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37-01 懐柔のための秘策をご用意

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「ということで先輩、お世話になりました」


 ゲブラーと手を繋いだ状態で、ノイナは近くのホテルを訪れた。そこで腰を休めつつ、じっくりゲブラーと今後の方針について話をする予定だった。
 だがその前にロビーで待機しながらスタールに電話をかけていた。彼にはいろいろとお世話になったと、お礼を言うためだ。


『無事に説得もできたようで安心したよ。怪我はしてないかい?』
「はい、二人とも無傷です。あ、ゲブラーの依頼とか、大丈夫でしたか?」
『ああ。僕のほうで依頼人は説得しておいた。多少手荒になったけど、大丈夫だよ』


 スタールの手荒とは少し想像できない。けれど彼ならたとえ素手だろうとなんでもこなせてしまうだろうと、そう思ってノイナは小さく笑みを浮かべる。


「本当にありがとうございます。先輩が手伝ってくれなかったら、こんなに早くお迎えできませんでした」
『大事な後輩の一大事だったからね。先輩としてひと肌脱がせてもらっただけさ』


 そう優しく言ってくれるスタールに、ノイナは内心で何度も感謝を伝える。スタールからはもらってばかりなのだから、いいかげん次は自分もなにか贈り物をしようと思った。


『それと、部屋の用意はしておいたから』
「はい、ありがとうございます!」
『それじゃあ、また次に会える日を楽しみにしてるよ』


 軽い挨拶を交わして電話は切れる。小さく息をついて携帯をしまったノイナは、そこでジトっとした目で自分を見つめるゲブラーに気づいた。


「あいつとまだ連絡取ってるんだねぇ……」
「任務の電話なんですけど。ゲブラーを探すのにいっぱいお世話になったんですよ?」


 それに先輩なのだから会話もするし電話くらいするだろう。そんな説明をしても、ゲブラーは不満そうな表情を崩さない。


「あのねノイナ、言っておくけど、俺すっごい嫉妬深いから」
「知ってますよ」
「束縛も激しいよ。ノイナには一分一秒だって惜しんで俺だけを見てほしいの」
「分かってますって」


 言われずとも、ゲブラーの愛が重たいことくらいは分かっている。今思えばあの常識はずれの値段のネックレスも、彼の愛の重さを表していたのだろう。


「浮気なんてした日には監禁するからね」
「し、しませんよ」
「そうかな? 俺の壊滅的家事スキルでもてなしながら毎日エロエロな生活送ってもらうから、絶対に浮気しないでよ」
「壊滅的家事スキルのほうが恐ろしい……」


 もしかしたら料理に食べてはいけないものが混ざっているかもしれない。もしも監禁されるような事態になっても、家事だけはさせてもらおう。そんなことをノイナは考えた。


「まぁ、こんなところで立ち話もなんですし、お部屋に行ってお話ししましょうか。本部についたらマシェット長官との面談があるんですから、その対策を立てないと」
「……話すだけなの?」
「話が終わったら、好きなことしていいですよ」
「やったね」


 緩みきった笑みを浮かべて、ゲブラーはノイナの頬にキスをしてくる。すっかり以前の彼に戻れたようで、安心した様子でノイナも彼にキスをした。
 誰がどう見てもカップル、という様子で寄り添い合いながら、ノイナはスタールが用意してくれた部屋に入った。彼が用意しただけあって高級感溢れる、実に良い部屋だ。


「お、っと」


 部屋に入った途端ゲブラーに抱きしめられ、ノイナは思わず声を上げてしまう。なにかと思えば深く唇が交わって、いやらしく尻を摩られる。


「んっ……もう、堪え性がないんですから」
「寂しかったの。もう……二度と会わない、つもりだったから」
「それも、そうですね」
「だからノイナ……えっちしよ?」


 もしかしたら軽く依存症に片足を突っ込んでしまっているこの男には、ちゃんと健全な娯楽を教えてあげたほうが良いのかもしれない。そう思いつつも、ノイナは小さく頷いた。


「あっ、焦らないで、ベッドに行きましょう」
「んふふ……ノイナもすぐに俺とえっちしたいんだ?」
「はいはい、そうですよ。ほら、ちゃんと歩いて」


 くっつきながらよろよろと歩き出して、ときおり我慢できなさそうにキスをして、二人はなんとか寝室の扉をくぐった。そしてベッドに上がる前に服を脱ごうと、お互いの身体に触れたとき。

 ガチャリと、金属音がした。


「へ?」


 声を上げたのはゲブラーで、彼は自分の右手首にかかっている手錠を硬直しながら見つめた。その間にまたがちゃりと、背中側で左手首にも手錠がかかる。


「え、あれ、ノイナ?」


 ぐいっと後ろに倒され、彼はちょうどそこに置いてあった椅子に座り込んでしまう。すぐさまその背後に回ったノイナは手錠を椅子に固定すると、同じように彼の足を紐のようなもので椅子の足に縛り付けた。


「ちょっと、なにこれ、って、この椅子全然動かないんだけど!」


 力いっぱい立ちあがろうとしても、椅子はびくともしない。まるで床にがっちり接着されているみたいだ。


「ね、ねぇ、ノイナ、これ、なに……?」


 無表情で自分を見つめるノイナに、ゲブラーはじわじわと表情を暗くしていく。
 まさか彼女は機関に、なにか特殊な任務を与えられたのではないのか。さっきの電話はスタールとそれを相談していたのではないのか。
 また裏切られるのか。そんな想像に、彼は言葉を失ってしまう。それも相手が心から信用した愛しい人ならば、そのショックも相応に大きかった。


「……はぁ」


 そんな彼の表情を見たノイナは、じわりと頬を赤くして大きく息をついた。そしてゲブラーの顔を手で固定すると、無理やり奪うようなキスをする。


「ん、んんっ」


 彼女からはしなさそうな舌を突っ込んだキスに、ゲブラーは小さく呻き声を上げる。ぬるぬると絡みついてくる舌はいつも彼がする動きによく似ていて、しかし不意打ちだったがためにモロに食らってしまう。


「んっく、んっ……ふ、んん……」


 長ったらしいキスは唐突に終わって、舌が離れるのと同時に舌先に糸が伸びる。ノイナがそれをいやらしく舐めとる様を呆然と見つめていると、今度は口に指を突っ込まれる。


「ゲブラー、いいですか?」
「んぅ、んっ」


 未だに混乱したままの彼は、少しだけ恥ずかしそうにしている彼女の顔を見つめた。そして形のいい唇がゆっくりと、言葉を紡ぐ。


「今から、貴方を犯します」
「んん!?」
「覚悟してくださいね」


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