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05 大胆告白!

4 よろしいのですか

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 大胆な告白のあと、フェルナン様は寮まで送ると申し出てくれた。

 だがしかし。

 私はハッター先生を待たせてしまっている。三十分くらい約束の時間を過ぎているので、内心かなり焦っている。
 そしてこの混乱の大きさは絶対に、フェルナン様の告白によってハッター先生と逢引紛いのことをしているという事実に、良心がクリティカルヒットで大ダメージを受けているからだ。


「えっと、まだ少し学園に用事がありまして……」
「終わるまで待っている」
「いやいや! 悪いですって!」
「遠慮しなくていい。僕がしたくて申し出ている」


 これからこの学園の学園長先生とお茶会なんです、なんて口が裂けても言えない。でもその間フェルナン様を待たせるのもいろいろとまずい。私はお茶会を終えたあとどんな顔してフェルナン様に会えばいいんだ。

 っていうかこれって、浮気だよね。普通に。許されざる行為だよね。
 やばい、心臓が嫌な感じにドキドキしてきた。浮気がバレそうになる妻ってこんな感じの心境なのかなまだフェルナン様と結婚してないけど!


「それに、寮までといってもそこまで距離があるわけじゃないですし……」


 そう、送ってもらうような必要性はない。
 寮は学園内にある。学園内ということは警備もしっかりしているし、怪しい人とかもいないのです。危ないこととかもないはずなのです。
 やんわりとお断りするような雰囲気を出せば、フェルナン様は少しむっとするような表情を浮かべる。なにそれ可愛い。


「……僕が、もう少し君と一緒に居たいんだ」
「ひ、ひぇぇ……」
「な、なんだその反応……」


 ちなみにまだお手手を握ったままです。
 ハッター先生と手を繋ぐのは、なんというか謎のエロスというものを感じるんだけれど、フェルナン様の握り方は年相応でちょっと無骨だ。でもそういうところが……もうやめておこう。

 しかし、そんなことを言われれば余計に断りづらい。一体どうすればいいのか、必死に思考を巡らせてみる。
 もうここは、あれしかないのではないか。


「その、フェルナン様、お気持ちは大変、嬉しいのですが……」


 今度は私が深呼吸をする番だ。緊張に押しつぶされないように、そしてなるべく愛想よく表情を緩めておく。


「これ以上フェルナン様と一緒にいるとその、心臓が破裂してしまいそうで……今日はゆっくり、落ち着かせてほしい、のです」


 ちょっと苦しい言い訳になった。
 でも半分は本当だ。だってあのフェルナン様から告白されて、正直今は平常心を保つのがやっとです。


「そ、そうか……なら、仕方ない、のか?」


 なんとか空気に流されてくれるフェルナン様。なんとか危機を脱したような気がします。


「でも」


 少しだけ手を引かれて、私はフェルナン様に視線を向けた。


「……早く、慣れてくれ。君は僕の、妻になるんだから」


 唖然。そう、唖然としてしまった。
 一応フェルナン様にとってアリシェールは幼馴染みに近い存在のせいか、フェルナン様の口から出る口説き文句はどれもゲームでは聞いたことのないものばかりだった。何というか、ちょっと親しみみたいなものがある。

 なので、攻撃力が高い。


「えっと、フェルナン様?」
「どうした」


 返事もイケメンだ。


「フェルナン様は……私が婚約者で、このまま結婚することになっても、いいんですか?」


 なんだかこの質問、ハッター先生にもしたような気がする。先生は即答でいいよって言ってくれたけど。
 こうやって予防線張るところがなんか、恋愛雑魚という感じがしますね。


「結婚してもいい、っていう表現だと語弊がある。確かに僕たちの結婚は家の都合で決められた。僕も最初は、兄が嫌がったからそのお鉢が回ってきただけだと思った」


 フェルナン様は少し、自嘲気味にそう話した。
 思えば、フェルナン様と婚約することになったアリシェールはどう思ったのだろうか。なんとなくそう疑問に思った。やはりクレイン王子との婚約にこだわり続けたのだろうか。


「でも……いつからか君が、変な愛想笑いをするようになってから、俺は君との未来を少しずつ考えるようになった。僕の隣には、これからもずっと君がいるんだと」


 変な愛想笑いが好感度高いポイントなのが意外過ぎて笑っちゃいますよ。
 でも、本来のアリシェールとは違うという意味で、フェルナン様には印象的なことだったのかもしれない。それに、アリシェールの容姿だったら変顔しても可愛いだろうし。


「今でもそう思う。ずっと君に、僕のそばにいてほしい。それが答えだ」
「なる、ほど……」
「アリシェールは、その……どうだったんだ」
「え?」


 どうだったとは、と聞き返してしまいそうになって留まる。つまり私がフェルナン様をどう思っていたか聞かせろ、ということなのだろう。
 いや言えないよそんな恥ずかしいこと。でもフェルナン様もその恥ずかしいことをちゃんと口に出したのだから、私が逃げるわけにもいかない気がしてきた。


「えっと……私も、フェルナン様と、夫婦になれたらいいなって……」


 俯きながら話してしまう。なにせその言葉に続くのは、「そう思っていた」なのだ。
 そう、過去形。正直今はどうなのか、と問われてしまうと、何も言えなくなってしまう。
 どうしてだろう。憧れで大好きなフェルナン様とこのままゴールインできそうなのに、私の中には何かが突っかかったままだった。


「……アリシェール」
「は……――」


 名前を呼ばれて顔を上げれば、フェルナン様の手が頬に触れる。そして次の瞬間には、ぐっと顔が近付いた。
 ああ、まずい。なんて思ったのは柔らかい感触を唇に感じたときだった。触れるだけのささやかな口付けはすぐに終わって、顔を真っ赤にしたフェルナン様が視界いっぱいになる。


「明日からは」


 彼の指が頬を撫でて、私の髪に触れる。それが妙にくすぐったくて、そして顔の熱を上げていく。


「もっと君と、一緒に居たい。だから今日はゆっくり休んで、覚悟を決めてきてくれ」


 ちゅ、と音を立てて今度は頬にキスが落ちてくる。
 まるで恋人同士のような仕草に呆気にとられて、私は思わず頷いてしまった。
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