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12-02 久しい一夜*
しおりを挟むある日から彼女の部屋は静かになった。
人一人いなくなったとき、自分はこんなに広い部屋に住んでいたのだなと、彼女は呆然と思った。
ベッドも一人で眠るには広すぎる。何もない部屋で横になっているのが苦痛になって、彼女は自然と部屋の外に出ることが多くなった。
外に出れば他の兵士がたくさん声をかけてくる。少しずつ彼らの顔と名前を覚えて、なるべく会話をするようにした。そうすれば、壊れた記憶が、偶に繋がることがあった。
「ベルちゃん、今日のご飯は何がいい?」
「…………、おむれつ」
「あら、好きなのー?」
ムノンは不思議そうに首を傾げた。
「別に、ムノンが作ったの、食べてみたいって思っただけ」
「そうなの。じゃあ腕によりをかけないとね」
「んー」
手際良く料理していくムノンを眺めていると、遠くでベルと呼ぶ声がする。声のする方へ歩いていけば、クライスが彼女の姿を見つける。どうやら前約束していた戦闘訓練を行うようだ。
「今暇か?」
「うん」
「そんじゃ頼むぜ」
最近ようやく使われるようになった訓練場へと、彼と共に向かう。
その途中で彼女は遠く先に見慣れた姿を見つける。カーリャと一緒にいる、ルザだ。
「…………」
「どした?……ああ、ルザか」
クライスが彼女の視線の先を辿り、その姿を捉える。
「喧嘩したって聞いたけど本当なのか?」
「……さぁ」
構わず訓練場に入れば複数人の兵士がいる。訓練に付き合う、なんて全く想像できないなと思いながら、彼女は適当に過ごした。一人になるよりかはずっとマシだった。
夕食の時間まで訓練をし、クライスの号令と共に皆解散していく。その中で数人、身体の動かし方などでいくつか質問をしてくる。それにうまく答えられたかは分からないが、とにかく返事はした。
「あの、ベルさん、良かったら夕食の後」
下心を覗かせる視線を受け、彼女は目を伏せる。あの男もよくこんな目をして自分を見ていたなと、そうぼんやりと思った。
「オラ、そういうのはご法度だっつっただろ」
すかさず叱責を飛ばしてきたのはクライスだ。それに誘ってきた兵士は笑みを痙攣らせる。
「だって、ルザとも別れたんだし、別の相手が必要じゃないですか。な、なんだったらクライスさんも一緒に……」
「バーカ。ベルに腕相撲で勝ってからだボケ」
「いや、それはほんと、何十年鍛錬してもできるかどうか……」
どう考えても無理、と言ってもクライスは聞く耳を持たない。さっさと食堂に行けと尻を蹴飛ばし追い払った。
「君は、いつかわたしに勝てるようになると思ってるの?」
「は?そんなもん、やってみなきゃ分からんだろう」
はっきりとクライスはそう言う。男性陣の中でもかなりさっぱりした性格の彼は、結構他の女性からの好感度が高い。
「よくやるよ」
じっとクライスはトコエを見つめる。その視線に気付いた彼女は同じように彼の方を見る。
「ルザとは別れたって?」
「そもそも付き合ってないよ」
「……じゃあ、俺と付き合ってみねぇか」
その申し出にトコエは彼から視線を逸らした。特に何か思案するわけでもなくしばらく沈黙すると、そのまま踵を返す。
「考えておく」
彼女の後ろを歩きながらクライスは小さく笑った。
「思ったより落ち込んでんのな」
ぴたりと足を止め、トコエは立ちすくむ。
「そう、見える?」
「ああ。心ここにあらずって感じだ」
はぁ、と彼女はため息をつく。落ち込んでなどいないと、そう反論しようとしても、心の半分くらいではそうかもしれないなと頷けてしまうのだ。
「今度よわそーな敵来たら俺も出ていいか?まずは経験してみたい」
「いいよ。怪我しないように気をつけてね、君は礼装無いんだし」
「礼装あっても武装なきゃ戦うの大変だろーが」
なら武装の方がいいに決まってる!と力説し始めるクライスを見て、小さくトコエは笑った。
ふと視線を訓練場の扉の先に向けると、様子を伺っていたらしいルザと視線が合う。けれど彼はすぐに早歩きで立ち去ってしまう。
自分には関係のないことだと、そう心の中で呟き、彼女も歩き出した。
◆
それから何日か経って、要塞内も静まり返った夜。コンコンと扉を叩く音がする。扉を開けて来客を確認すれば、そこに立っていたのはルザだった。
笑顔を浮かべようとはしているのだが微妙に引きつっている。
「その……そろそろ日が経つなと思って、デレイの調子はどうかな。残量が気になるなら、一回だけでもどうかな、って、……終わったら、帰るから」
俯いて彼はそう言った。トコエは何も言わずに扉を開け放ち、室内に戻っていく。それを了承と取った彼は部屋に足を踏み入れ、静かに戸を閉めた。
「夜の来客にいきなり扉開けるのはよくないよ。襲われたらどうするんだ」
「誰だろうと返り討ちにできる」
「そ、そうかもしれないけど……」
すとんとベッドに腰をかけたトコエに、ほんの少しの躊躇いを見せながらもルザはその隣に座った。
そっと彼女の太腿を撫でて、彼はゆっくりと愛撫を始める。ワンピースと下着を脱がせ、その身体を味わうように舌を這わせた。
「んっ……」
いつもならば甘い言葉の一つや二つ囁きながら触ってくるものの、その日の彼はかなり無口だった。
黙って秘裂と乳房を刺激し、自身を受け入れさせる準備を整えていく。
半分ほど減ったデレイをそっと撫で、彼は彼女を果てさせる前に愛液が溢れる彼女の中から指を引き抜いた。
「もう、入れていいかな」
「……いいよ」
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