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番外05-02

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 ケーキを食べ終えてなお胃袋に余裕があったノイナは、追加でパフェを注文した。スタールも、小さなカップに入ったパフェを食べている。


「いやぁ、パフェもいいですね」
「今日の摂取カロリーをとっくにオーバーしてるよ」
「うっ……そういうことは言っちゃダメなんですよ……?」


 これでも甘味好きの宿命として、ノイナは体重維持にはかなり気を遣っているのだ。スタールお手製の鍛錬メニューに走り込みを追加したり、筋トレをしたりなどなど。


「ノイナさえ良ければ、今後は僕がノイナの健康管理をしようか」
「え、そんな、悪いですよ……それに、ケーキ制限されそうで……」
「いやいや、ノイナの好物を制限したりしないよ。摂取カロリーを計算して、必要な運動量を算出して……夜に頑張ってもらうだけだから」
「ひぇ……」


 それはそれで恐ろしい。今日はこんなにケーキを食べたから、一晩中えっちして消費しようね、なんて笑っていいのかそれとも恥じらえばいいのか分からない想像が頭をよぎる。


「あ、そういえば、さくらんぼ」
「ああ、そうだね」
「懐かしいですね。二人でさくらんぼのへたを口で結ぶ挑戦をしたのを思い出します」


 お互いのパフェに柄のついたさくらんぼがあるのに気づいて、ノイナはぱくっとそれを口に含んだ。ゲブラーとスタールのおかげで強制的にキスの技術を高められたのだ、それくらいできるだろうと思いながら。


「んむむ……」
「ふふ」


 難しい顔をして口をむぐむぐするノイナに、スタールは表情を綻ばせている。それから一分くらい経ってようやく、ノイナはギリギリ結ばれているそれを口から取り出した。


「できました……」
「ずいぶん上達したね」
「もう昔の私とは違うんですよ」


 誇らしげにそう言えば、スタールも同じようにさくらんぼのへたを口に含んだ。そして。


「できた」
「……ほんと、超絶テクですよね」


 口に入れてから二秒くらいしか経ってないのに、柄は綺麗に結ばれている。いったい彼の口の中はどうなっているというのか。


「気になるなら、今からノイナで実演しようか?」


 ぶんぶんと首を横に振れば、少しだけスタールは残念そうにする。けれど、こういうことは夜にしないとねと言って、顔を真っ赤にするノイナを見つめた。

 軽くお腹を満たしたところで、二人は次なる目的地に向かおうとする。せっかくだからここは自分が提案しようと、街中を見回しながらノイナは言った。


「次は……じゃあ、映画、見に行きましょうか! 見終わったらコーヒーでも飲んで、のんびり感想交流しましょう。今の時間なら、二本くらいは見られると思いますし」
「そうだね。新作なら僕もまだ見たことないものもあるだろうし、ノイナの好きなジャンルのものを見ようか」
「せっかくのデートですからね、ここは恋愛映画と……うーん、ホラーかな?」
「なるほど」


 どちらも別の意味でドキドキのジャンルだ。あまりホラーが得意でないながらも、脳内で怖いなら手を握ろうなんていうドラマのワンシーンを思い出したノイナは、なんとなくその二つを挙げたのだ。
 一つ目の恋愛映画はなかなか面白かった。いわゆるラブコメというやつで、夫婦漫才のごとき掛け合いをする男女が、最終的にはロマンチックに結ばれる様は見事だった。

 だがもう一つの作品、これが問題だった。


(ホラーって、もしかしてこれは……)


 なんとなくノイナが察知した嫌な予感は、見事的中してしまう。
 サスペンスホラー系のその作品は、日常に潜む殺人鬼たちに襲われる、というものだった。そしてその殺人鬼の一人が、よりにもよってピエロの仮装をしていたのだ。


(ピエロは苦手だって……)


 心配になったノイナは、震えているように思えたスタールの手を強く握った。
 幸いにもピエロの殺人鬼は序盤のやられ役で、そこまで長々と登場はしなかった。ラストの無駄に壮大な殺人鬼とのバトルに、序盤中盤のホラー要素は軽く吹っ飛んだ気がする。


「先輩、大丈夫でしたか……?」


 映画が終わってすぐにそう声を掛ければ、スタールは普段と変わらない表情で頷く。


「あれ、思ってたよりも大丈夫でした?」
「そうだね。思ってたよりも、大丈夫だった」


 そう言って彼はノイナの手をしっかりと握って、その手の甲にキスをした。


「ノイナが手を握っていてくれたから、平気だったよ」
「それは、よかったです」
「ふぅ……なかなか刺激的な映画だったね。時間もちょうどいいくらいだし、話しながら移動しようか」


 時計を確認すれば、既に夜の七時だ。お昼も早かったせいか身体は空腹を訴えている。夕食を食べるにはいいタイミングだろう。


「前は一緒にディナーに行けなかったからね。今度こそ、美味しい料理を食べに行こう」
「ええ、ぜひ!」

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