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番外03-01 夜の指導もお任せあれ
しおりを挟むスタールのいる生活にもすっかり慣れてきたころ。
新調した広いベッドで就寝しようとしていたノイナは、すぐそばで横になっているゲブラーの唐突な質問に驚いた。
「ノイナはさ……あいつのこと、どう思ってるの」
「あいつって、スタール先輩?」
「ん」
最近のゲブラーとスタールは、仲良しこよしとまではしかないが、以前と比べればだいぶ仲良くなったとノイナは思っていた。
まだスタールに対してコンプレックスを抱くこともあるようだが、ゲブラーはその感情をうまく向上心に変えている。もともと鍛錬で運動神経の悪さを克服した人物だ、努力することは得意なのかもしれない。
「なんでそれを知りたいの?」
「だって、あのとき、スタールに告白されたとき……ノイナ、泣いてたでしょ」
「まぁ……ん?」
なんでゲブラーがそれを知っているのかと思うも、そういえばあの告白のあとすぐゲブラーが現れたのだった。彼はずっとあの場面を見ていたのだろう。
「そうだね、あのとき……、先輩の想いに応えたいって思ったのは、本当だよ」
「……」
「でもね、つらかったけど、それでもあのときの選択を後悔したことはない」
そっと彼に身を寄せれば、ゲブラーは優しく彼女を抱きしめる。
「ゼルスとこうして愛し合って、穏やかな日々を過ごせて……なにより、ゼルスが幸せだって言って、毎日楽しそうに笑ってくれるのが、一番嬉しい」
「ノイナ……」
恋しそうに顔を近づけてきた彼にキスをして、ノイナは笑みを浮かべた。彼の表情は本当に嬉しそうで、その顔を見るのがノイナの幸せだった。
「俺も、あのとき、ノイナに選んでもらえて、本当に嬉しかったんだよ」
「うん」
「やっと、俺を望んで、愛してくれる人が、できたんだって……」
その時のことを思い出したのか、彼は少しだけ涙ぐむ。
人から望まれず、愛されても裏切られ、そんな経験ばかりしてきた彼にとって、ノイナがスタールではなく自分を選んだという事実が、なによりも救いだった。
「だから、ノイナが世界でいちばん大事、ノイナは俺の全部なの」
「重いなぁ」
「そんなの分かってるって」
むっとしながらも、ゲブラーは口元を緩めてまたキスをしてくる。すりすりと身体を擦り合わせて、じわじわと昂っていく下腹部を押し付けてくる。
「今が、幸せ。ノイナが俺を愛してくれる今が、ずっとそばで、毎日一緒にいられることが……そのせいか分かんないけど、スタールも、前ほど嫌いじゃ、ないんだ」
「うん」
「あいつ、ほんと諦めが悪いよね。俺だったら、あんなフられ方したら諦めたくないって思う前に、普通に死んじゃうよ」
「確かに」
同意すればゲブラーはまた頬を膨らませる。熱のこもった瞳で見つめ合えばまた唇が触れて、舌が伸びてくる。
「ん……ほんとにさ」
ねっとりとノイナの口内を味わって、ゲブラーは小さく呟いた。
「あいつは、強い奴だよ」
「すっかり懐柔されちゃってるね」
「されてないよ。俺はノイナ一筋だし」
「ふふ、そうだね」
それでも、素直にスタールの想いの強さを認めるゲブラーに、自然とノイナは嬉しくなる。
ゲブラーは優しい人だ。不器用で、今までは人に気を遣えるような状態じゃなかったから見えなかっただけで、本当の彼は誰かをちゃんと大切にできる人なのだ。
そしてきっと彼は、スタールの想いを尊重したいと思っている。
「スタールには恩も、あるからさ……だから愛人のこと、多少は、考えてて」
「うんうん」
「自分でも、よく分かんない。嫌かもしれないし、大丈夫かもしれないし……」
「そうだね。無理しなくてもいいんだよ」
「ん……でも」
ゲブラーに認めてもらうために、スタールは誠意を見せ続けてきた。
料理の指導もそうだが、ノイナと同じ空間にいながらも決して彼女に触れないように振る舞ってきた。もちろん、以前は頻繁に口に出していた好意も禁じて。
スタールはゲブラーに理解してもらおうとしていたのだ。決して、ゲブラーからノイナを、彼にとって何よりも大事な幸福を、奪いに来たわけではないのだと。
「……とにかく、俺の気持ちは、ノイナに伝えたから。ノイナに強制したりは、しない」
「いいの?」
「あいつの想いに応えたいって思ったんでしょ。なら、俺はノイナの気持ちも、大事にしたいから」
くすぐったいくらいの愛情に、ノイナは緩みきった笑みを浮かべる。
こういうとき、ゲブラーに大事にされているんだと実感する。ノイナのことが本当に愛おしくて、大切にしたいんだと、そんな想いが伝わってくる。
「そうだね……みんな幸せになれたら、嬉しいよね」
「ん……」
「急がなくていい。ゆっくり考えよう。きっと、いい未来は待ってるから」
そう優しく諭して、ノイナは自分を求める彼に応えた。
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