24 / 58
蛍
しおりを挟む
暗闇の中で俺の足が負傷してしまった事もあり、ひとまずこの場所で夜を明かして明るくなってからホテルに帰る事にする。闇雲に歩いても状況は改善しないと思ったからだった。
「ふー、結構疲れたね……」穂乃花は俺の隣に腰を据える。幸い季節は夏だったので、寒さを感じる事はなく寧ろホテルの部屋に居るよりは心地良い位であった。
「なんだかんだ言って結構歩いたからな」目的地が解らす歩き続ける事はかなりの苦痛であった。少しは足の裏も痛い。こんな山道を歩くのであればもう少し厚底の靴を掃いてくれば良かった。まあ、海に来て山道で迷うとは思っても見なかったのだが。
「ねぇ、あれは何かしら?」小川の流れるような音がする。その近くに小さな灯りが幾つも飛び交っている。
「蛍だ!」俺は少し興奮気味に呟く。あまり大きな声をだしたら居なくなってしまうような気がした。
「蛍?私、本物の蛍を見るの初めてかも!」穂乃花もかなりテンションが上がっている様子だ。
「この時期だと平家蛍かな?人があまり来そうにない場所だから穴場なのかも知れないな」蛍には、源氏と平家があって源氏を見れるのは7月頃までと聞いたことがある。
「すごく綺麗……」穂乃花は小川の近くで三角座りをした。その隣に俺も少し足を引きずりながらではあったが近づいて腰を降ろした。
「どうせなら、友伽里さんと見たかったんでしょう?」唐突に友伽里の名前が出てきて少し驚く。
「友伽里か……、きっとアイツはこういうのよりも食いもんのほうが好きだよ」兎に角、アイツが怒った時には食べ物を与えるのが最も効果的であることを長年の付き合いで俺は知っている。
「なにそれ可笑しい」クスクス笑う声が可愛い。
「お前……、いや、ほ、穂乃花さんの親父さんは役者さんなんだってな」会話を持たせようと話をふる。
「うん、そうだよ。結構有名なんだけどなぁ。私が生まれる前はトレンディドラマの主役もやっていたのよ」少しだけ自慢するように彼女は胸をはった。しかしトレンディドラマと言われても正直ピンとこなかった。蛍の光に照らされたその姿が少しだけ艶かしい。
「ト、トレンディって、よく解らないよ、俺はほとんどテレビを見ないからな」言いながら深夜アニメや漫画はよく見ている。
「でも、これでも結構大変なのよ。お母さんがいないからひなの面倒私が見たり……、まあ一応家政婦さんもいるんだけどね。長期の撮影があったりすると転校しないといけない事も多々あるし……」彼女は少しだけ悲しそうな顔をした。そこには俺達一般人では解らない苦労があるのかなと勝手に考えていた。
「この旅行の間、ひなちゃんは?」
「祖母が泊まり込みしてくれてるの。転校が多いのだから出来るだけ行事には参加して思い出を作りなさいって、パパが頼んでくれたから」膝を強く引寄せて唇を隠すようにしながら蛍を見つめている。
「ねえ、貴方の事を光君て呼んでも構わない?」突然の申し出に少しだけ体が宙に浮いたような気がする。
「え、まあ、構わないよ、みんなそう呼んでいるし……」冷静に考えれば、学校でも普通に光と呼ばれていたのだった。
「光君、貴方のご両親は?」
「ああ、父親は俺が小さい時に死んで顔も知らない。母親が一人で俺を育ててくれたんだ。よく云う母子家庭っやつだけど、きっと苦労したと思うよ」こんな時ではあるが本当に母親には感謝している。朝から夜まで働いて俺を育ててくれた。幸い隣に住む友伽里のお母さんと俺の母親が旧知の中であり、友伽里と纏めて俺の面倒もみてくれた。前にも言ったが俺にとっては母親が二人いるような感覚なのである。
「ふーん、凄いお母さんだね」感心してくれているようだ。
「でもさ、学生やりながら妹の面倒もって……」急に穂乃花の体の重みを感じる頭を俺の肩に乗せて眠っているようだ。
「えーと、ちょっとこれって……不味くないか……」彼女の髪が風に揺れて甘い香りが漂う。俺の鼻の穴は通常の三倍位大きくなっている事であろう。恐る恐る彼女の顔に視線を送る。
その顔に警戒心は全く無く、安らぎの表情であった。
「本当に疲れたんだな……」俺は疚《やま》しい考えを振り払い彼女の体を支え続けた。
辺りの光もゆっくりと消えていく。
蛍達の輪舞もそろそろ終了時間したようであった。
「ふー、結構疲れたね……」穂乃花は俺の隣に腰を据える。幸い季節は夏だったので、寒さを感じる事はなく寧ろホテルの部屋に居るよりは心地良い位であった。
「なんだかんだ言って結構歩いたからな」目的地が解らす歩き続ける事はかなりの苦痛であった。少しは足の裏も痛い。こんな山道を歩くのであればもう少し厚底の靴を掃いてくれば良かった。まあ、海に来て山道で迷うとは思っても見なかったのだが。
「ねぇ、あれは何かしら?」小川の流れるような音がする。その近くに小さな灯りが幾つも飛び交っている。
「蛍だ!」俺は少し興奮気味に呟く。あまり大きな声をだしたら居なくなってしまうような気がした。
「蛍?私、本物の蛍を見るの初めてかも!」穂乃花もかなりテンションが上がっている様子だ。
「この時期だと平家蛍かな?人があまり来そうにない場所だから穴場なのかも知れないな」蛍には、源氏と平家があって源氏を見れるのは7月頃までと聞いたことがある。
「すごく綺麗……」穂乃花は小川の近くで三角座りをした。その隣に俺も少し足を引きずりながらではあったが近づいて腰を降ろした。
「どうせなら、友伽里さんと見たかったんでしょう?」唐突に友伽里の名前が出てきて少し驚く。
「友伽里か……、きっとアイツはこういうのよりも食いもんのほうが好きだよ」兎に角、アイツが怒った時には食べ物を与えるのが最も効果的であることを長年の付き合いで俺は知っている。
「なにそれ可笑しい」クスクス笑う声が可愛い。
「お前……、いや、ほ、穂乃花さんの親父さんは役者さんなんだってな」会話を持たせようと話をふる。
「うん、そうだよ。結構有名なんだけどなぁ。私が生まれる前はトレンディドラマの主役もやっていたのよ」少しだけ自慢するように彼女は胸をはった。しかしトレンディドラマと言われても正直ピンとこなかった。蛍の光に照らされたその姿が少しだけ艶かしい。
「ト、トレンディって、よく解らないよ、俺はほとんどテレビを見ないからな」言いながら深夜アニメや漫画はよく見ている。
「でも、これでも結構大変なのよ。お母さんがいないからひなの面倒私が見たり……、まあ一応家政婦さんもいるんだけどね。長期の撮影があったりすると転校しないといけない事も多々あるし……」彼女は少しだけ悲しそうな顔をした。そこには俺達一般人では解らない苦労があるのかなと勝手に考えていた。
「この旅行の間、ひなちゃんは?」
「祖母が泊まり込みしてくれてるの。転校が多いのだから出来るだけ行事には参加して思い出を作りなさいって、パパが頼んでくれたから」膝を強く引寄せて唇を隠すようにしながら蛍を見つめている。
「ねえ、貴方の事を光君て呼んでも構わない?」突然の申し出に少しだけ体が宙に浮いたような気がする。
「え、まあ、構わないよ、みんなそう呼んでいるし……」冷静に考えれば、学校でも普通に光と呼ばれていたのだった。
「光君、貴方のご両親は?」
「ああ、父親は俺が小さい時に死んで顔も知らない。母親が一人で俺を育ててくれたんだ。よく云う母子家庭っやつだけど、きっと苦労したと思うよ」こんな時ではあるが本当に母親には感謝している。朝から夜まで働いて俺を育ててくれた。幸い隣に住む友伽里のお母さんと俺の母親が旧知の中であり、友伽里と纏めて俺の面倒もみてくれた。前にも言ったが俺にとっては母親が二人いるような感覚なのである。
「ふーん、凄いお母さんだね」感心してくれているようだ。
「でもさ、学生やりながら妹の面倒もって……」急に穂乃花の体の重みを感じる頭を俺の肩に乗せて眠っているようだ。
「えーと、ちょっとこれって……不味くないか……」彼女の髪が風に揺れて甘い香りが漂う。俺の鼻の穴は通常の三倍位大きくなっている事であろう。恐る恐る彼女の顔に視線を送る。
その顔に警戒心は全く無く、安らぎの表情であった。
「本当に疲れたんだな……」俺は疚《やま》しい考えを振り払い彼女の体を支え続けた。
辺りの光もゆっくりと消えていく。
蛍達の輪舞もそろそろ終了時間したようであった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
【完結】俺のセフレが幼なじみなんですが?
おもち
恋愛
アプリで知り合った女の子。初対面の彼女は予想より断然可愛かった。事前に取り決めていたとおり、2人は恋愛NGの都合の良い関係(セフレ)になる。何回か関係を続け、ある日、彼女の家まで送ると……、その家は、見覚えのある家だった。
『え、ここ、幼馴染の家なんだけど……?』
※他サイトでも投稿しています。2サイト計60万PV作品です。
義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる