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『……、好き』
「――――」
『それじゃ、待ってる』


 ぷつりと切れた電話が、ノイナの手から零れ落ちる。
 そのままノイナは数秒間静止した。頭の中は先ほどのゲブラーの言葉が何度も反芻して、そのたびにじわじわと顔に熱が集まっていく。


「あ、頭でも、打っちゃったのかな……?」


 なにかの間違いかもしれない。未だに現実を受け入れられないノイナはそう呟きながら、一旦家に戻って支度を整え、指定されたホテルに向かった。
 そして部屋をノックして、ガチャリと扉を開けた途端。


「わぶっ」


 手を引かれるのとほぼ同時になにかにぶつかる。また罠かと思えばそれはゲブラーで、気がつけばノイナは強く彼に抱きしめられていた。


「え、えっと……おかえりなさい、ゲブラー」
「ん……」


 ようやく顔を上げれば、彼の顔が見える。そこに浮かんでいるのは。


「ただいま、ノイナ」


 嬉しそうな顔をして、ゲブラーはそのままノイナにキスをする。触れるだけのそれは何度もくっついて、物欲しそうに彼の舌が唇を舐めてくる。


「……なぁに、その呆けた顔。俺に会えて、嬉しくないの」
「え? えぇっと……なんか、びっくり、みたいな」
「びっくりってなに。俺がイケメンすぎて?」
「まぁ、イケメンなのは、否定しませんけど……」


 でしょ、とゲブラーはいつもの様子で返してくる。それに少し安心していると、彼は少しだけ不満そうに目を細めた。


「でも……もうちょっと喜んでよ」
「えっ、なにを……」
「なにをって、俺と会ったことに対して! 電話で、がんばって好きって言ったのに、なんでそんな淡白な反応なの、あり得ない!」
「えぇ……ご、ごめんなさい」


 むぅっと顔を顰めて、ゲブラーはむにむにとノイナの頬を摘んだ。けれどすぐにそれを止めて、悩ましげな表情で言う。


「……どうすれば俺のこと、好きになってくれるの」
「うぇ」
「欲しいものあるなら、買ってあげる。してほしいことだって、なんでもしてあげるから」


 優しく髪を撫でられて、またねっとりと唇が重なる。気がつけば全力で好意を表現しているゲブラーに、ただただノイナは硬直してしまう。


「あいつほど、俺は器用じゃないけど……俺だって、ノイナのためなら、なんでもできるよ」


 ようやく今になって、ノイナはゲブラーの言っていることを理解する。そして一気に顔が熱くなるのを感じた。


「……赤くなった」
「ひゃ、ぅ」
「かわいい……もっと好きって言ったら、好きになってくれる?」
「待ってください、ゲブラー……っ」


 このままでは心臓がもたない、そう思ってノイナはとっさに彼を止めた。気がつけばバクバクと心臓が壊れそうなほど脈動して、今すぐ喉から飛び出してしまいそうだった。


「もうちょっと、ゆっくり、ゆっくりしましょう、ね?」
「なんで」
「なんでもです!」


 なるべく穏やかに諭そうとするも、ゲブラーはまだ不満そうだ。どうしてそんなに急ぐのかと視線で訴えれば、言いづらそうにきゅっと口を結ぶ。


「だって……ゆっくりしてたら、ノイナ、他の男に目移りしちゃうかも、しれないでしょ」
「えぇ」
「だから早く、俺のこと好きになってもらうの。そしたらノイナは」


 強めに抱きしめられて、また顔が近くなる。ノイナと同じように顔を赤らめた彼は、熱のこもった目でじっと彼女を見つめた。


「ノイナはずっと、俺と一緒に、いてくれるでしょ?」
「……は、……はい」
「ん……じゃあ、えっちしよ、ノイナ。くっついてたら、シたくなっちゃった」


 ぐいぐいと腰を押し付けてくるゲブラーは、耳まで真っ赤になったノイナの頬に唇を寄せる。そのまま耳を舐め回して、甘く噛み付く。


「あっ、でも、これは、ノイナの身体が目当てってことじゃないから! ノイナとえっちしたいのは本当だけど、これはノイナのことが、すす、すっ、好きだから、えっちしたいって思ってるわけで」
「は、はい……っ」
「だから……いっぱいしたい」


 もはや言葉が出てこなくて、ノイナは静かに頷いた。それを見たゲブラーはぱっと嬉しそうに笑って、彼女を軽く抱き上げる。


「こんなことなら、お風呂入ってくれば良かったです……」
「じゃあ、一緒に入ろ」
「えっ、え、まぁ、いい、ですけど」


 こんな状態で一緒に入浴などしようものなら、絶対に身体を洗い終わってすぐ始まってしまう。そう思いながらも浴室に連れていかれ、ゲブラーに服を脱がされる。

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