6 / 120
01-06 彼女の生きる理由
しおりを挟む
あれから一週間が経った。
逃げたならばどんな手を使ってでも追いかけるとそう宣ったセーリスだったが、いざ逃げられたと知った今となっては既に彼女に行動するという気力など無くなっていた。
一人で勝手に焦って、いいように騙されて、身体まで差し出してしまったその徒労感と悲しさは、彼女の心を折る最後の一撃となってしまったのだ。
唯一事情を知るサーシィと、彼女をいつも案じてくれる宮宰のデルメルも、落ち込み塞ぎ込んだ彼女に優しく接し励ましてくれた。だが言い換えれば、既に彼女を気にかける者などこの二人しか居なくなっていたのだ。
「わたし……ほんと、なんのために、生まれてきたんだろう……」
部屋に閉じこもって、膝を抱えた彼女はひっそりと涙を零す。心の中でずっと、出来損ないと自分を罵りながら。
あの男を、ヘニルを恨む気にもなれなかった。なぜなら彼自身、暗に自分など信用するなと言っていたのだから。
「もう……このまま死のう、生きてたって、意味なんて……」
暗く沈んでいく彼女に釣り合わない晴天。この窓も塞いでしまおうとカーテンに手を伸ばした。
その時だった。
「たのもー!!」
城中どころか国中に響き渡っているのではないかと思うような大声が飛び込んでくる。その声に覚えのあったセーリスは思わず部屋の窓を開け放った。
「我こそは、原初の神族ウラノスの子、ヘニル!」
声は城門の方から聞こえてくる。ざわざわと、下にいる兵士や臣下たちのざわめきも微かに耳に届いてきた。
落ちないように窓から身を乗り出せば、ギリギリ城門の方が見える。目を凝らせば門の上に誰か立っている。
覚えのある乳白色の髪。その手には無骨な槍を手にしている。人によってはその姿は敵襲に見えたかもしれない。
「俺は第二王女の美しさが気に入った! これより我が力、王国に預けるとする!」
なぜ、そう思った。適当に生きているからと、縛られるのは御免だと言って、どこかへ行ってしまったのではなかったのか。
「姫さま……!」
慌てた様子でサーシィが部屋に入ってくる。その目には涙が浮かんでいて、ようやく訪れた待ち人を主人に伝えようとしていた。
「ヘニル……、約束、守って……」
「デルメルー! はやく出て来ーい!!」
その呼びかけにセーリスはさっと顔を青くする。これから仕官するというのに、上司になるであろう宮宰を呼び捨てにする阿呆がいるだろうか。
「あんのバカー!」
サーシィに目配せし、彼女は部屋を飛び出した。
その日から彼女の生活は大きく変化していくこととなった。
01 仕官代 了
逃げたならばどんな手を使ってでも追いかけるとそう宣ったセーリスだったが、いざ逃げられたと知った今となっては既に彼女に行動するという気力など無くなっていた。
一人で勝手に焦って、いいように騙されて、身体まで差し出してしまったその徒労感と悲しさは、彼女の心を折る最後の一撃となってしまったのだ。
唯一事情を知るサーシィと、彼女をいつも案じてくれる宮宰のデルメルも、落ち込み塞ぎ込んだ彼女に優しく接し励ましてくれた。だが言い換えれば、既に彼女を気にかける者などこの二人しか居なくなっていたのだ。
「わたし……ほんと、なんのために、生まれてきたんだろう……」
部屋に閉じこもって、膝を抱えた彼女はひっそりと涙を零す。心の中でずっと、出来損ないと自分を罵りながら。
あの男を、ヘニルを恨む気にもなれなかった。なぜなら彼自身、暗に自分など信用するなと言っていたのだから。
「もう……このまま死のう、生きてたって、意味なんて……」
暗く沈んでいく彼女に釣り合わない晴天。この窓も塞いでしまおうとカーテンに手を伸ばした。
その時だった。
「たのもー!!」
城中どころか国中に響き渡っているのではないかと思うような大声が飛び込んでくる。その声に覚えのあったセーリスは思わず部屋の窓を開け放った。
「我こそは、原初の神族ウラノスの子、ヘニル!」
声は城門の方から聞こえてくる。ざわざわと、下にいる兵士や臣下たちのざわめきも微かに耳に届いてきた。
落ちないように窓から身を乗り出せば、ギリギリ城門の方が見える。目を凝らせば門の上に誰か立っている。
覚えのある乳白色の髪。その手には無骨な槍を手にしている。人によってはその姿は敵襲に見えたかもしれない。
「俺は第二王女の美しさが気に入った! これより我が力、王国に預けるとする!」
なぜ、そう思った。適当に生きているからと、縛られるのは御免だと言って、どこかへ行ってしまったのではなかったのか。
「姫さま……!」
慌てた様子でサーシィが部屋に入ってくる。その目には涙が浮かんでいて、ようやく訪れた待ち人を主人に伝えようとしていた。
「ヘニル……、約束、守って……」
「デルメルー! はやく出て来ーい!!」
その呼びかけにセーリスはさっと顔を青くする。これから仕官するというのに、上司になるであろう宮宰を呼び捨てにする阿呆がいるだろうか。
「あんのバカー!」
サーシィに目配せし、彼女は部屋を飛び出した。
その日から彼女の生活は大きく変化していくこととなった。
01 仕官代 了
0
お気に入りに追加
380
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寵愛のテベル
春咲 司
恋愛
世界に寿命があることを、そこで生きる人々は知らない。たった一人を除いては。
舞台は六年前の大戦を境に、様々な天災に見舞われるようになったクライネ王国。
第二王女ハーミヤは、世にも珍しい容姿をした美しい騎士ルドルフと出会う。
徐々にルドルフに惹かれるハーミヤ。しかしルドルフは自らを罪人だと言って、彼女に近づきすぎることを厭う。
彼の犯した罪。それは世界さえも壊してしまうたった一つの愛だった。
ねえ、私の本性を暴いてよ♡ オナニークラブで働く女子大生
花野りら
恋愛
オナニークラブとは、個室で男性客のオナニーを見てあげたり手コキする風俗店のひとつ。
女子大生がエッチなアルバイトをしているという背徳感!
イケナイことをしている羞恥プレイからの過激なセックスシーンは必読♡
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
[R18] 18禁ゲームの世界に御招待! 王子とヤらなきゃゲームが進まない。そんなのお断りします。
ピエール
恋愛
R18 がっつりエロです。ご注意下さい
えーー!!
転生したら、いきなり推しと リアルセッ○スの真っ最中!!!
ここって、もしかしたら???
18禁PCゲーム ラブキャッスル[愛と欲望の宮廷]の世界
私って悪役令嬢のカトリーヌに転生しちゃってるの???
カトリーヌって•••、あの、淫乱の•••
マズイ、非常にマズイ、貞操の危機だ!!!
私、確か、彼氏とドライブ中に事故に遭い••••
異世界転生って事は、絶対彼氏も転生しているはず!
だって[ラノベ]ではそれがお約束!
彼を探して、一緒に こんな世界から逃げ出してやる!
カトリーヌの身体に、男達のイヤラシイ魔の手が伸びる。
果たして、主人公は、数々のエロイベントを乗り切る事が出来るのか?
ゲームはエンディングを迎える事が出来るのか?
そして、彼氏の行方は•••
攻略対象別 オムニバスエロです。
完結しておりますので最後までお楽しみいただけます。
(攻略対象に変態もいます。ご注意下さい)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる