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02 癒しのひととき*

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「しかし、君もわたしにあれこれ言える立場じゃないだろう? ウィルナ伯の御令嬢との縁談を断ったそうじゃないか。器量良しの才女、おまけに君に惚れてるって噂もあったのに」
「私はまだ半人前です。婚姻は早すぎます」
「そうかなぁ。わたしの後継は君にって王がそう言ってるんだ。君は本来、こんなどうでもいい雑務をしてるわたしに付き合う必要なんてないんだ」
「それは過大評価です。今の私では、貴女の後継など到底務まらない」
「相変わらず強情だね」


 柔らかく微笑んだイメリは、ブーツを脱ぎ去った足を伸ばし、つうっとクラクスの脛あたりを撫でる。それにびくりと驚いたように肩を震わせた彼は、胡乱げな目でイメリを見つめた。


「だったらこんなところで書類仕事してないで、鍛錬でもしていた方が有意義なんじゃないかな?」


 伸ばした足が衣服の上から太ももを摩り、そのまま股座へと伝っていく。衣服越しとはいえ女性にはないものがあるそこを足先で擦れば、彼の表情が僅かに歪み、じわりと赤らむ。


「わたしに勝てないって分かってるのに努力しないのは、怠慢じゃないだろうか」
「……っ、……」
「真面目な君らしくないなぁ」


 足先で擦っていたものが膨らんでいく感触がして、彼女はどうだとでも言わんばかりに首を傾げた。形を確認するように足を動かしたあとは、それを扱くように少しずつ力を込めて足裏を擦り付ける。


「そんなんじゃ、いつまで経っても美人な奥さんを迎えられないぞ」
「ん、ふっ……」


 慣れ切った足での愛撫に、クラクスはいつものように声を押し殺して堪えている。その様子が可愛らしくて、縁談で荒んでいた彼女は癒されるような心地だった。

 最初は本当にちょっとした触れ合いだった。堅物で真面目なクラクスは、イメリが頬をつついたり脇をくすぐったりするとすぐに顔を赤くして動揺してしまうのだ。そうしているうちに、そんな可愛らしい反応をするクラクスがもっと見てみたいと、イメリの悪戯は次第にハードなものに、そして破廉恥なものへ変わっていったのだ。

 なにせ黙っていかがわしい責めに耐える彼の姿は、男性経験のない彼女にはあまりにも刺激の強いものだった。そのため今やすっかり……ハマってしまったのである。


「まぁ、一生独り身のつもりなら別にいいんだけどね? 先代とわたしに続いて君まで未婚になるとか、護国の騎士の称号は呪われているのかって思っちゃうけど」
「そんな、こと……っ、あ……っ、絶対に、貴女を、超えてみせますっ」
「そうかそうか。うん、その一言が聞けて安心したよ」


 こんな馬鹿馬鹿しい悪戯の最中にも、真面目に返事をしてくれる彼に、まるで褒美だとでも言わんばかりに責めを執拗なものへと変えていく。完全に黙り込んだまま強い快感に耐えるその姿を見つめて、しっかりと絶頂まで高めてやる。


「っ、く……」


 またびくりと彼の身体が震えて、その口から甘い吐息が溢れる。足裏で彼のものがぴくぴくと震えるのを感じながら、可愛がるようにそこを優しく摩ってやれば、クラクスの絡みつくような視線が彼女に向けられる。


「…………」


 クラクスとはそれなりに長い付き合いだ。けれど、イメリには彼のこの視線の意味がよく分からなかった。

 よく恥をかかせてくれたな、というものならもう少し刺々しさがあるだろう。それに、この行為を嫌がっているなら、そもそもここに寄り付かなくなるはずなのだ。これは彼の仕事ではないのだから。
 クラクスがこの執務室に来るということは、少なからず自分に好意を持っている、そう思ってはいるのだが。


「(叱るわけでもなく、手を出してくるわけでもなく、無言でじっと見つめられるだけなんだよなぁ。この子は何がしたいんだろう……)」


 もしかしたらストレス発散に付き合ってくれているだけなのかもしれない。それが本当だったら流石のイメリも申し訳なく思う。
 といっても、ここに彼が来る以上悪戯をやめる気はあまりなかった。それほどイメリにとって、クラクスに卑猥な悪戯をすることは精神的に満たされる行為だったのだ。


「さてと、ちょっと散歩してくるよ。君には関係ない仕事なんだから、あまり真面目にやり過ぎると損をするぞ」


 またいつものように、適当にはぐらかしながらイメリはブーツを履き直す。そして今日の仕事を勝手に打ち切り、自分の執務室を後にした。

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