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番外1-04 複雑な心境
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「えー、このすっごいイケメンがトコエなのー!?」
「ルザが美少女とかマジか……!」
口々に兵士は二人を見て言う。
お互いの服を交換しあった二人は、落ち着いた様子で頷いた。
真先に二人が向かったのはラゾのところだ。一体これはどういうことかと、そう問い詰めたのだが。
「礼装の能力がそこまで及んだというだけのことだろう。しかし素晴らしい。何でもありだな君達は」
などと嬉しそうに語っていただけだった。
「僕が美少女なのは順当でしょ。もちろん、トコエもね」
「目線が高くて……これで上手く戦えるかな」
トコエの身長は男性のルザよりも僅かばかり高い。対してルザは、女性のトコエよりも低い。
「手足の長さとかも違うだろ。訓練しとくか?」
クライスの言葉に鈍くトコエは頷く。
「これで負けたらいろいろ大変だからね」
「ダウナー系イケメン、いいわ~……」
ムノンはうっとりとした目でトコエを見つめる。それを慌ててルザが押し留める。
「手を出しちゃだめだからね……!」
「でも、今のトコエちゃん……トコエくんって、そういうこと初めてなんでしょ?」
その言葉にルザはさっと顔を青くする。そりゃあ、礼装で性別が変わってしまったのだから、性行為はまだ未経験と言えるだろう。
「だめだめ!トコエの初めては僕なんだから!」
「僕っ子美少女……アリだな」
「処女か……」
「あと僕をそういう目で見るのも禁止!」
次々に邪な視線が集まってくるのを感じ、ルザは慌てた様子で手を振った。
「まぁまぁ、礼装の不具合なんだし、直るまでちゃんと様子見たほうがいいでしょ」
すかさずカーリャが助け舟を出してくれる。そういえば男たちも顔を見合わせ、落ち着いていく。
しかしようやく落ち着きそうなその事態に現れたのは背の高い一人の女性だ。すらりとモデルのような体型の彼女は、人だかりに気付くと近寄ってくる。
「今、わたしの可愛いトコエちゃんの名前が聞こえたんだけど……」
「げぇっ、エムリ……!」
大きくなったトコエと小さくなったルザが彼女の視界に入る。超速理解でその二人が誰であるかを察したエムリは顔面蒼白になる。
「わたしのトコエちゃんがー!男になってるーー!!!」
「落ち着いてエムリ」
ぐわんぐわんと肩を揺さぶられながら、トコエは彼女を宥める。
「多分元には戻れるはずだから」
「あぁん、あの華奢な身体は?絹のように綺麗で長いプラチナヘアーは?小さいけど可愛いおっぱいとかぷりっとしたお尻とか贅肉ひとつついてないおへそとか……!」
「おい!」
怒り心頭の様子でルザは即座に間に入る。
「トコエに対するセクハラはやめてくれないか!」
「…………」
じっとその視線が下に向けられる。男性の頃の面影を残したルザを見つめ、なにかを考え込むようにエムリは沈黙した。
しかし。
「可愛い子、お姉さんとイイコトしない?」
「やめろー!」
すりすりと彼のウエストを両手で撫でて抱き寄せようとする。だがそれをするりと受け流し、トコエが軽々とルザを抱き上げる。
「悪いけどエムリ、ルザに相手して欲しいなら手を出す前に言葉を交わして欲しいかな。それがここの決まり。君は少々その規律に無頓着すぎる」
「そうしていると王様みたいね~」
「おいでルザ。訓練場で身体を動かすから側で待っていて」
そっとルザを下ろしてやると、トコエは落ち着いた声で言う。元々クールな性格であるが故に、余計に完成された男性の姿に拍車をかけている。
「うん……!」
ぎゅうっとトコエの腕に自分の腕を回し、クライスたちと共に訓練場へと向かう。
いつものように武装を展開するトコエの姿を眺めながらルザは思う。
「(もしかしたら、これがあるべき姿なのかもしれないなぁ……)」
彼女、トコエがコシュマールの王として君臨し、誰よりも矢面に立つ。自分が女としてそれを支え、優しく身体で包んでやる。世間一般的な男女の在り方だ。
「(僕は……結局戦えないままなんだから)」
ふとがががっ、と歪な音がする。視線を上げてみれば、トコエとクライスが何やら話をしている。
「なんか不安定だな」
「うん、出力が一定にならない。無駄な消費がすごく多い」
「直りそうか」
クライスの問いにトコエは沈黙する。
「……無駄遣いはしたくない。でも戦闘自体には支障はなさそうだし、慣れていくしかないよ」
そこでトコエが視線をあげる。目配せでクライスや他に訓練場にいた兵士たちに襲撃を知らせる。
皆が廊下に出たところで警報が鳴った。
「俺も出よう」
「そうだね。援護頼むよ」
慣れた様子で出陣していく彼らの姿を、ルザは寂しそうに見つめた。
久しぶりの激しい戦闘に、皆不安そうな目でモニターを見つめていた。
やはりトコエの武装の出力が安定しないのだ。強すぎたりすることよりも、弱すぎて攻撃が効かないことの方が多い。
「トコエ……!」
ため息をつきながらトコエは素手で小型を殴る。敵同様桁違いの出力を持った礼装に耐えきれず、じわりとその手に血が滲む。
『面倒だな』
『トコエ、下がってろ!』
そうはいってもこの戦場にはまだ大型が二機残っていた。それを倒すにはトコエの火力が必要不可欠なのである。
『クライス、全員下げてくれ。巻き込みそうで怖い』
大丈夫かと視線を向けてくる副官に、トコエは静かに頷いた。
フロントに出ていた全員が屋内に入り、すぐ目の前にまで迫る敵にトコエは杭を突き出す。
ガンとそれを地面に突き立て、そこに更に、歪な装甲を纏わせる。螺旋のように歪んだその杭を構え、思いっきりそれを投擲した。
ねじ曲がるように軌道を変え、次々と敵の身体を貫通していく。その風圧にラゾのカメラがミシミシと音を立てているようだった。
『戦闘終了』
『おつかれさま』
いつもの口調で聞こえてきた労いの言葉にルザは大きく息を吐き出した。急いでフロントに向かえば、傷もすぐに癒えた様子のトコエが居た。
「トコエ」
すぐさま抱きつけば自分より背の高い彼女に抱き上げられる。
「ごめんルザ、ちょっと付き合って欲しい」
「ん?」
するりとトコエはシャツの裾を上げる。美しく鍛え上げられた細身の身体に、そこにある痣はほとんど色が散ってしまっている。
「結構、ギリギリだった。内心すごく焦ってる」
「……うん、いいよ」
ちゅっとトコエの頬に唇を寄せ、抱き抱えられたまま部屋へと戻る。
「ルザが美少女とかマジか……!」
口々に兵士は二人を見て言う。
お互いの服を交換しあった二人は、落ち着いた様子で頷いた。
真先に二人が向かったのはラゾのところだ。一体これはどういうことかと、そう問い詰めたのだが。
「礼装の能力がそこまで及んだというだけのことだろう。しかし素晴らしい。何でもありだな君達は」
などと嬉しそうに語っていただけだった。
「僕が美少女なのは順当でしょ。もちろん、トコエもね」
「目線が高くて……これで上手く戦えるかな」
トコエの身長は男性のルザよりも僅かばかり高い。対してルザは、女性のトコエよりも低い。
「手足の長さとかも違うだろ。訓練しとくか?」
クライスの言葉に鈍くトコエは頷く。
「これで負けたらいろいろ大変だからね」
「ダウナー系イケメン、いいわ~……」
ムノンはうっとりとした目でトコエを見つめる。それを慌ててルザが押し留める。
「手を出しちゃだめだからね……!」
「でも、今のトコエちゃん……トコエくんって、そういうこと初めてなんでしょ?」
その言葉にルザはさっと顔を青くする。そりゃあ、礼装で性別が変わってしまったのだから、性行為はまだ未経験と言えるだろう。
「だめだめ!トコエの初めては僕なんだから!」
「僕っ子美少女……アリだな」
「処女か……」
「あと僕をそういう目で見るのも禁止!」
次々に邪な視線が集まってくるのを感じ、ルザは慌てた様子で手を振った。
「まぁまぁ、礼装の不具合なんだし、直るまでちゃんと様子見たほうがいいでしょ」
すかさずカーリャが助け舟を出してくれる。そういえば男たちも顔を見合わせ、落ち着いていく。
しかしようやく落ち着きそうなその事態に現れたのは背の高い一人の女性だ。すらりとモデルのような体型の彼女は、人だかりに気付くと近寄ってくる。
「今、わたしの可愛いトコエちゃんの名前が聞こえたんだけど……」
「げぇっ、エムリ……!」
大きくなったトコエと小さくなったルザが彼女の視界に入る。超速理解でその二人が誰であるかを察したエムリは顔面蒼白になる。
「わたしのトコエちゃんがー!男になってるーー!!!」
「落ち着いてエムリ」
ぐわんぐわんと肩を揺さぶられながら、トコエは彼女を宥める。
「多分元には戻れるはずだから」
「あぁん、あの華奢な身体は?絹のように綺麗で長いプラチナヘアーは?小さいけど可愛いおっぱいとかぷりっとしたお尻とか贅肉ひとつついてないおへそとか……!」
「おい!」
怒り心頭の様子でルザは即座に間に入る。
「トコエに対するセクハラはやめてくれないか!」
「…………」
じっとその視線が下に向けられる。男性の頃の面影を残したルザを見つめ、なにかを考え込むようにエムリは沈黙した。
しかし。
「可愛い子、お姉さんとイイコトしない?」
「やめろー!」
すりすりと彼のウエストを両手で撫でて抱き寄せようとする。だがそれをするりと受け流し、トコエが軽々とルザを抱き上げる。
「悪いけどエムリ、ルザに相手して欲しいなら手を出す前に言葉を交わして欲しいかな。それがここの決まり。君は少々その規律に無頓着すぎる」
「そうしていると王様みたいね~」
「おいでルザ。訓練場で身体を動かすから側で待っていて」
そっとルザを下ろしてやると、トコエは落ち着いた声で言う。元々クールな性格であるが故に、余計に完成された男性の姿に拍車をかけている。
「うん……!」
ぎゅうっとトコエの腕に自分の腕を回し、クライスたちと共に訓練場へと向かう。
いつものように武装を展開するトコエの姿を眺めながらルザは思う。
「(もしかしたら、これがあるべき姿なのかもしれないなぁ……)」
彼女、トコエがコシュマールの王として君臨し、誰よりも矢面に立つ。自分が女としてそれを支え、優しく身体で包んでやる。世間一般的な男女の在り方だ。
「(僕は……結局戦えないままなんだから)」
ふとがががっ、と歪な音がする。視線を上げてみれば、トコエとクライスが何やら話をしている。
「なんか不安定だな」
「うん、出力が一定にならない。無駄な消費がすごく多い」
「直りそうか」
クライスの問いにトコエは沈黙する。
「……無駄遣いはしたくない。でも戦闘自体には支障はなさそうだし、慣れていくしかないよ」
そこでトコエが視線をあげる。目配せでクライスや他に訓練場にいた兵士たちに襲撃を知らせる。
皆が廊下に出たところで警報が鳴った。
「俺も出よう」
「そうだね。援護頼むよ」
慣れた様子で出陣していく彼らの姿を、ルザは寂しそうに見つめた。
久しぶりの激しい戦闘に、皆不安そうな目でモニターを見つめていた。
やはりトコエの武装の出力が安定しないのだ。強すぎたりすることよりも、弱すぎて攻撃が効かないことの方が多い。
「トコエ……!」
ため息をつきながらトコエは素手で小型を殴る。敵同様桁違いの出力を持った礼装に耐えきれず、じわりとその手に血が滲む。
『面倒だな』
『トコエ、下がってろ!』
そうはいってもこの戦場にはまだ大型が二機残っていた。それを倒すにはトコエの火力が必要不可欠なのである。
『クライス、全員下げてくれ。巻き込みそうで怖い』
大丈夫かと視線を向けてくる副官に、トコエは静かに頷いた。
フロントに出ていた全員が屋内に入り、すぐ目の前にまで迫る敵にトコエは杭を突き出す。
ガンとそれを地面に突き立て、そこに更に、歪な装甲を纏わせる。螺旋のように歪んだその杭を構え、思いっきりそれを投擲した。
ねじ曲がるように軌道を変え、次々と敵の身体を貫通していく。その風圧にラゾのカメラがミシミシと音を立てているようだった。
『戦闘終了』
『おつかれさま』
いつもの口調で聞こえてきた労いの言葉にルザは大きく息を吐き出した。急いでフロントに向かえば、傷もすぐに癒えた様子のトコエが居た。
「トコエ」
すぐさま抱きつけば自分より背の高い彼女に抱き上げられる。
「ごめんルザ、ちょっと付き合って欲しい」
「ん?」
するりとトコエはシャツの裾を上げる。美しく鍛え上げられた細身の身体に、そこにある痣はほとんど色が散ってしまっている。
「結構、ギリギリだった。内心すごく焦ってる」
「……うん、いいよ」
ちゅっとトコエの頬に唇を寄せ、抱き抱えられたまま部屋へと戻る。
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