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06-03
しおりを挟む「って、全然よくない!」
寝巻き姿のセレフィアは叫んだ。
あの口付け以降特に発展することもなく、二人はどこか落ち着かない様子ながらも散歩をしたりして過ごした。その間特筆すべきことなど、ずっと手を繋いでいたことくらい、だろう。
ジノの再度の告白を聞き、そして彼の想いを受け入れた。不思議とそれで満足してしまったセレフィアは、幸せな心地で就寝しようとしていた。ところでこの叫びである。
「結局ジノ様は大した運動なんてできてないじゃない、私はちょっとお尻とか足とか痛いけど! 明日はもうお仕事なのに、また今日も眠れなかったら……」
ジノはああ言ってくれたが、問題は何も解決していない。確かにジノの趣味に合わせるという目的もあったが、一番大事なのはジノが眠れるように助力することだったはず。
なのにそれは果たせなかった。そして今夜も、ジノが眠れるのかは不明のまま。
「またあの部屋で本を読んでるかも……行かなくちゃ」
駄目もとだとしても、今夜は流石にちゃんと眠って欲しい。何ならジノが眠れるように子守唄だろうが何だろうが、セレフィアはするつもりだった。
そして部屋を飛び出して休憩室に向かったセレフィアを、案の定ジノが迎えてくれる。
「どうしたんだ」
「それはこっちの台詞です。明日はお仕事なんですよね、なら少しでも眠らないと」
そう言って聞かせようとするも、ジノは困ったような顔をするばかりだ。彼としても今の身体の状態では眠れないことが分かっているのだろう。
「やっぱり私はジノ様の趣味にお付き合いすることができませんでした。だから、せめて夜眠れるように最善を尽くしたいんです! 眠れるまで見守るのでも、手を握るのでも、何でもしますから!」
「そ、そう、言われてもだな……」
少し頬を赤らめながら、動揺した様子でジノはセレフィアから目を逸らす。
ここはジノを納得させるためにも具体的な方法を出さなければいけない。そう思ったセレフィアは考え込む。
人が傍にいる方が眠れる、というのはあるかもしれない。だがまだ夫婦になって一週間しか経っていないのに、セレフィアが傍にいただけでジノが眠れるとは考えにくい。逆に緊張させる可能性だってある。
子守歌だって、子供ではないのだから効果があるとは言い切れない。というか、セレフィアはそこまで自分の歌に自信がない。人を安らかな眠りに誘う美しい歌声を持っているかと聞かれれば、ない。
だとすれば、やはり今まで通り身体を酷使して疲労させるのが確実だ。
「じゃあ、お部屋で運動、とか!」
「部屋で運動……!?」
良い案だと思ったのだが、ジノはすぐに首を横に振った。
「今日はたくさん動いて疲れただろう。俺は大丈夫だから、もう休んだ方がいい」
「私だって大丈夫です。あんまり足を動かさなければ、筋肉痛だって」
優しいジノはセレフィアの方が疲れていると思っているのだろう。事実、滅多に使わない足の筋肉は悲鳴を上げている。
ならば足を動かさない運動だ。例えば、横になってできることなんていいかもしれない。それで運動、となると結構数が限られてくるような気もするが。
「横になってできる運動……」
「ま、待て、本当にもう寝よう。君の気持ちは分かったから」
無理に会話を終わらせようと、ジノはそう言ってセレフィアを追い出すかのように背を押す仕草をした。近くなった距離に、けれど今度はさすがに動揺することなく、セレフィアは非協力的な態度をとるジノの顔をじっと見つめた。
確かにジノの顔はよく彼の感情を表現している。だがあまり人の表情に不慣れなセレフィアにはそう簡単なものではない。だからじっと、よく観察してみることにした。
「セレフィア、その……そんなにじっと見つめられるのは、さすがに」
どうしてジノは大丈夫などと言うのだろう。昼間は少しでも傍に居て欲しいなんて言った彼が、今は自分を追い返そうとしているのだろう。
先ほどから不自然なまでに逸らされた視線。そして接触を避けるような手つき。何かを我慢するかのような、焦りの滲み出た苦笑。
そういえば前に、ジノが自分の夜着を薄着だと言って気にしていたなと思い出した矢先、セレフィアは奇跡的にも求めていた運動方法を思いつく。そしてそれを、貞淑さなどどこかに消えてしまった様子ではっきりと口にした。
「ジノ様、同衾しましょう!」
瞬間、時間が止まったかのように思えた。口にして数秒後、とんだ失言に気付いたセレフィアはたらりと冷汗をこぼした。
だが言われた側であるジノの様子は。明らかに、ひた隠しにしようとしていた下心を暴かれてしまったことに動揺していた。
「えっ……」
06 了
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