福音よ来たれ

りりっと

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番外2-02 密室

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 そうこうしていると大型の絶叫が響き渡る。とどめを刺したらしいクライスが落下していくのをすかさず礼装持ちの兵士が受け止めて足場に着地する。


「クライスの成長は目覚ましいね」


 戦果を挙げたことを誇り腕を上げるその姿にトコエは微笑む。それを見てルザはまた面白くないとでも言うかのように口を噤んだ。


「見たかトコエ!大戦果だ!」
「おめでとう、クライス。赤ランクへの昇格も近いかもね」


 昇格という単語にクライスは誇らしげに胸を張る。コシュマールでは暫定最高ランクのトコエ以外、未だに皆黄ランク以下止まりなのだ。


「赤の指標ってどんくらいだっけ」
「単騎でも大型を討伐できる可能性が高い、だってよ」
「そんじゃあまだまだ無理だな」


 他に出陣していた兵士二人が軽快な笑いと共にそう言う。


「戦果はともかく、戦闘能力じゃエムリの方が高いでしょ」


 嫌味のようにルザが言うのを、トコエが肘で突いて注意する。


「単騎での戦闘なんてまずコシュマールではあり得ない。周囲と上手く連携できて大型も撃ち落とせるなら十分優秀。クライスは味方のカバーも上手いし、判断も的確だし」


 それにと言葉を続け、トコエはクライスの肩を軽く叩く。


「わたしの副官ができるのは今のところ君くらいだから、十分自信持っていいよ」
「っ! ああ……!」


 嬉しそうにクライスは頷く。それを眺めていたルザは嫉妬心を剥き出しにしてクライスを睨みつけており、それを周囲の兵士が窘めていた。


「ルザ、お前もうちょっと隠そうとしろよ」
「男の嫉妬は醜いぜ」
「さっきから横からうるさいな君たちは……!」

「そうだ」


 トコエは何かを閃いたようにぽんと手を叩く。


「何か欲しいものある? 物資だったら、ラゾに頼んで渡せるし。今日の夕食は君の好きなもの作ってもらうとかでもいいよ」


 コシュマールの最高権力者として何か褒美を、と彼女は言う。ルザは更に嫌そうな顔をし、周囲は一発やらせてもらえよなどと下劣な冷やかしをし出す。


「それは腕相撲で勝つのが条件なんだろう!?」


 絶対ダメと文句を口にするルザを他所に、トコエは首を傾げる。


「別にそれでもいいよ」
「えぇ!?」


 ルザはショックを受けたように声を上げる。しかし一度この流れで痛い目を見た彼としては、もはやそれ以上何も言えなかった。それでも視線は必死にトコエに訴えかける。


「男に二言はない。約束は約束だ。破るつもりはない」


 クライスははっきりとそう言い放つ。そういうところは無駄に頑固だった。


「まぁ、そう言うと思ったけどね」
「……それと、欲しいものは、……この後一緒に来てくれるか」
「うん」


 意味深な言葉と共に二人はフロントを後にする。ルザと野次馬達はすかさずその後を追いかけた。

 さっさと空き個室に入り中から鍵をかけられたため、彼らはすかさず扉に耳をそば立て音を拾おうとする。


 ――……、ぐっ、……ふ、うっ……


 聞こえてくるのはクライスの呻き声だけだ。脳内モザイクの彼らはその音から即座に何をしているのかを想像してしまう。


「これ……フェラじゃねぇの……!?」
「馬鹿野郎、絶対手コキだ」


 下品な推測を立てる男二人にルザはキレそうになる。


「ちょっと黙ってくれない!?」


 しばらく一方的なクライスの呻き声が続き、一際大きな声が聞こえ、それが乱れた呼吸に変わる。それに流石のルザも心が折れそうになる。


「(そんな、トコエ……っ)」


 ――はい終わり


「早漏すぎんだろ……」
「それほどトコエのテクがやばいのかもしれん」


 何せ天下の紫ランクだからな、とふざけたことを言う。
 もはや突っ込む気力もなくルザは壁にぐりぐりと額を押し付け消沈する。すぐさま二人の兵士はニヤニヤと笑い慰めるように肩や背を叩く。


「コシュマールじゃ誰しもが通る道だ、諦めな」
「俺もムノン姉さんがそうだったわ……」


 そんなことをしていると部屋からトコエのみが出てくる。慰められているルザを見て、彼女は不思議そうに首を傾げた。


「何してるの?」
「トコエさんお疲れ様です!」
「俺たちも精進してトコエさんにイイコトしてもらえるように頑張ります!」
「え?」


 意味がわからないと言う様子で首を傾げるトコエに、ふらついた足取りでルザはトコエに縋り付く。


「文句は言わないから、トコエ……」
「何?」
「手と口でした後すぐに僕とセックスして……!」


 うわああ、と喚きながらガクガクとトコエの肩を揺さぶる。流石のトコエも呆れたように眉を下げるとその頭に加減しつつチョップを食らわす。


「禁止期間って言ったでしょ。我慢しなさい」
「なんでっ、なんでぇ!」
「ほら部屋戻るよ」


 ずるずるとトコエに引きずられルザは自室に連行される。


「トコエ、僕のこと愛してるでしょ……!?」
「なんかメンヘラみたいになってきたね」


 ぐいぐいとトコエの手を股座に押し付け、きつく擦り合わせる。嫉妬と独占欲に燃えた彼の身体は早くトコエを犯したいと奮い立つ。


「約束したじゃん、一週間我慢」
「うぅ……じゃあ、前みたいに口でして」
「したら絶対止まらなくなるでしょ」


 窘めるように拒否され、ルザは涙目になりながら首を横に振る。


「やっぱやだ、トコエに僕以外の男のちんちん触って欲しくないし舐めても欲しくないの!ましてやトコエのこの綺麗な身体の中に、いっ、挿れる……!? 無理、絶対に無理!!」
「なんのはなし……?」


 全く脈絡が理解できずにトコエは眉を寄せる。そうこうしている間にもルザはベルトを解いてスラックスの前を急いで広げる。下着をずらして露出させた屹立に無理やり彼女の手を充てがわせると扱かせるように自身の手を動かす。


「こら、ルザ……!」
「んっ、お願い、トコエの手で気持ちよくなりたい、はぁ……っ、不安なんだ、僕を助けて……」


 潤んだ目で、そして上目遣いでルザはトコエに縋る。甘えるような声にトコエが揺れてしまうのを良いことに、すりすりと彼女の胸元に擦り寄りながら良い場所を弄らせる。このまま甘えに甘えて最後まで致してしまおうと、そう腹の内で企んでいたときだった。

 コンコンと部屋の扉がノックされる。あの、と不安げに聞こえてくる声は、数少ない女性兵士、ライカのものだ。


「トコエさん、ルザくん居ますか?部屋まで来てすいません、時間なんですけど来なくて……」


 それにはっとなったルザが視線を時計に向ければ、確かにライカに付き合う時間を過ぎている。

 トコエはゆっくりとそこから手を離し、ルザの肩を軽く叩く。居留守を使うわけにもいかず、渋々と大人しくルザは仕事へと向かうのだった。

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