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06 恋争奪戦!
2 バレてますよ
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自習の時間は至って普通に始まった。
フェルナン様は根っからの大真面目なため、さすがに学園の施設内でスキンシップをとってくることはない。そう考えるとハッター先生は……学園長室のみ無法地帯という認識でいいでしょう。
それにしても。
「(フェルナン様に勉強教えてもらえるなんて……はぁー、夢に見たシチュエーション! 幸福感すごい……)」
フェルナン様はクレイン兄上より勉強ができる。表向きは。
でもゲームのフェルナン様ルートでは、クレイン兄上が弟をたてるために勉強でも武術でも本気を出さない、なんていう話が出てくる。実際に公式でも兄上は天才設定なのだ。それにフェルナン様は不満を抱いている、みたいな関係性だったりする。
そこをヒロインが「舐めた真似してんじゃねーぞ」と一発ぶちかまし、二人の仲を取り持つというイベントがあるのだ。
そのときのフェルナン様は全力の兄上相手でも負けないと、まるでライバルのような宣言をする。それによって少しギクシャクしていた兄弟間はより良いものに、という胸温まるエピソードが終盤で繰り広げられる。
そう考えると天才肌の兄と努力家の弟、すごく対照的だ。
「(私は断然フェルナン様派ですけどね……!)」
悩めるイケメンというのはいついかなるときも美しいものなのです。
「アリシェール」
「あ、はい」
「なんだか君……」
これは、最近綺麗になったね的な、そういうお褒めの言葉がいただけるのか! 恋する女の子はなんかホルモンだかフェロモンがどうとかで綺麗になるらしいけど、私も綺麗になったかもしれない。
いや、そもそもアリシェールは美少女だったわ。あと恋って、推しを愛でてるだけですけど。
「思ったよりも魔法理論ができるんだな」
「(そっちかー……)」
実は勉強に関してはいろんな面でハッター先生のお世話になっている。
ハッター先生は魔法に関することならば苦手なものなどないらしく、実技も筆記も全て完璧に教えてくれるのだ。抽象的で頭が痛くなってしまうような魔法理論も例外でなく、私が分かるようなレベルに合わせて説明してくれるのだから、あの人は相当器用だ。
だがしかし、「先生に教えてもらいました♡」なんて言ってはいけない。一対一での勉強指導なんて、やましいことがあったと思われるかもしれない。
「最近、ちょっと分かるようになりました、かもですね~」
動揺が口調に出る。怪しまれちゃうでしょ。
おほほと笑っている私の様子を、フェルナン様はじっと見つめている。その表情は何というか、少し訝しげです。
「誰かに教えてもらったのか」
「え、えぇ……」
「学園長先生か」
フェルナン様、勘が鋭い。けれど、一緒に居るところ見られたり、妖精のしわざうんぬんで先生に協力してもらっていることは知っているはずなので、当然の推測かもしれない。ここは変にごまかすと逆に怪しまれる、気がする。
「たまたま、学業で困ってることはと聞かれて、それで魔法理論の課題がつらいなーってお話をしたら、少し見ていただけることになりまして」
「そうなのか」
不自然、ではないはず。どうかフェルナン様に怪しまれないように、と必死に祈っておく。
というか、本当にこの板挟みは辛い。早く楽になってしまいたいくらいだ。
「(ハッター先生、この関係を続けるべきなんて、酷なことを……)」
「そういえば、リオル公から手紙を貰ったんだ」
「(へっ!?)」
思わずフェルナン様の方を見れば、彼はいつもとかわらない表情を浮かべている。それでもなぜか、不穏な気配が漂ってくるのを感じる。黒いオーラみたいな。
「アリシェールの成績が上がっていたから、公爵は僕が面倒を見たのだと思ったんだろう」
「(お父様ァー!!)」
「感謝の言葉が書いてあったよ」
これはつまり、怪しまれている。
他の科目でもがっつり先生に教えてもらったことが確実にバレている。あ、だめだ、これは終わった。恋愛イベントに浸れる期間、短かったなぁ!
「そんな顔をするな、別に責めているわけじゃない」
「え、……で、でも……」
私のメンタルは確実にダメージを負っているんです。責められているのと同じなんです。
良心が、死んでしまう。
「これで嘘ではなくなっただろう」
「…………、へ?」
首を傾げたところで、数拍置いてフェルナン様が何を言いたいのかを理解する。
お父様は私の成績が上がったのはフェルナン様のおかげだと思っている。けれど実際にそれは学園長先生の直々のご指導のおかげなわけでして、お父様は誤解をしている。
でも今自習中で、そして実際にフェルナン様に勉強を見てもらっている。これでお父様の誤解は一応事実になった、ことになる。
どうして、なんでフェルナン様がそんなことを。ハッター先生とよろしくしていた私を罰するとか、そういう流れじゃないんですか。
「でもこれからは、分からないことがあったら僕に聞くんだ」
遠回しにこれ以上先生を頼るのはやめろと、そうフェルナン様は言っている。
これは、見逃してもらったのか。先生との関係に薄々と勘付いていて、でもお咎めなしってことなの?
あの潔癖性のフェルナン様が。
「分かったか、アリシェール」
追い討ちのような圧。絶対に頷け、そんな彼の心の声が聞こえてくるような錯覚さえする。
でも頷いてしまったら、先生とはもう。
「リオルさん」
そこで誰かに声をかけられる。顔を上げれば、そこには別の教科担当の先生が立っていた。
「呼び出しです。学園長室へお願いします」
「え、あ、はい……?」
思わずフェルナン様の方を見てしまう。案の定、眉間にシワを寄せて不満そうなお顔をしておられました。普通に修羅場、昼ドラみたいになってきた。
ここはやっぱり、もう一度ハッター先生と話をした方がいいかもしれない。
覚悟を決めて、私は席を立ち上がった。
フェルナン様は根っからの大真面目なため、さすがに学園の施設内でスキンシップをとってくることはない。そう考えるとハッター先生は……学園長室のみ無法地帯という認識でいいでしょう。
それにしても。
「(フェルナン様に勉強教えてもらえるなんて……はぁー、夢に見たシチュエーション! 幸福感すごい……)」
フェルナン様はクレイン兄上より勉強ができる。表向きは。
でもゲームのフェルナン様ルートでは、クレイン兄上が弟をたてるために勉強でも武術でも本気を出さない、なんていう話が出てくる。実際に公式でも兄上は天才設定なのだ。それにフェルナン様は不満を抱いている、みたいな関係性だったりする。
そこをヒロインが「舐めた真似してんじゃねーぞ」と一発ぶちかまし、二人の仲を取り持つというイベントがあるのだ。
そのときのフェルナン様は全力の兄上相手でも負けないと、まるでライバルのような宣言をする。それによって少しギクシャクしていた兄弟間はより良いものに、という胸温まるエピソードが終盤で繰り広げられる。
そう考えると天才肌の兄と努力家の弟、すごく対照的だ。
「(私は断然フェルナン様派ですけどね……!)」
悩めるイケメンというのはいついかなるときも美しいものなのです。
「アリシェール」
「あ、はい」
「なんだか君……」
これは、最近綺麗になったね的な、そういうお褒めの言葉がいただけるのか! 恋する女の子はなんかホルモンだかフェロモンがどうとかで綺麗になるらしいけど、私も綺麗になったかもしれない。
いや、そもそもアリシェールは美少女だったわ。あと恋って、推しを愛でてるだけですけど。
「思ったよりも魔法理論ができるんだな」
「(そっちかー……)」
実は勉強に関してはいろんな面でハッター先生のお世話になっている。
ハッター先生は魔法に関することならば苦手なものなどないらしく、実技も筆記も全て完璧に教えてくれるのだ。抽象的で頭が痛くなってしまうような魔法理論も例外でなく、私が分かるようなレベルに合わせて説明してくれるのだから、あの人は相当器用だ。
だがしかし、「先生に教えてもらいました♡」なんて言ってはいけない。一対一での勉強指導なんて、やましいことがあったと思われるかもしれない。
「最近、ちょっと分かるようになりました、かもですね~」
動揺が口調に出る。怪しまれちゃうでしょ。
おほほと笑っている私の様子を、フェルナン様はじっと見つめている。その表情は何というか、少し訝しげです。
「誰かに教えてもらったのか」
「え、えぇ……」
「学園長先生か」
フェルナン様、勘が鋭い。けれど、一緒に居るところ見られたり、妖精のしわざうんぬんで先生に協力してもらっていることは知っているはずなので、当然の推測かもしれない。ここは変にごまかすと逆に怪しまれる、気がする。
「たまたま、学業で困ってることはと聞かれて、それで魔法理論の課題がつらいなーってお話をしたら、少し見ていただけることになりまして」
「そうなのか」
不自然、ではないはず。どうかフェルナン様に怪しまれないように、と必死に祈っておく。
というか、本当にこの板挟みは辛い。早く楽になってしまいたいくらいだ。
「(ハッター先生、この関係を続けるべきなんて、酷なことを……)」
「そういえば、リオル公から手紙を貰ったんだ」
「(へっ!?)」
思わずフェルナン様の方を見れば、彼はいつもとかわらない表情を浮かべている。それでもなぜか、不穏な気配が漂ってくるのを感じる。黒いオーラみたいな。
「アリシェールの成績が上がっていたから、公爵は僕が面倒を見たのだと思ったんだろう」
「(お父様ァー!!)」
「感謝の言葉が書いてあったよ」
これはつまり、怪しまれている。
他の科目でもがっつり先生に教えてもらったことが確実にバレている。あ、だめだ、これは終わった。恋愛イベントに浸れる期間、短かったなぁ!
「そんな顔をするな、別に責めているわけじゃない」
「え、……で、でも……」
私のメンタルは確実にダメージを負っているんです。責められているのと同じなんです。
良心が、死んでしまう。
「これで嘘ではなくなっただろう」
「…………、へ?」
首を傾げたところで、数拍置いてフェルナン様が何を言いたいのかを理解する。
お父様は私の成績が上がったのはフェルナン様のおかげだと思っている。けれど実際にそれは学園長先生の直々のご指導のおかげなわけでして、お父様は誤解をしている。
でも今自習中で、そして実際にフェルナン様に勉強を見てもらっている。これでお父様の誤解は一応事実になった、ことになる。
どうして、なんでフェルナン様がそんなことを。ハッター先生とよろしくしていた私を罰するとか、そういう流れじゃないんですか。
「でもこれからは、分からないことがあったら僕に聞くんだ」
遠回しにこれ以上先生を頼るのはやめろと、そうフェルナン様は言っている。
これは、見逃してもらったのか。先生との関係に薄々と勘付いていて、でもお咎めなしってことなの?
あの潔癖性のフェルナン様が。
「分かったか、アリシェール」
追い討ちのような圧。絶対に頷け、そんな彼の心の声が聞こえてくるような錯覚さえする。
でも頷いてしまったら、先生とはもう。
「リオルさん」
そこで誰かに声をかけられる。顔を上げれば、そこには別の教科担当の先生が立っていた。
「呼び出しです。学園長室へお願いします」
「え、あ、はい……?」
思わずフェルナン様の方を見てしまう。案の定、眉間にシワを寄せて不満そうなお顔をしておられました。普通に修羅場、昼ドラみたいになってきた。
ここはやっぱり、もう一度ハッター先生と話をした方がいいかもしれない。
覚悟を決めて、私は席を立ち上がった。
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