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07 真相解明!
4 解き明かして
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頭の中をぐるぐると回る、言葉たち。それは全部、あの綺麗な宝石の目を持った人が、私に言ったものだった。
「君は……とても不思議な子だね。有りもしない罪過をさも自分のもののように考えている」
そう言った後に彼は、私のこの呪いのようなものは直せるといった。それがどういうものなのかまでは教えてもらえなかったけど、今ならなんとなく、推測できる。
そう、私は思い込んでいた。そして自分に自信がなかった。致命的なまでに。
「僕と、“恋人ごっこ”をしよう」
「じゃあ……これからよろしくね、僕の“アリス”」
恋人ごっこは、呪いを解くために彼が提案した代償だ。でもそれは、ただ彼が私と仲良くなりたかったから、という理由だけでは説明しきれない。何か別の理由がある気がする。
「それでも、二人っきりのときは僕の恋人でいてね、アリス」
彼といるとき、私はアリシェールじゃなくて、アリスになる。
それは、ありのままの私。素直でいて欲しいと何度も彼が口にしたように、私はなるべく飾ることなく、先生と接しようとした。
それがいつしか、当たり前になっていった。ロサリアに対しても、フェルナン様に対しても。堅苦しくてぎこちなく愛想笑いを浮かべていたアリシェールは、いつしか私になった。
アリスに、なったんだ。
「……ありす」
目を開ければ、見慣れない天井があった。
「アリシェール、目が覚めたか」
すぐに顔を覗き込んできたのは先生、ではなくて、フェルナン様だった。
私はどうして、寝ているんだろう。柔らかいものの上にいる感触がするので、多分ベッドの中だ。寮の天井じゃないため、医務室だと思う。
「大丈夫か」
「フェルナンさま……私、どうして」
「覚えていないのか。……ロサリアに紅茶をふっかけて、それで倒れたんだ」
そういえば、そうだった。ロサリアの姿が見えないけど、怪我とかはしなかっただろうかと心配になる。
「紅茶も冷めていたからな、火傷なんかはしなかった。ロサリアも君のことを心配していたよ」
優しい声でフェルナン様は言うと、私の手をとった。彼の表情も、私を心配している、という様子だった。
「兄上が寮まで送ってくれた。だからもう、ここには居ない」
「そう、ですか……」
謝罪がしたかったけれど、それは明日できる、と思う。楽しいはずの談笑を台無しにしてしまったのだ、クレイン兄上にも謝っておきたい。
「体調はどうだ。頭を打ったりはしていないと思うんだが」
「ええ、大丈夫そうです」
そう言って身体を起こしてみる。特に怠さや痛みなどはない。倒れたのは何だろうか、一時的なショック、みたいな感じかもしれない。まさかあんなところで起こるとは思っていなかった。
「一応先生にも診てもらったんだが、大事をとって寮に戻ったら医者を手配しよう。君に何かあったら大変だ」
フェルナン様の手が私の頬を撫でる。なんだか、普通に恥ずかしい。大事にするという言葉はちゃんと有言実行されているみたいだけど、くすぐったくて落ち着かない。
しばらく無言でフェルナン様の温度を感じていると、おずおずと彼は話し始めた。
「その、学園長先生にも、来てもらったんだ」
それはきっと、今回も妖精が悪さをしたのだからと、ロサリアが言ったせいかもしれない。
この部屋に先生がいた。そう思うと、なんとも恋しい気持ちになる。何て言ったのかな。
「何か君に魔法をかけて、これで大丈夫だと言っていたけど……あの人は本当に信用できるのか?」
「あはは……」
怪しいのは間違いないです。どうせフェルナン様が詳細を聞いたとしても、それっぽいことを言って誤魔化しただろうし。
それに、妖精の仕業なんていうものは程のいい嘘だった。それは、今の私にも分かる。
この現象は多分妖精の仕業なんかじゃない。そして、呪いなんてものでもない、と思う。でもそうなのだとしても、先生の言動のについてところどころ疑問が残る。
「先生は確かに、ちょっと胡散臭い感じがしますけど……でも、優しい人ですよ」
「……そうか」
少しむっとしながらフェルナン様は呟く。もしかして、嫉妬ですか。
「本当に仲がいいんだな」
「仲がいいというか、恩人というか」
大魔法使いだし。
「妖精の件は……どうにかしたいが常人には見えないらしいし、学園長先生くらいしか対処できないのがな。卒業後はどうしたものか」
「そう、ですね」
妖精さんが目に見えないのは初耳だった。それが本当だとしたら、妖精の仕業だという方便を使ったのは理にかなっている、気がする。でも見える人もいるんだったら、そして学園にもそんな人がいたら、ちょっと不味いのでは。これは先生にちゃんと聞いておこう。
「だが、僕だってちゃんと勉強する。先生に頼らずとも、僕がなんとかしてみせる」
手を取って、じっとフェルナン様は私を見つめてくる。そういうところは相変わらず、大真面目すぎる。もしかして今までも、ハッター先生に負けないようにと頑張って勉強してたりするのかな。
「はい、ありがとうございます、フェルナン様」
お礼を口にすれば、フェルナン様のお顔がじわりと赤くなる。なんだかちょっといい雰囲気になりそうだ。
けれど、その前に私はやらないといけないことがある。正確には、先生に聞かないといけないことが。
「フェルナン様、私少し、学園長先生とお話ししてきます」
案の定、フェルナン様は嫌そうな顔をする。けれど最近はそういう素振りを見ていないせいか、前のような注意みたいなものはなかった。
「妖精のことか」
「はい、妖精さんのことです。多分、すぐ終わると思うので」
「分かった」
それまで待っていると、フェルナン様は言ってくれる。
先生と話がしたいのは、あくまで確認のためだった。私にかかった呪いのようなものが何なのか、そしてそれを先生がどうやって解こうとしてくれていたのかを。
けれどそれが明らかになったときを考えたら、少し怖かった。
――普通に考えたら、王子様と結ばれるのがハッピーエンドなんだから
先生のこの言葉を聞いたときのように、もしかしたら全てが、壊れてしまうかもしれなかった。
「君は……とても不思議な子だね。有りもしない罪過をさも自分のもののように考えている」
そう言った後に彼は、私のこの呪いのようなものは直せるといった。それがどういうものなのかまでは教えてもらえなかったけど、今ならなんとなく、推測できる。
そう、私は思い込んでいた。そして自分に自信がなかった。致命的なまでに。
「僕と、“恋人ごっこ”をしよう」
「じゃあ……これからよろしくね、僕の“アリス”」
恋人ごっこは、呪いを解くために彼が提案した代償だ。でもそれは、ただ彼が私と仲良くなりたかったから、という理由だけでは説明しきれない。何か別の理由がある気がする。
「それでも、二人っきりのときは僕の恋人でいてね、アリス」
彼といるとき、私はアリシェールじゃなくて、アリスになる。
それは、ありのままの私。素直でいて欲しいと何度も彼が口にしたように、私はなるべく飾ることなく、先生と接しようとした。
それがいつしか、当たり前になっていった。ロサリアに対しても、フェルナン様に対しても。堅苦しくてぎこちなく愛想笑いを浮かべていたアリシェールは、いつしか私になった。
アリスに、なったんだ。
「……ありす」
目を開ければ、見慣れない天井があった。
「アリシェール、目が覚めたか」
すぐに顔を覗き込んできたのは先生、ではなくて、フェルナン様だった。
私はどうして、寝ているんだろう。柔らかいものの上にいる感触がするので、多分ベッドの中だ。寮の天井じゃないため、医務室だと思う。
「大丈夫か」
「フェルナンさま……私、どうして」
「覚えていないのか。……ロサリアに紅茶をふっかけて、それで倒れたんだ」
そういえば、そうだった。ロサリアの姿が見えないけど、怪我とかはしなかっただろうかと心配になる。
「紅茶も冷めていたからな、火傷なんかはしなかった。ロサリアも君のことを心配していたよ」
優しい声でフェルナン様は言うと、私の手をとった。彼の表情も、私を心配している、という様子だった。
「兄上が寮まで送ってくれた。だからもう、ここには居ない」
「そう、ですか……」
謝罪がしたかったけれど、それは明日できる、と思う。楽しいはずの談笑を台無しにしてしまったのだ、クレイン兄上にも謝っておきたい。
「体調はどうだ。頭を打ったりはしていないと思うんだが」
「ええ、大丈夫そうです」
そう言って身体を起こしてみる。特に怠さや痛みなどはない。倒れたのは何だろうか、一時的なショック、みたいな感じかもしれない。まさかあんなところで起こるとは思っていなかった。
「一応先生にも診てもらったんだが、大事をとって寮に戻ったら医者を手配しよう。君に何かあったら大変だ」
フェルナン様の手が私の頬を撫でる。なんだか、普通に恥ずかしい。大事にするという言葉はちゃんと有言実行されているみたいだけど、くすぐったくて落ち着かない。
しばらく無言でフェルナン様の温度を感じていると、おずおずと彼は話し始めた。
「その、学園長先生にも、来てもらったんだ」
それはきっと、今回も妖精が悪さをしたのだからと、ロサリアが言ったせいかもしれない。
この部屋に先生がいた。そう思うと、なんとも恋しい気持ちになる。何て言ったのかな。
「何か君に魔法をかけて、これで大丈夫だと言っていたけど……あの人は本当に信用できるのか?」
「あはは……」
怪しいのは間違いないです。どうせフェルナン様が詳細を聞いたとしても、それっぽいことを言って誤魔化しただろうし。
それに、妖精の仕業なんていうものは程のいい嘘だった。それは、今の私にも分かる。
この現象は多分妖精の仕業なんかじゃない。そして、呪いなんてものでもない、と思う。でもそうなのだとしても、先生の言動のについてところどころ疑問が残る。
「先生は確かに、ちょっと胡散臭い感じがしますけど……でも、優しい人ですよ」
「……そうか」
少しむっとしながらフェルナン様は呟く。もしかして、嫉妬ですか。
「本当に仲がいいんだな」
「仲がいいというか、恩人というか」
大魔法使いだし。
「妖精の件は……どうにかしたいが常人には見えないらしいし、学園長先生くらいしか対処できないのがな。卒業後はどうしたものか」
「そう、ですね」
妖精さんが目に見えないのは初耳だった。それが本当だとしたら、妖精の仕業だという方便を使ったのは理にかなっている、気がする。でも見える人もいるんだったら、そして学園にもそんな人がいたら、ちょっと不味いのでは。これは先生にちゃんと聞いておこう。
「だが、僕だってちゃんと勉強する。先生に頼らずとも、僕がなんとかしてみせる」
手を取って、じっとフェルナン様は私を見つめてくる。そういうところは相変わらず、大真面目すぎる。もしかして今までも、ハッター先生に負けないようにと頑張って勉強してたりするのかな。
「はい、ありがとうございます、フェルナン様」
お礼を口にすれば、フェルナン様のお顔がじわりと赤くなる。なんだかちょっといい雰囲気になりそうだ。
けれど、その前に私はやらないといけないことがある。正確には、先生に聞かないといけないことが。
「フェルナン様、私少し、学園長先生とお話ししてきます」
案の定、フェルナン様は嫌そうな顔をする。けれど最近はそういう素振りを見ていないせいか、前のような注意みたいなものはなかった。
「妖精のことか」
「はい、妖精さんのことです。多分、すぐ終わると思うので」
「分かった」
それまで待っていると、フェルナン様は言ってくれる。
先生と話がしたいのは、あくまで確認のためだった。私にかかった呪いのようなものが何なのか、そしてそれを先生がどうやって解こうとしてくれていたのかを。
けれどそれが明らかになったときを考えたら、少し怖かった。
――普通に考えたら、王子様と結ばれるのがハッピーエンドなんだから
先生のこの言葉を聞いたときのように、もしかしたら全てが、壊れてしまうかもしれなかった。
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