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03-08 訓練代(四)**

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 そこには心底嬉しそうに笑う男の顔があった。


「……ははっ、最高だぜ、姫様!」
「んやっ、あんっ」
「やっぱあんたは、そうでないと……っ、眩しい、目が、潰れそうだ……」


 貪るように唇を這わせ、息の仕方を忘れるほどに舌を絡ませ合う。熱く燃えるような吐息が混ざって、肌が更に上気していく。
 ぱちゅぱちゅと激しい音を立てて、最後の交わりを味わい尽くす。お互いただ言葉もなく喘いで、身体の内から滲み出てくる快楽に身を任せた。


「あぁ、はぁあっ……!」
「うっ……、は、……ふ……」


 強く抱きしめ合って残存する絶頂の快楽に浸る。彼によって吐き出された精は繋がった場所から溢れ出してきて、その処理を考えてヘニルは再度息を吐いた。

 そこでコンコンと扉を叩く音がする。人が来たと身体を硬らせるセーリスの背を撫でながら、すぐさまヘニルが声だけで応対する。


「申し訳ありませんが、そろそろ閉店時間です」
「はいはーい、すぐ出ますんで」


 足音が遠ざかっていくのを聞き、彼女は安堵したようにため息をつく。


「姫様、一緒に宿で寝ますか? そっちの方が早く休めますよ」


 暗に続きを、というヘニルにすかさずセーリスは言う。


「戻る。部屋まで、誰にも見つからずに運んで」


 横暴にも思える物言いに、けれどヘニルは小さく笑う。


「仰せのままに、姫様」







 翌朝。

 飲酒による頭痛、激しい性行為による腰をはじめとした様々な部位の痛み、枯れかけた喉。自室で目が覚めたセーリスは最低の気分だった。

 あの後、後処理まで起きていればとんでもない時間になって、大して眠れてもいない。今日は仕事を休ませてもらおうかとも思ったが、万が一デルメルが何か理由をつけてヘニルの元へ行くこともあり得る。そのため、痛む身体に鞭打ちながら、彼女の執務室へと向かった。

 そして案の定心配された。


「顔色が悪いわ。寝不足……?」
「え、えぇ、まぁ……」


 掠れた声にデルメルの眉がぴくりと動く。それに何か悟られたかと思い、セーリスは冷や汗を流す。
 すんすんと鼻を寄せ、怒ったようにデルメルは眉を寄せた。


「セーリス、貴方飲酒したでしょう」
「うっ」
「人間はアルコールに依存しやすいから、十八まで飲んではダメと言ったはずよ」
「ごめんなさい……」


 これは厳しく叱られる、と思いきや、勢いを無くしデルメルは悲しげに目を伏せた。


「何か、辛いことでもあったの? 私だったらいつでも話を聞くわ」


 彼女にそんな顔をさせてしまったと思えば罪悪感が生じて、セーリスは困り果てる。決して嫌なことがあって飲んだわけではないのだ。ヘニルに飲まされただけで。
 思えば寝不足と身体の痛みによる苛立ちはあるものの、不思議と心はすっきりとしていた。もしかしたらずっと溜め込んでいた愚痴を彼に垂れ流したからか。


「(でもやっぱ軽蔑、されたよなアレ……)」
「無理をしてはダメよ、セーリス」


 よしよしとデルメルに頭を撫でられながら彼女は昨夜のこと、特に会話を思い出す。が、愚痴を吐き出したというところまででもおぼろげにしか思い出せない。それ以降はまっさらだ。
 まぁ、ヘニルと一緒だったのだからどうせヤってただけなのだろうと、そう結論付ける。

 そうこうしていると執務室に再度カアスが現れる。


「今朝はどうだったの?」
「それがだな」


 頭を掻いて、カアスは変わらぬ無表情で言う。


「……真面目に槍を振い始めた。姉様の投石を既に頭に打ち込まれたかと思うくらいの変わり方だ」
「ふぅん……まぁ、あの男のことだし、そろそろ不味いとでも思ったのかもしれないわね」


 様子を見ましょう、と言うなり椅子に座るデルメルに、セーリスは安堵したように息をつく。

 なんとかデルメルとの衝突は回避できた。
 だがその代償は、なかなかに大きかった気がした。




03 まじめに訓練をする代 了
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