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07 真相解明!

3 悪夢再び?

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 闇を感じさせるイケメン。いつもはニコニコ笑っているんだけど、きっとその裏にはいろんな感情が隠れているんだろうなって、そういう感じのキャラクター。ハッター先生は、まさにそんな人だった、ということが分かった。
 寂しささえも分からない先生から離れてしまうなんて、私にはできなかった。こういうのを優柔不断って言うんだろうけど、それでも、あんな目で見つめられて、あんな話をされて、はぁそうですかって割り切れる人の方が少ないと思う!

 などと言い訳をしながら、先生との時間は続いていった。

 フェルナン様に怪しまれないようにと先生は気を遣ってくれて、放課後になった瞬間、いつもの日常が時を止める。そこからお茶会をひとしきり楽しんだ後、私はいつもの時間に戻る。
 なんだか不思議な感覚だった。先生は狂った時間と呼んでいたけれど、まさにそんな感じ。

 一日は二十四時間。それ以上の時間を起きているせいか、お茶会をした日はいつもより疲れるし眠くなる。そう考えると、本当に私と先生の時間だけ止まってないんだなって思ったり。
 ただ時間を止める魔法というのは相応に消耗するらしくて、以前よりお茶会の回数は減った。その不足分を補うように、一回のお茶会の密度が増したような気がするけど。

 触れる手と手。絡まる指の感触は、それだけで身体を熱くする。じっと見つめてくる宝石の瞳は、いつ見たって綺麗で、惚けてしまいそうになる。優しい微笑みも、穏やかな物腰も、いつだって目の前にあって。そして一番心地よいのは。


 “アリス”


「アリシェール、またぼーっとしているぞ、君」
「はっ!」


 もう何度目かもわからないこのやりとり。もしかして私、既に痴呆が進んでいる?


「す、すいません。今日はぽかぽかしてあったかいな~って」
「寝不足なのか? 君の名前はアリシェールだ、忘れないでくれよ」
「はい、もちろんです」


 いや、普通に忘れかけてましたけどね。


「自分の名前を忘れるなんて、アリシェールはすごいですね」
「それ褒めてます……?」


 クレイン兄上から、褒めてるんだか貶してるんだかよく分からないお言葉を頂いた。
 でもアリスって響きは、やっぱり女の子としては憧れの名前じゃないでしょうか。超有名な小説の主人公だし、なにより字面も音も可愛い。それをぱっと思いついたハッター先生はなんだろう、センスがいいのかもしれない。この世界にはあの小説ないし。


「なんの話をしていたかは覚えているか?」
「え? えーっと……」


 すいません、全然話を聞いていませんでした。
 今は放課後。今日はお茶会のない日のため、普通に学園のお庭でのんびり談笑中だった。ちなみになぜかクレイン兄上とロサリアもいる。


「そろそろ創立記念日のパーティーですねって、そうお話ししてたんですよ」


 ロサリアちゃんが助け舟を出してくれる。そういえばそうだった。
 そう、気がつけばもうそんな時期だ。本来であれば、私の全てが終わる日。そしてヒロインが邪魔者のいなくなった世界で、急速に恋愛を発展させるきっかけになるイベント。

 といってもこの様子じゃ、何事もなく終わる、気がする。だってフェルナン様との仲は良好だし、ロサリアとも、ついでにクレイン兄上とも仲良くなってしまったわけでして。破滅する理由がない。
 強いていえばハッター先生との関係が明るみになると……という話も、先日の件で完全に消えてしまっていた。


「(このままだと順当に、卒業後はフェルナン様と結婚して……)」


 卒業すればさすがに、先生とも軽率に会えなくなる。また手紙のやりとりでもしようか。
 それに、ロサリアに対する謎の事故さえ起きなくなれば、先生との契約も終わってしまう。ロサリアが結局クレイン兄上とどうなるかによっては、卒業後も関わり合うことがありそうなんだけど……卒業したらさすがに会う機会もぐんと減るし。


「(でも、“僕の側を離れたら呪いは解けない”だもんなぁ……)」


 その辺はどうなんだろう。というか、ここまで来ると本当にどういう仕組みなのかが気になる。
 本当に呪い? 誰かが私に、そんな呪いをかけたというの? まるで、王から招待状を貰えなかった魔女が姫に死の呪いを与えるかのように。うちのお父様たち、やらかしていないかしら。

 でも呪いだったら、先生くらいの魔法の使い手にかかれば一瞬で解けそうな気がする。先生が一緒にいることが解ける要因になるって、つまりどういうこと?


「アリシェール様?」
「あっ、ごめんなさい、少し考え事を……パーティーのドレスを、決めていなかったもので」
「それは、とても悩みますね。でもきっと、アリシェール様でしたら何でもお似合いになるかと!」


 ぱっと笑みを浮かべるロサリアは、相変わらずザ・ヒロインって感じの風格だ。
 この学園に入った当初は、こんな良い子を不本意とはいえいじめていたと思うと、胸が潰れそうだ。
 そう、あの頃は必死だった。私は悪役令嬢で、ヒロインをいじめて断罪されるまでがセットなんだ。だからそれを避けなければと――

 そこでぐらりと、身体が動いた。


「きゃっ」


 ばしゃっと音を立てて、隣にいたロサリアに赤褐色の液体がふっかけられる。
 違う、それは、私がかけたのだ。手に持っていたティーカップの中身を、彼女に思いっきりぶちまけていた。


「アリシェール……?」


 私は思わず席を立った。手を離して落ちたカップが、地面に落ちて甲高い音と共に砕ける。
 ぐらりと視界が揺れた。心配と不安が入り混じった視線を受けながら、私は思った。ああ、また起こってしまったと。

 けれどその原因が、今度は分かったような気がした。
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