩 瑤子は嫌な一つしないで返答をする。男子の歓声が更に大きくなる。

「好きな動物は!」同じくクラスメイトの北島が質問する。その質問にどんな意味があるんだと祐樹は思った。
「うーん、カエルさんかな・・・・・」

「おー!」男子の歓声が頂点に達する。意味が解らんと祐樹は首を傾げた。

「ちょっと、男子静かにしなさいよ!」クラス委員の若林女史が立ち上がった。いい加減ウンザリしている様子だ。一気に教室の中は静かになった。
黒岩 瑤子は気にも留めない様子で微笑み続けている。

「えーと、黒岩君の席は・・・・・・、そうだな、小松原!お前の隣、空いているな・・・・・・ 
」松下はいきなり祐樹の名前を呼びながら指を刺した。松下もさっきまでは男子と一緒にニコニコしていた事を祐樹は見逃していない。

「は、はい!」突然名前を呼ばれ驚いた。丁度、二度目の欠伸ウェーブを堪えていた直後の為、祐樹の顔は泣いているような顔になっていた。

「小松崎・・・・・・、そんなに泣くほど嬉しいのか、お前・・・・・・」松下が呆れたように言い放つ。

「えっ・・・・・・・、そんな・・・・・・ 」顔が真っ赤になった。
 祐樹の隣の席にいた生徒は、親の仕事の都合により先日、転校していったので空席となっていた。

「黒岩君、気持ち悪いだろうが、あそこの席を使いなさい」松下は今度は祐樹の隣を指差した。男子達は爆笑していたが、女子達の顔は更に冷ややかさを増していた。

「はい」天子のように微笑んで返事をしてから黒岩 瑤子は、ゆっくりと歩みでた。椅子に腰掛ける生徒達の間を彼女は歩いていく。その間も男子生徒はボーと彼女の歩く様子を眺めている。祐樹の席の前まで来ると立ち止まり、もう一度微笑を見せた。

「ヨロシクね! 」黒岩 瑤子は挨拶をした。初対面の人間にも、屈託の無い笑顔を彼女送くる。さすがに祐樹も可愛らしい子だなと少し緊張をした。

「ヨロシク・・・・・・ 」少し赤くなった顔を誤魔化しながら挨拶を返した。祐樹はどちらかというと、人見知りをしてしまう傾向がある。初対面で、更に黒岩 瑤子のような美少女と挨拶を交わすなど考えられないところだ。

「むー! 小松原ばかり、なぜ! 」男子達から槍のような視線攻撃を浴びる。朝の奈緒との様子を見て、ほぼ周りは祐樹と奈緒は交際していると思っている。奈緒も男子に人気があり、ファンも多いそうだ。そんな彼女がいながら、またしても小松原か! と男子達は思っているに違いなかった。

(今日は、大安吉日か・・・・・・、いや大凶か? )今日の祐樹はついているようだ。今時、大安吉日が頭に浮かぶ高校生も珍しい。

「小松原君・・・・・・ですよね?ごめんなさい。私、転校して来たばかりで教科書が無いの、一緒にみせてくれない?」黒岩 瑤子が申し訳なさそうにお願いしてきた。彼女が軽く首を傾げて可愛く微笑む仕草に祐樹は少し胸がキュンとなる。

「べっ、別にいいけど・・・・・・ 」不自然な位、自然を装って祐樹は返答をする。明らかに男子からの槍の勢いが激しくなることを感じた。
 黒岩瑤子は、躊躇せずに机を移動させて祐樹の机に密着させた。

「ありがとう」黒岩は、もう一度天使の笑顔を見せた。 
 教科書を開いて二人の間に置くと、自然に祐樹と黒岩瑤子との距離が近くなる。黒岩瑤子の肩が祐樹の肩に触れる。祐樹は肩に全神経を集中させる。 
 奈緒とは、違う女の子の甘い香りで頭がボーとなった。はっ鼻血が出そう・・・・・。

「御免ね、嫌だったら・・・・・・言ってね」彼女は軽くウインクを見せた。

「だ、大丈夫! 」嫌なわけ無いでしょうと祐樹は心の中で呟いた。緊張と高揚感で授業の内容は全く頭に入ってこなかった。

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