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悪 戯

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 ホテルのロビーの中を友伽里が何度も往復している。

「ちょっと光君達遅すぎない・・・・・・」彼女は桂川の顔を見て呟く。

「そうね、遅いわね」胆試しのペアは15組であった。光達が14番目、友伽里が15番目である。光と穂乃果がホテルを出て、二時間ほどの時間がすでに経過していた。壁に掛かった時計の時間は既に十二時を過ぎていた。他の生徒達はもう眠くなったのか部屋に戻っていた。
 ロビーに残っているのは、友伽里と桂川、堂島そして数人の委員だけであった。

「なにかあったのかしら・・・・・・」友伽里は親指の爪を噛みながら、イライラしている様子であった。
 皆が腰掛けるソファーの端に堂島が暗い顔をして落ち込んでいる様子であった。

「堂島くん、部屋に戻っていいよ。後は私達で待っているから」桂川が優しい言葉をかける。友伽里と一緒に肝試しに行く予定であった男子もすでに部屋に戻っていた。

「・・・・・・・」堂島は無言のまま、下を向いたままであった。

「もう、用の無い人はさっさと部屋に戻りなさいよ!」友伽里が激しい口調で、堂島を攻撃する。堂島は今にも泣きそうな顔になっていた。

「なにかあったの?」今度は桂川の優しい声が堂島の心を包み込む。

「う、うわーん」彼は顔を覆おおいながら突然大きな声で嗚咽おえつを漏らす。

「な、なんなのよ!一体!」驚きのあまり友伽里はソファーから飛び上がった。

「お、俺の・・・・・・・、俺のせいだ・・・・・・・、俺のせいなんだ」堂島は同じ言葉を繰り返す。

「なにを言っているのよ、本当にうっとおしい」友伽里の失辣しつらつな言葉が堂島に浴びせられる。桂川達も日頃から感じてはいたが、彼女の光ひかり以外の男子に発せられる言葉は、結構酷い時がある。正直、桂川もそれで引いてしまう時があるくらいだ。

「堂島君、言いたいことがあるなら言ってみて」桂川の言葉が輪をかけて優しく聞こえる。

「俺、悪戯いたずらのつもりで、道の途中にあったホワイトボードの矢印を反対にしたんだ。きっと、光達、それで道に迷って・・・・・・・」堂島は大泣きしている。

「あーん!今、何って言った?もう一度言ってみろ!」友伽里が、堂島の襟首えりくびを両手で掴つかみ持ち上げた。今にも顔面でも殴りそうな勢いであった。

「ちょっと、友伽里!やめなさい!」桂川が友伽里の手を堂島の首から引き離して、彼女の身体を突き飛ばした。友伽里はそのまま、ソファーに受け止められる形で座り込んだ。

「だって、だって・・・・・・、みんな光、光って、光の事ばっかりじゃんか!それで、ちょっと困らせてやろうと思って・・・・・・」相変わらずグスグスと泣いている。それを見ている友伽里の顔が鬼のような形相になっている。

「あんた達が、くじ引きなんてやろうって言うからこんなことになるのよ!」友伽里の怒りの矛先が、他の委員達にも飛び火する。その言葉を聞いて、泣き出しそうになっている女子の委員もいた。

「ちょっと、友伽里……。その言い方はないんじゃないの。それとこれとは話が別
よ」桂川が諭すように言う。しかし友伽里の怒りは収まらない様子であった。

「お、俺が探しに行くよ」堂島はソファーから立ち上がり飛び出そうとする。

「駄目よ、そんな事をしては、堂島君も帰って来れなくなったら困るわ。ひとまず、皆は部屋に戻って、友伽里と堺君、私と一緒に胆試しのコースを確認に行きましょう。あと、霧島さん。様子をみて警察にも連絡して。行くわよ」堺は委員会で光と二人だけの男子で、空手をやっている屈強な男であった。桂川は大型の懐中電灯を持ち上げると先陣を切って飛び出していく。

 その後を、友伽里と堺が同行していった。
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