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32-01 明るい場所へ

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「ノイナの手料理……」


 幸せそうにノイナが作った朝食を食べて、上機嫌なゲブラーと共に彼女は家を出た。せっかくの休日なのだからまたデートをしようと、特にプランもなく街中を歩き回った。


「新しいピアスでも探しに行きますか」
「そうだね。可愛いやつにしよう」
「それ、ゲブラーもつけるんですよ?」
「いいの。ノイナとお揃いなら、ノイナに似合うことのほうが大事でしょ」


 揃いのピアスをお互いの片耳につけるのも慣れたもので、気がつけば一緒に選んだピアスの数も増えていた。その日は前に貰ったブレスレットもつけて、全身ゲブラー選定コーデでの外出だった。


「ゲブラーは、あまりアクセサリーつけてないですよね。なにか理由あるんですか?」
「普通に邪魔だから」
「まぁ……お仕事的には、邪魔かな?」


 飾り立てる必要などないほど、ゲブラーは人目を引く美男子だ。だが女性物のピアスも普通に似合ってしまうのだから、別につけていてもいいのにとは思う。


「特に興味もなかった感じなんですか?」
「うーん、綺麗だとは思うけど、別に自分につけてもなって」
「なのに、私のプレゼントはアクセサリーなんですね」


 何気なくそんな質問をすれば、ゲブラーは少しだけ表情を固くする。恥ずかしそうに視線を逸らすと、ノイナの手首にあるブレスレットを指で撫でた。


「女の子は、こういうのが好きって聞いたから……」
「あぁ、なるほど」


 あのネックレスも、ゲブラーにとって初めて女の子に贈る物、だったのだろう。だからこそ、定番も定番のアクセサリー、それもジュエリーを選ぶことになったのだと。
 本当に情事以外のことに関しては女慣れしていないんだなと、そう思ったノイナは嬉しそうに笑った。だがなぜ笑われるのか分からないゲブラーは慌てて、なにがおかしいと弱々しく睨みつけてくる。


「ゲブラーの最初の贈り物を貰ったのは私なんだなぁって。そう思ったらなんか、……嬉しくて」
「! そ、そうだよ、俺がいくらノイナにお金かけてると思ってるの」
「なんだか貢がれてるみたいな気もしますけど……ありがとうございます、ゲブラー。金庫にはしまわずに、今後も大事に身につけますよ」


 その言葉にゲブラーは満足げに微笑んだ。そして少しだけ表情を引き締めると、ノイナと向かい合う。


「ノイナ、ちょっと目閉じて」
「え?」
「いいから」
「はい……」


 なにをするつもりなんだろうと思いながら目を閉じれば、左手を握られる。ふにふにと指を摘まれているなと思えば突然唇に柔らかいものが触れて、びくりと肩が揺れてしまう。


「もういいよ」
「なっ、なんですかお店の中で……」
「ふふ、顔真っ赤。かわいいね、ノイナ」
「からかわないでください……」


 キス待ち顔でもさせたかったのかもしれない、そう思ったものの、キスと同時に指になにかが嵌められる感触があった。だが手を見てもなにも残っていなくて、ノイナは不思議そうに首を傾げる。


「さて、これとこれとこれ、買っていこうか。明日はこれつけてお出かけしよう」
「明日もですか? どこに行きます?」
「明日はいっぱい服を買いに行こう。前は時間かかったけど、今回は素早く、ノイナに似合う服を見つけてあげるから」


 いくつかピアスを見繕って、次なる娯楽を探して街を歩き回る。偶然通りがかった店でゲーム売り場を見つけると、電子機器からボードゲームに至るまでずらりと並んだ棚を二人は楽しげに眺めた。


「よっ、と」


 お試しで置かれていた子供向けの輪投げを軽々とクリアして、ゲブラーはしてやったり顔をする。こういうのを見ると、ゲブラーはそこそこ、いやかなり運動神経が良さそうだ。


「ゲブラー、運動神経いいんですね。そういえば前、街中のチェイスで私を追い抜いたんでした」
「まぁね。死ぬほど鍛錬したんだから、運動神経良くなってないと困るよ」
「あれ、元からではなく?」


 てっきり、無敵の暗殺者などと呼ばれている彼のことなら、その運動神経も生まれ持った才能なのかと思っていた。確認を取るようにノイナが質問すれば、ゲブラーは苦笑を浮かべる。


「ガキのころの俺は、もうめっちゃ運動神経が悪かった。身体が大きくなったら多少マシにはなったけど、ひどい鈍臭さだったんだよ」
「そうなんですか」
「そ。ノイナには絶対に見せられないレベル。今は全然違うけどね」


 かっこよくなったんだよと、ゲブラーはノイナに笑いかけてくる。その笑みに不覚にも可愛いと思ってしまって、ノイナは彼の頬に手で触れた。


「ん……ノイナが、俺のことかっこいいって目で見てる」
「残念、可愛いでした」
「えぇー、可愛いってなに。可愛いはやだ、かっこいいって言って」
「かっこいいですけど、ゲブラーは可愛いって思うことのほうが多いです」


 正直に言えばゲブラーはムッとした表情をする。けれどなにを思ってかノイナを後ろから抱きしめると、棚に置かれたビデオゲームのソフトを指差しながら猫撫で声で言う。


「ねぇノイナ、俺これで遊びたい。買って買って~」
「えぇ? 本体、家にありませんよ?」
「じゃあ本体も買っていこ? おっきいやつは俺が買ってあげる。ノイナの家のテレビに繋ごう」


 可愛いと言われたからか、可愛さをゴリ押ししてくるゲブラーに、ノイナは笑ってしまう。こんなふうにおねだりされれば断れるはずもなく、ノイナは軽率にゲーム機を家に設置することになった。

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